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山中の小屋で暮らす夫婦
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1991
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遠い昔の話ではない。 ふもとの村を離れ、 山中の小屋でひっそり暮らす夫婦が居た。 元々は、病気がちの妻のため、 薬効ある温泉の近くで暮らす事が目的だったという。 彼らの小屋に数頭の猿が近付くようになった時期や、 その理由は分からないが、 猿が彼ら夫婦を警戒していないのは確かなようだった。 餌付けをしたわけでもないが、 小屋の近くに猿が居ついていた。 病気がちだった妻も元気になり、 山仕事に出かけるまでになった。 妻は妊娠し、臨月を迎えた。 梁に縛り付けた荒縄につかまり、 立ったままでの出産となったが、 これは、当時としてはそれほど珍しい事ではない。 珍しかったのは、出産に猿が立ち会っている事だったろう。 部屋の中に何頭かの猿がおり、 じっと出産の様子を見つめていたが、 この肝心な時に夫は出かけており、不在だった。 猿の助けなどあるはずもなく、 妻は一人で出産に臨んでいた。 やがて赤ん坊の頭が見え、 いよいよ生まれるという頃合だった。 一頭の猿が近付き、 妻の股間から生まれつつある赤ん坊に手を伸ばし、 それを引き出した。 赤ん坊が泣き声をあげ、 猿が赤ん坊の周りに集まり、 大騒ぎとなった。 妻はその場に倒れこみ、 次にすべきことに備えて息を整えていた。 猿が騒ぎ立てる声で、 赤ん坊の泣き声が聞こえないほどだったが、 赤ん坊は産まれてすぐに元気な泣き声をあげており、 ひと安心だった。 赤ん坊を囲む猿の輪が崩れ、四方に散り、 なお騒ぎは続いていた。 やがて猿の騒ぎが収まり、 赤ん坊の顔を見ようと、 妻は身を起こしたが、 そこに居るのは猿ばかりだった。 顔と手を血だらけにした猿。 猿は後産の胎盤まで平らげ、 引き揚げていった。 話してくれた老婆の語り口が、忘れられない。
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