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新聞の臨時配達員
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新聞配達をしていた時の少し怖かった話。 販売店の専業(正社員)じゃなく臨時配達員といって、 人手が急に足りなくなった場合に依頼されて配る仕事だ。 ある時、都内の販売店から依頼があって、俺はそこへ派遣された。 早速、明日の朝から配達するため配達順路を覚えようと、 店から順路帳を借りて、 空回り(実際に配達しないで順路を覚える作業)を始めたんだ。 さして難しい順路でもなく、順調に順路とりは進んでいたんだけど、 一番最後でおかしなことに気が付いた。 順路で示されている一番最後に配る場所が、 順路上で言えば中盤辺りに建っているマンション。 一番最後に回らなくとも、 中盤を配っている途中でこのマンションに寄って 配達すればいいはずなのに、どういうことだ?と。 この順路帳というものには種類があって、 手書きの物とPCで印刷して出す物がある。 そしてPCの方は、入力ミスで順路がおかしくなることが稀にある。 今回の順路帳はPCの方だった為、 俺はこれも入力作業のミスだろう…と判断し、 空回りを終えた。 まぁ、今思えばこれが失敗だったんだが… そして翌朝、順調に配達を続け、例のマンションが近くなってきた。 当然、最後に配ってたら時間のロスだから、 途中で寄って配達していこうと俺は思った。 こういうマンションを配る時は、一番上までエレベーターでいって、 その後に降りながら各部屋へ配達が普通だ。 俺はどこでもやっているように、エレベーターに乗り上へ向かう。 その時、最上階へ着く前に5階でエレベーターが止まった。 こんな時間に上へ行くエレベーターに5階から誰か乗るのか?だが、 開いた扉の前には誰もいない。 誰かボタンを押したけど階段で行ったのか、何にしても、 その時の俺は大して気にせず配達を続けた。 それから1週間くらいかな、何事も無く配達をし続けていたんだけど、 そのマンションを配る時はいつも昇りの時に5階で止まる。 マンションの中には、防犯か何かで 夜中は勝手に一定の階で止まるようになってる所もあるし、 そこもそうだと俺は思ってた。 また何日か経ったある日。 上の階で新聞を入れ間違えたことに気付いた。 面倒だが入れ直しに行くしかない。 俺が上へ行くためエレベーターの前に立ったその時、 『↑』ボタンを押そうと手を伸ばすと、 押してもいない『↑』ボタンが勝手に点いたんだ。 おかしい、どういうことだ?そう思った時、俺はハッとした。 …ここは…5階じゃないか? まさか、今まで毎日5階で止まってたのは、 防犯云々じゃなくこれがその理由なのか? そう思っているうちにエレベーターが到着し、扉が開く。 何やら嫌な予感。配達でかいた汗を凄く冷たく感じた。 …だが、俺は仮にも配達のプロの臨配員だ。 嫌な予感を振り払って俺はエレベーターに乗ると、 入れ間違えたと思われる部屋のある階のボタンを押した。 そして扉が閉まりエレベーターが動き出すが、いつもと違う。 目的の階近くになってもエレベーターは減速せず、 目的の階を通り過ぎる。 おいおい、どういうことだよ…マジか…何でだ…? その時になって膝がガクガク震えてくる。 そんな俺をよそに、エレベーターは最上階まで行くと止まり、扉が開く。 俺が震える足をどうにか踏み出し、エレベーターの外に出て、 何気なくエレベーターの方へ振り向いたその時だった。 エレベーター内に1人の女がいた。 マズイ…これはどう考えても人じゃない… どうすればいい…どうすればいい…? そうこうしている内に女が歩き出し、 動けない俺へ真っ直ぐに向かってくる。 もう俺の目の前。息でもしていれば呼吸が感じられそうな位置まで 女は近付いてきている …ダメだ…終わった… だが、そんな観念した俺のことなど無視するかのように、 女は俺の身体をすり抜け歩いていった。 ハッと女が歩いていった方へ視線をやると、歩く女の後姿が見える。 そして施錠してある屋上への扉の方へ歩いていき、 その扉も俺の身体の時と同様にすり抜け、姿を消した。 そこまで見たところで俺は腰を抜かし、その場へ座り込んだよ。 その日の昼、俺は販売店の責任者へ今朝見たことを話した。 すると責任者は、 「順路通りに配らなかったのか…そうか…」 と溜め息をはいた。 責任者の話によると、 その女は以前そのマンションの5階に住んでいた住人。 ある日の深夜。5階からエレベーターに乗り、 当時は施錠されていなかった屋上へ行き、 飛び降り自殺をしたとのこと。 それ以来、深夜の2時から4時の間、 エレベーターは必ず5階で止まるようになり、 その女の霊が度々目撃されるようになった。 その為、女が目撃される深夜2時から4時を外す為に、 そのマンションの配達の順番を一番最後に回したそうだ。 それならそうと最初に教えろと… まぁ、理由を知れば気味は悪いが、 変なものを見ないのなら配るのに支障はないからね。 とは言え、今まで何人もの配達員が辞め、 その販売店のその区域はいつも専属で配る人間がいないとも聞いた。 この仕事をしている時はこういうことがそれなりにあるけど、 これは一番厳しかったよ。 今まで零感だと思ってたのに、そのものを初めて見ちゃったからね… 今ではいい?思い出だ。
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