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兄と私
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喫茶店。優しい珈琲の薫りが私を包む。外は雨が降っている。ここ2、3日降り続いている。そろそろこの地域沈むんじゃねーか?とか思っていたけど、どうもそんな展開にはなりそうもない。カランコロン。喫茶店のドアが開く音がした。そして、スーツ姿の男が入ってくる。「あー、濡れた濡れた」男は入ってくるなりそう呟き、店内を見回す。私と目が合うと男は、手を降ってくる。「よっ、久しぶりだな。片割れ」「その言い方はヤメテよ、兄さん」「いやいや、しかし本当に久しぶりだな」「うん。三年ぶりくらいかな?」「うん?そんなに経つか…」私達の会話が終わった頃に、ウェイターが注文を取りに来た。「じゃあ、私はモンブランで」「うげ…相変わらずそんな甘いもんよく喰うな…」「兄さん、甘いもの駄目だもんね」「ああ。人間の食うものじゃないね。あ、俺は珈琲」「言い過ぎだよ」お互いに注文を取った後は他愛もない話をする。「お前…痩せた?」「え?本当?」「いやいや、結構見た目で分かる程度には」「嘘」「いや、本当だって。元々線細いから分かりにくいけど」「それ、誉めてんの?」「いやー、悪い悪い。これ言うと怒るんだったな」兄はケラケラと笑い出す。ウェイターが先程の注文を持ってきた。「え…と」私達の顔を見比べて、ウェイターは困惑している。どちらがどちらの注文をしたのか覚えてないようだ。ったく。しっかりしろ。バイトくん。「ああ、バイトくん。俺が珈琲な」あ、兄とネーミングセンスが被った。「あ、はい、スンマセン」そう言いながら、バイトくんは私にモンブラン。兄に珈琲をそれぞれ配った。茶色く染まった髪の毛が、目立つバイトくんだ。大学生かな?名札には『真鍋』と書いてある。と、特に関係のないバイトくんについて描写してみた。「あ、美味い」「珈琲なんてどこも一緒じゃないの?」「馬鹿。全然違うよ」兄は通ぶった表情で珈琲を啜る。勿論ブラックだ。私はパクパクとモンブランを食べ進む。甘い。「珈琲、一口頂戴」「やだよ、気持ち悪い」「なんだよー」「ああ、もうわかったよ…」「あざーっす」「って、おぃ!!砂糖入れんなよ!!しかも何個入れてんだ!!」「あんま、美味しくない」「当たり前だボケェ!!」怒り心頭の兄だった。「これからまた仕事?」「ああ。社長業は忙しいよ」「大変だね」「お前はどうなんだ?デザイナーとして」「うーん…まあ、私が全力の30割出したらパリコレのデザイナーとして活躍出来るって所まで来たね」「つまり全然駄目なのな」「大胆な解釈だね」「一般的な解釈だ」実際は、デザイナーとして失敗して借金抱え込んじゃって首回らねーなー、って状況である。正直、超ヤバイ。お先真っ暗である。「ま、お互いに頑張ろうぜ」そう言って兄は店を後にする。おそらく、車を使うのだろう。私も兄に続いて店を出る。「これからどうしよー」先日、アパートに所謂裏の人、つまりは借金取り的な人がやって来てからは、マンガ喫茶暮らしだ。「お金の工面も言いそびれたし…」今日呼び立てた理由を口にする。しかし、兄に借金してることをばらしたくはない。あくまでも私達は対等でいたい。「どーするかー」雨に濡れながら、喫茶店のガラスに映る自分の姿を眺めた。兄そっくりな自分がそこにはいた。考えうる限り最悪な解決法が頭に浮かんだ。私は静かに兄の携帯にコールした。「もしもし。兄さん?ごめん、もう一度会えないかな?」「オッス。おら、柚木。刑事だぞ」先日訪れた喫茶店にて、俺は刑事である若い女性と顔を合わせている。「ええ。先日頂いた名刺にそう書かれてましたね」「あら。持っていて下さったのねー。物を大事にする殿方って素敵」「何やらフラグを立ててしまった様子」「安心してください。私ルートはある猟奇的殺人鬼専用なので」「それはまた難儀な人生を送っていますね」「先日、上司にも言われましたわ」「ハッハッハッハ」「アッハッハッハ」愉快な人だな。「さて、話を戻しますが、先日、デザイナーである貴方の双子の弟さんが殺害されました。ご存知ですよね?」柚木刑事は真面目な声色で尋ねてくる。「はい。まあ、兄なので」「で、私の聞きたい事は、その事件に関して何か知らないかという事ですわ」「あー、先日も申したように、俺は知りませんねー。残念ですが」「先日と言うと、あの激しい夜の事ですね」「はい。貴女が俺を轢き殺しかけたあの夜です」「激しい雨でしたから視界が効きませんでしたね」「星の綺麗な夜でしたよ」「ハッハッハッハ」「アッハッハッハ」「そうですか。では、今回も無駄に時間を取らせてしまったようで…お詫びに何か奢りますわ」「え?いいんすか?」「それでは…モンブランをひとつくださいな」
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