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嘘つきの話
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大学の頃に出会った奴で、よ~く嘘をつく奴がいたんだ。 ただ、人を貶めるとかそんなんじゃなかったから、 『面白い奴』みたいな感じで結構人気モンだった。 で、結構そいつが霊を見たっていう話をよくしてたんだ。 勿論、俺らは「またはじまったよwww」という感じで聞いてたんだけど、 なかには「マジでっ!?」って興味を示しちゃう奴もいるんだよね~。 いつもならその嘘つきも「マジwマジw」って感じで終わるんだけど、 その時その話に興味を持ったのが女の子だったからか、 「じゃあ、幽霊見に行く?」って言い出したんだ。 その子は勿論喜んで快諾。 (あんな怖い目にあうとも知らずに…) 嘘つきと仲の良かった俺も勿論同行させられ、 嘘つき曰く「確実に見れる」という廃アパートへと向かった。 まぁ実際ただのドライブ感覚だったんだけどね、俺の場合。 だから正直、怖いとかっていう感覚はこれっぽっちもなかった。 しかも、嘘つきの言う事だし、到着して 「うわ~、あそこに居る~」 「ねっ!見えた?」 みたいな感じで終わるんだろうと思ってた。 そんな事を思いながらも、いよいよ現場に到着……足がすくんだ…。 雰囲気がね、もう尋常じゃない。 車から降りる事すら躊躇ってしまう、そんな場所だった。 「じゃ、行こっか」 と、平然と車から降りる嘘つき。 「冗談じゃない!!」 と思った俺は、 「不法侵入になんじゃね?」 とか言ってなんとかやりすごそうと思ったが、 「大丈夫」 という嘘つきのなんの根拠もない一言に説き伏せられてしまった。 そこで、さぞやビビってるだろう女の子に同意を求めようとしたが、 意外にも「じゃ行こ!」と行く気満々の様子。 腹をくくって敷地内へと足を踏み入れた。 プレッシャー。 とてつもない程のプレッシャーを感じた。 よく霊が居る場所に行くと体が重くなるとか聞くが、まさにこの事だろうと直感した。 勿論、俺今までは霊を見た経験がない。 それでもここは絶対に出る。そう感じた。 敷地内に入ってからアパートまでの距離は約20M程だろうか、 一歩足を踏み出す毎に恐怖感が増していく。 そんな俺を尻目に、嘘つきと女の子は何事もないように進んでいく。 溢れ出そうな程の恐怖を抑えながらも二人の元に駆け寄り、 なんとかアパートの入り口まで辿り着いた。 そしていよいよアパートの中へと侵入しようとしたその時、 嘘つきが予想外の言葉を発した。 「俺、徐霊とか出来ないからね」 ……恐怖感がより一層増した。 俺の中では、霊が見える=霊に対するなんらかの対応策がある、 という固定観念があったからだ。 逃げ出したくなった。 俺の中でこの嘘つきは、少なくとも霊が見えるという事に関しては本当だろうと、 なぜかこの少ない時間で確信していた。 だから、何かあってもこいつがいればなんとかしてくれるはずだと、 この状況下での心の拠としていたのだ。 しかし、そんな考えは脆くも崩れさった。 それは俺だけではなく女の子も同じ考えだったのか、 その言葉を聞き、急に泣きそうな声で「もういい~帰る~」と言い出し、 さすがに嘘つきも「戻るか」と言ってくれた。 そして、今来た道を戻り出口まで半分程に差し掛かった時、 俺の持つ懐中電灯の明かりの先に突然それは現れた。 アパートの敷地内へと入る幅3~4Mの門の端に、 白く明らかに人の形をしたそれが居た。 間違いなく確信した。霊だと。 血の気が一瞬にして引いた。 瞬間、直ぐ後ろの嘘つき達を見た。 女の子は嘘つきの体に顔を押し付け、声を出してはいけないと思ったのか、 「ッグゥッ…ウッ」 と鳴咽していた。 しかし、嘘つきは何事も無いような顔で 「見える?行こ」 と、女の子の体を支え出口に歩いて行った。 「ちょwwwお前www……!!!」 力の入らない足腰をなんとか動かし、 情けない事に嘘つきの体にしがみつき背中に顔をうずめて出口に辿り着いた。 「着いたよ」 と言う嘘つきの声にも、俺はうつむいたまま車に乗り込むのがやっとだった。 女の子はまだ泣いていた。 そりゃそうだ、俺だって泣きそうだ。 「もう居ないよ」 と言う嘘つきの言葉も耳に入らず、 結局その場を後にするまで一度も顔を上げる事が出来なかった。 暫く車を走らせ明るい場所に着き、 女の子も泣きやんだところで、やっと俺も落ち着いてきた。 「何、あれ?」 と何かを知りつつも嘘つきに聞いた。 予想通り 「何って、霊だよ」 って笑みを浮かべながら答える嘘つき。 それを聞いてまた泣き出す女の子。 「憑いてきてない?」 と言う俺に、嘘つきはこんな事を話してくれた。 「俺が今まで見た霊ってのは、走っておっかけてきたり、ましてやとり憑くなんてのはない。 だいたいが動かずにその場に居るだけ」 さらに、 「多分、大体が死ぬ直前のままの格好かな? 例えば事故で亡くなった人なら、道路に倒れたままとか・・・ あっ、一度だけ踏み切りに飛込んで行く霊を見た時があるけど、あれは不気味だ!」 などと話してくれた。 結局、嘘つきもハッキリとした事はわからないらしい。 「じゃあ、話しとか出来るの?」 という問いには、 「無理。すくなくとも俺はね。もしかしたら出来る人も居るかもしれんが、 俺はしたいとも思わんね」 と言っていた。 まだまだ色々と聞きたい事があったが、 まずは肝心の先程見たものについて聞こうとした。 しかし、女の子がこの話をしてまた泣き出すといけないので、 その場はその話をするのはやめた。 それに、先程見た霊がどんな霊なのかも大体予想がつく、 というかどんな亡くなりかたをしたかをだ。 アパートの入り口には大きな木があった。これで十分だった。
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