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インコと文鳥を飼っていた
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ある日母とふと、 弟がいままで何回怒ったかという話になった。 私が知る限り4回、母も4回で、内3回は共通していたので、 おそらく5回は怒っただろうという結論だった。 これは滅多に怒らない弟が怒った時の、 不思議な話の一つ。 鳥を飼っていた叔父の影響で、 家でもインコと文鳥を飼っていた。 文鳥はすぐに怒って指を突くので、 私はあまり興味がなかったが、 弟は生き物が大好きで、熱心に世話をして小四の時は文鳥の雛を孵して、 叔父を驚かせていた程だった。 文鳥は弟にとても慣れていて、 母が誤って二羽も外に逃がしてしまった時、 二羽とも外で遊んでいた弟のところに帰ってきた事があった。 私はそれを目の当たりにして、 鳥は逃げても飼い主の所へ必ず戻ってくるものだと思った。 弟はその時不注意な母を怒ったりはしなかったが、 窓のすぐ側に置くのをやめて、 一つ奥の部屋へ文鳥のかごを移動させていた。 ところがまた母が鳥の水を交換する際、 不注意で今度はインコを逃がしてしまい、 そして死なせてしまった。 部屋の中だったので簡単に捕まえられると思ったのか、 母はインコを追いかけ回した。 ところが一向に捕まらないので、 押入から虫取り網を出してきて、 それで捕まえようとしたが、 柄の部分でインコを叩いてしまったのだ。 しかもそのインコは珍しいアルビノで、 元もと身体が弱く成長が遅かったので、 弟がスポイトでエサをあげたりしていた、 色が真っ白だったので 「しろ」と名付けて一番可愛がっていたインコだった。 学校から帰ってきた弟は呆然としていたが、 それでも母に文句一つ言わずに、 私と一緒にインコのお墓をつくった。 母はとても落ち込んでしまって、 もう二度とインコの世話をしないと弟に言った。 弟はそれを聞いて、 インコを一羽残らず学校に寄付すると言った。 学校で飼っていたインコは病気で死んでしまってだいぶ減っていたので、 以前からインコを分けてもらえないかと頼まれていたからだった。 こうして家からインコはいなくなったのだが、 それからしばらくの間、 いないはずのインコの鳴き声をが聞こえてきて、 私と母は怯えていた。 ある日、三人でテレビを見ている時、 突然聞こえてきたので、 私は思わず 「ほら、また聞こえた!」 と言ってしまって、 母を怯えさせてしまった。 失敗したと思ったがもう遅く、 母は沈んだ顔で台所へ行ってしまって、 私はいたたまれない気持ちになって弟の方を見た。 すると弟は立ち上がって窓を開けて、 またソファーに座って、天井を見上げて、 今度は部屋の奥から窓の方へ視線を移動させた。 そして 「出てった」と嬉しそうに言った。 その場では聞けなかったが、後で弟に尋ねると、 インコは死んだ日からずっと家の中を楽しそうに飛び回っていて、 みんなの肩に止まったり、 私の頭やテレビの上に糞をしたりしていたそうだ。 それを聞いた母は 「ごめんなさいね。本当にごめんね」 とインコのお墓に謝っていた。 そしてその日からインコの鳴き声は聞こえなくなった。 ところがそれからしばらく経った日曜の朝、 突然学校から電話があった。 それはインコが全てイタチに殺されたという内容だった。 弟は受話器を戻さずに、 朝ご飯も途中で学校へ走った。 私と母もすぐに後を追った。 学校の鳥小屋は金網で作った大きな小屋で、 地面の部分が破られていて、 地面には鳥の羽と死骸が散らばっていた。 みんなで学校の裏にある古い桜の根本に、 インコのお墓をつくった。 雨が降ってきた時、 警備員のおじさんも手伝ってくれた。 私達は10時頃家に帰ってきて、 母は弟を抱きしめて泣いてしまった。 私も一緒に抱きついて泣いたが、 弟は泣かずにただ黙って俯いていて、 昼ご飯も食べずに部屋でぼーっとしたり、 好きなアニメをみたりしていた。 夕方頃、突然「ガンッガンッ」という大きな音がして、 あたしと母が驚いて弟の部屋へ行くと、 たぶん蹴ったか踏んだのだろう凹んだゴミ箱が、 弟の足下に転がっていた。 母は慌てて弟を抱きしめようとしたが、 弟はその手を激しく払いのけて、 「もおっ!」とか「なんで!」とか何度も怒った声を出しながら、 ゴミ箱を拾って凹んだ部分を一生懸命元に戻そうとしていた。 母は弟から強引にゴミ箱を奪い取って、 弟を抱きしめようとした。 弟は母からゴミ箱を奪おうとしたが、 母は弟を力ずくで押し倒した。 弟はなおも暴れて、 二人で30秒くらい格闘して、 やっと大人しくなった。 弟のそんな姿を見たことがなかった私は、 ただ呆然と眺めていることしかできなかった。 弟は夜もご飯を食べてくれなかったので、 私と母も食べずにいたら、 9時頃部屋から出てきてみんなで遅い晩ご飯を食べた。 そして夜なかなか寝付けないでいた時だった。 急に弟が起きてベッドの階段を下りたので、 オシッコかな?と思ったら、 弟は部屋の窓を全開にした。 その時同時にインコの鳴き声が聞こえて、 私は一瞬身を強ばらせた。 インコの声は1~2分続いていたが、 私は慣れていたのか、 それ程怖いとは思わなかった。 インコの声は段々小さくなり、 弟が窓を閉める音が聞こえた。 弟はそのまま階段を上がって、 ベッドで静かになって、 私もいつの間にか眠ってしまった。 また母を怯えさせるわけにもいかないので、 私は黙っているつもりだったが、 母が 「夕べインコちゃんがさよならを言いに来た夢を見たのよ」 と言ったので驚いた。 今思えば、 あれは弟を元気づけようとした母の嘘かもしれないが、 その夢は、私と母と弟が草原を歩いていると、インコが沢山やってきて、 みんなの肩や頭にとまったり、頭上をぐるぐる飛び回ったりしていたらしい。 その中にちゃんと「しろ」もいたので、 母は「しろ」に「ごめんなさいね」と謝ると、 「しろ」は弟と似た声で、 「気にしないでいいよ。そんなに痛くなかったしさ。 じゃあねー、バイバーイ、またいつかねー」 と、妙に気さくというか陽気な言い方で、 青い空に消えて行ったという夢だったそうだ。 その言い方が面白かったので、 私は思わず吹き出してしまった。 弟もくすくす笑っていたので、 私はその場で昨夜の出来事を弟に言った。 すると弟は微笑みながら 「なんだ、起きてたんだ」 とだけ言った。 その次の日また文鳥が卵を産んで、 雛は無事に孵って、その子はまだ元気に生きてます。
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