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見たことの無い風景
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子供の頃、幼稚園の時に体験した事 。 誰かに打ち明けたかった。 俺(今32才♂)が幼稚園の頃、埼玉県の吉川って所に住んでた。 今はどうだか知らないけれど、 当時は田んぼの真ん中に団地がちょっと固まってるぐらいで、 夜なんて街灯もほとんど無く真っ暗だった。 団地の敷地から一歩出ると、地平線が見えるぐらいだったのよ。 俺は子供の頃、良くラップ音を聞いたり、 仕事に出ていたはずのオヤジの声に呼ばれたと思ったら、 そのオヤジから電話がかかって来たりとか、 幽霊見たりだとか不思議な体験が色々あった。 今でも知らない町を散策(趣味w)してる時に、 ふと脚を止めると花束のまん前、なんて事が良くある。 あの頃に比べたら今は何も起きていないに等しいが。 んで、ある日夕暮れ。 いつもの公園で遊んだ帰り、いつものようにいつもの曲がり角を曲がった。 その角の先には俺の住んでいた棟があって、家までほんの少しのはずだった。 薄暮ってのは、(俺の経験上だけれども)真夜中よりも妖しいことやモノに出くわすから、 俺はせき立てられるように、安全で暖かい家を目指して一生懸命走ってた。 んで、角を曲がった瞬間、俺は立ち尽くした。 そこにあったのは見慣れた団地の棟ではなくて、 見たことの無い風景だったからだ。 そこにあった風景は、絵であれば詳細に書けるぐらい 網膜に焼き付いているんだけれど、 文章で上手く表現できるのかわからない。 突然目の前に開けた空間にはなんと言うか、 黄砂でかすんだような、明るい黄色に茶を混ぜたような色の空が広がり、 空間の3分の1ぐらいの所に地平線があって、 空との境目はまるでエアブラシをかけた様にぼやけていた。 地面は今思えば砂のような感触で、子供用の薄い靴の底がとても冷たかった。 右手側には、太い鉄色のパイプを複雑に絡み合わせた建造物があって、 左手側には、ガラスかそれに近い透明の棒で組まれた、 少しいびつで不規則に組み上げられた、 巨大なジャングルジムのようなビル、もしくはビルのようなもの。 冷たい風が強く吹いていたけれども、砂や埃は舞っていなかった。 寂しい光景だった。 砂と地平線と、明るいけれども茶色の空と、無機的な二つの建物しかなかった。 後ろは振り向けなかった。 怖かった。 同じ風景が続いていたら多分耐えられなかったと思う。 そのまま、一、二歩踏み出した。 もう家には帰れないと思った。 そうしたらコケた。 コケてヒザ小僧をガツンとぶつけたのは団地の階段だった。 夢中で駆け上がったよ。 (俺の家は5階だった) 家に飛び込むと、ベッドに飛び込んで布団を頭からひっかぶって泣いた。 怖かったんじゃなくて、無性に哀しかったら。 声を絞ってただひたすら泣いた。 その体験以降、俺の中で何かが欠け落ちた。 この直後、小学校に上がって、俺は千葉県の習志野市に引っ越すんだが、 小学校と中学校の記憶がほとんどない。 母親に言わせると、すぐ風邪を引くヤワな子供になってしまったらしく、 さらにはあまり笑わなくなったそうだ。 「あんた、あんなに可愛かったのにねぇ。どうしたのかしら」 とよく笑われるよ。 九九を覚えたり文字を覚えたりするのも極端に遅かったらしい。 ようやく記憶が確かになるのは高校以降で、 あの体験以前の幼かった俺と、その時から今の俺には、 埋めようの無い断層がある。 でも、それはしょうがない。 いまさら取り戻せる性質のものではないから、諦めるしかない。 ただ、あの風景。 寂しくて、哀しいあの風景が何であったのか。 そして、あの風景に落として来てしまった俺の一部が何であったのか。 今でもその疑問は頭から離れる事が無い。 何かとても大事なものだったように思うのだけれど・・・ 時折、深い喪失感がみぞおちを抉ることがある。 そのせいかしらんが、俺はまだ毒男w
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