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糸
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十年以上経つので私の話を投稿します。 小学生の時に兄と私と友人数人で、 地域で有名な公園によく遊びに行ってました。 そこは他校と私たちの小学校の双方の真ん中にあるので、 他校であろうと仲良く一緒に遊んでいました。 ある夏休みの日。 近くにある市民プールに行って、 帰り道にその公園で、 それぞれ親に作ってもらったお昼を食べて、 他校の学生も数人あつまり始めてきたところで、 彼らとともに探検ごっこをすることになりました。 その公園の真ん中には川が通っており、 その奥は鬱蒼とした森となっています。 川と言っても、 横幅はあるのですが、 水はあまり流れておらず、 足元がぬれても構わないなら渡れるぐらいの深さです。 その森を真っ直ぐ上って行くと山に入るのですが、 山の少し前に高速道路が通っている為、 山と公園をつなぐ森の中に、 トンネルのような空間が出来ているのです。 つまり、上に高速道路が通っている為、 そこだけ空が見えず真っ暗になっているのです。 そこを私達は、 『山の穴』と呼んでいました。 とりあえずはそこまで、 川を挟んで二手に別れ上っていこう、ということになりました。 私は兄と友人(女の子)と、 他校のA君B君と一緒に、 他の友人達は、 他校の人たちとそこへ向かいます。 そこから私達は森を突っ切り、 山の穴を目指して歩き出します。 少し歩くと川の幅が大きくなりだし、 さらに進むと、向こう側の友人達は小さくしか見えなくなります。 そこからケモノ道に入り出し、木々も増え始めます。 彼らも同じように森に入る為、 互いの姿は確認出来なくなり、 あとは山の穴を目指すのみ。 A君やB君とも仲良く話しながら、 私達は山の穴に到着することができました。 少し遅れて、 反対側から声が聞こえます。 「お~い、着いたかぁ?」 と、山の穴に響いてきます。 「こっちはだいぶ前からいるぞぉ~!」 と返します。 「お~い、一人そっちに行くからな~」 と、誰かが伝えてきます。 少し待っても、 誰も来る気配はありません。 「だれもこないぞー」 と更に返します。 相手からはうんともすんとも返事がありません。 「お~い、誰もこないぞー!!」 と更に大きな声で言います。 返事はありません。 上からは ゴォー、ガタン、ゴォーと 車が通る音が聞こえてきます。 「お~い、なんか言えよー、聞こえないぞー」 と兄が叫びます。 その瞬間に、 ゴトン、ドオオオンと音がします。 山の穴にその音が反響されて、 更に大きくガーーーン、ボーンと音がします。 私達は無言になり、 不安でいっぱいになってきました。 「どうする、もどろうか」 とA君が言い、 兄も友人もそうしようと言うので、 私とB君はそれに従い、 今来た道を戻り始めました。 山の穴の上から煙が出ています。 上で何があったのか。 私達は特に気にせず、戻ります。 ケモノ道を再度戻っている最中に、 後ろから 「お~い、こっちにいかないのかー?」 と声が聞こえたので、 あれ?友人達は川を渡ってこっち側に着ていたのか、と振り返り、 山の穴に向かい声を掛けたのです。 「さっきから誰も返事せんから戻ってたぁ」 と。 「お~い、遅いぞぉー」 と、 「早く山の穴に戻って来い」 と、急かす様に何度も大声で言ってくるので、 私たちは走りながら戻りました。 山の穴の上、 高速道路の側面の壁から、糸が垂れてます。 (大きさ的にはロープと思って頂いていいぐらいの大きさですが、 何故か糸としか思えないのです) 4本の糸が垂れており、 その下の端に白い旗の様な物がヒラヒラと揺れていました。 道路の壁の向こう側からは、 ヒューヒューと風の音が聞こえ、 同時に 「お~い、さっきも二人そっちにいったぞー」 と、山の穴の奥から声が聞こえてきました。 見ると、B君は震えています。 私は兄のシャツをギュっと掴んでました。 糸がスーっと垂れて、 下にゆっくり落ちてくるように見えるのです。 その糸の端で、 白い旗がユラユラゆれてます。 兄が後ずさりしはじめ、 A君は歩みを止めて、 旗の下のヒラヒラを睨み付けます。 「お~い、おくにいかないのかー」 と、山の穴から声が聞こえてビクッとなる私達。 来ないのかでは無く、 更に奥にいかないのかと、 私達を呼びます。 一緒にいた友人が叫び、 「だああれええ?みんなそっちにいるのお?」 と問いかけるものの、 山の穴からは風が吹き抜けるのみ。 降りてきている糸がユラユラとぼやけて、 先ほどより太くみえます。 ユラユラしていた旗が膨れて、 丸みを帯びてるように見えます。 4本の糸の内1本が、 壁をシャクトリムシの様に這い上がっていきます。 他の3本はゆっくり下に落ちてきます。 クネクネ、フラフラしながら。 「おい、こっちぃこい」 と、凄く近くから声が聞こえたのですが、 変な事に、真上から声が聞こえてくるのです。 聞いたこともない女の人の声でした。 それを聞いたB君は逃げ出しました。 私は逃げていくB君の背中を眺めたまま、 どうすればいいか混乱して、 立ち尽くしてしまいました。 怖くて兄を見たとき、 兄とA君が糸に絡まってみえました。 友人は必死に、 兄を何かか守るように引っ張っていました。 それをみて私は逃げだそうとしました。 だけど、 兄が何かに連れて行かれる気がして、 数歩走った後に振り返りました。 振り返ると、 そこには兄の顔が逆立ちの様に上下逆で目の前に。 聞いたことも無い様な声で、 「ギャアアギャアギャアア」 と叫んでいます。 私はその場で腰を落としてしまいました。 兄は吊られた状態なのか、 体が逆さまだったのです。 B君は振り返らずに、 一目散に逃げて行きました。 友人は必死に兄の名を呼んでいます。 A君は、いつの間にか居なくなってしまいました。 私は、神様、お母さん助けて、 と心で祈るのみで、何もできません。 少し前の方では、 友人が兄の体に巻きついた糸を必死で千切ろうとして居ます。 そこで、兄が二人居ることに気づきます。 「ギャアアアアギャアアアアア」 と叫ぶ、糸から垂れてる兄と、 「この離せ!!」 と、友人と必死で糸を引き千切ってる兄です。 目の前の兄は顔は、 悶絶としながら涎を垂らし、 髪の毛を下に逆立てて、 「ギャアギャアアヒャヒャ」 と、叫びとも笑いともつかぬ顔で私を見ています。 私はそれを避けて、 友人が必死で糸から引き剥がそうとしている兄に、 泣きながらしがみ付き、 「お兄ちゃん、お兄ちゃん」 と、糸を必死剥がしました。 どうにか兄から糸をとって自由になると同時に、 「お~い、こっちー、こっちに皆いるぞー」 と、山の穴からA君の声が聞こえます。 私達は怖くて顔を見合わせて、 公園に向かって逃げ出そうと振り向く。 そこには先ほどまで居た逆さづりの兄はおらず、 代わりにユラユラと空中に浮いた、 虫のように白く膨張したボールを下に垂らした糸が、 空から垂れています。 それを恐る恐る避けて行こうとすると、 ボールの様な何かが 「ウヒャヒャアアヒャアアヒャアアアヒャヤアア」 と、気でも違ってる人の様な笑い声をあげて、 ゆっくりと地面に下りてきます。 私達は急いで公園へ向かいました。 後ろから兄が、 「後ろ向くなよ! ○○(私に)、○×(友人)。 後ろ向くな。逃げろ!」 と言い、私は 「お兄ちゃん、お兄ちゃんいる?」 と泣きながら、 兄が近くに居るのか、 又捕まってはいないかと心配になりながら兄を呼びます。 兄はすぐに 「居る。居るから! いいから振り向くな。 とにかく公園に逃げろ!」 と、後ろから声を掛けてくれます。 友人が、 「大丈夫。 私が××(兄)の手をもってる。 大丈夫だから公園に!」 と、 私の手も取って一緒に公園まで逃げます。 森を突っ切って公園に入ると、 B君は心配そうにこっちを見て、 ウロウロしながら震えていました。 私達が走ってくるのが見えると、 彼は悲鳴をあげ逃げ出し始め、 それを見て私達も後ろにまだついてきてるのだと思い、 手を繋いだまま逃げました。 人が集まる広場まで出ると、 B君が大泣きしながら他の知らない子達に、 「何があったの?どうしたの?」 と慰められており、 私達もそこまで行き、 三人で腰を落として泣き始めました。 しばらく泣き、 落ち着きはじめると、B君が 「Aは?Aは?」 と聞いてきます。 兄が 「山の穴で他のやつらと会ったみたい」 と説明し、皆の帰りを待つことに。 更にしばらくすると、 反対側に行っていた友人達が、 広場に私達を見つけ近づいてきました。 「お前らどこに行ってた?Aは?」 と、兄やB君に聞いてきました 。 「え?A君が、 『山の穴でお前らに会った』って言ってたよ?」 と、兄が混乱しながら彼らに伝えます。 彼らはA君と会っていないとの事なので、 私達は 「山の穴で声をかけたでしょ?」 と尋ねました。 しかし、 彼らは何度も叫んで私達を呼んだが、 返事が無かったから、お菓子を食べ、 その最中に道路からゴーンと音がして、 怖くて逃げてきたらしい。 その後、 上の道路から煙や救急車の音が聞こえたので、 事故があったのかとこちらへ戻ってきたとの事でした。 そこで私達は、 今あった事を全て彼らに伝えて、 「A君は山の穴で彼らに会ったと言っていた」 「私達は怖くて逃げた」 とも言いました。 私達の友人は、 兄が怖がるとこをあまり見たことなくて、 そんな嘘もつかないだろうと信じてくれましたが、 他校の友人達は、 「なんだそれ?ガキじゃあるまいし」 と一笑して、B君に 「A君探しに行くぞ」 と声を掛けて、 無理やりつれて川に戻りました。 私たちも川までは付いて行きましたが、 森に入るのは流石に怖く、 「ここで待ってる」 と言うと、 「もういいよー、 お前らの学校は怖がりが多すぎる。 ガキばかりじゃねー」 と笑いながら、 他校の彼らだけが、 森へ向かってA君を探すことになりました。 そこで急に、 向こう側に行っていた私達の友人の一人が、 B君の背中に指をさしながら、 「おい、いかんほうがいいんじゃないのか」 と言いだしました。 彼らは振り向きながら、 何があるのかとB君の背中を覗き込みます。 言った友人は、私や兄、 一緒に行った友人の背中を、次々と覗き込みます。 私達は何があるのかと、 兄や友人の背中を交互に見てみますが、 別に何もありません。 しかし、他校の友人達は、 「うわぁ、な、なんだ?」 とか、 「ひー」 と腰を下ろしだし、 B君は自分の背中を見ようと、 首を後ろに向けたのですが、 見えるはずもなく、 クルクルとその場で回り始めました。 彼は 「何?何なの?」 と、友人達に泣きそうな顔で聞いており、 私達は、その場で足踏みをしている彼の背中を凝視しました。 まずは私が小さな悲鳴をあげて腰を落とし、友人もそれに続き、 兄だけは、声は出したものの、ソレを掴もうとB君に近づきました。 私と友人は兄を止めて、 B君に服を脱いで見るように言いました。 B君は急いで上着を脱いで、 地面に叩きつけるように置きました。 そして上着の背中に、 蠢く小さな虫のような、 糸のような何かを見つけました。 それはさっき私たちが見た、 上から垂れてきた糸と同じような、 それを縮小したような物で、 糸の先にヒラヒラと小さな旗がついていました。 それはクネクネ、ウネウネと蠢いて、 シャクトリムシの様な虫にしか見えないのですが、 旗が膨張したり、平ぺったくなったりを繰り返しており、 膨張したときにA君の顔に見えるのです。 一瞬旗に戻り、一瞬A君の顔になる。 体は糸ノママ、ウネウネとしたまま。 それがB君の上着にくっついていたのです。 B君はあろうことか、 うわぁーとその糸を靴で踏み潰して、 蹴りながら服から除けようとしました。 何度も何度もソレを踏み潰してるうちに、 膨張した時のA君の顔が潰れて、 旗の状態にもどらない代わりに、 平ぺったくなりました。 それでもウネウネと動き続けていました。 私達は呆然とそれを見ています。 B君以外は何をどうするべきなのかわからないから、 いつの間にかB君は笑ってました。 必死な顔が、 ニヤニヤしてるように見えただけなのでしょうが、 どうにも笑って見えるのです。 その行為を永遠に続けるのでは無いか?と思えるぐらいに、 何度も何度も糸を、虫を、A君に見えてしまうソレを、 踏み潰しては蹴りあげて、除けようとしていました。 数分後に、 その糸が服についてないことに気づいたB君の友人が、 B君を止めて、服を拾い上げて、確かめた後に地面を見回すのですが、 近場にはいくら探しても、糸は落ちていませんでした。 その後、 彼らは山の穴に近づくことを諦め、 川でB君の服を洗っていました。 私達はどうするでもなく、 ただ呆然と傍らに座ってそれを見てました。 彼らは怖さでなのか、 又はA君を探せないことへの心苦しさからなのか、 涙を流しながら川で服を洗っていました。 A君は、 夕方4時になっても5時になっても、 帰ってきませんでした。 他校の生徒の一人がその間、 学校から先生を一人つれてきました。 その先生に今までの事を全て話しましたが、 私達の言うことをウンウンと聞いたあとに、 兄に私達の学校の先生を呼んでくるように言いました。 その後、私達の先生に事情を説明しました。 同じようにウンウンと聞いた後、 他校の先生と何事か話しあい、 私達にとりあえず帰るようと指示し、 一人の先生は学校に戻っていきました。 多分、応援というか、 他の先生を呼びに行ったのでしょう。 夜に先生から電話があり、 翌日に学校に来るように言われました。 親も色々と先生から話を聞き、 一緒に明日学校に行くから今日は寝なさいと、 私と兄に厳しい顔で言いました。 翌日、学校に私達と友人、親達が呼ばれており、 これから他校に行くとの事で、 みんなで他校に向かいました。 他校ではB君を始め、 昨日遊んだ友人とその親が集まってました。 それから、他校の先生が口を開きました。 「A君が昨日亡くなりました。事故だと思います。 詳細は親御さんに伝えますので、生徒の皆さんはこちらへ」 と、職員室を指差しました。 私は涙が止まりませんでしたが、 母は私と兄の頭をグッと押した後に引き寄せて、 「しっかりしなさい。 先生に何があったかをちゃんと言っときなさい」 と、送り出しました。 職員室では昨日あった事を伝えたのですが、 先生達は信じているのかいないのか、 何度も何度も同じ事を聞いてきます。 「A君をいじめたんじゃないんだな? A君に何もしてないんだな?」 と。 私達は『いじめ』の言葉が出てくるとは思いませんでしたので、 何度も説明を繰り返しました。 先生達は最後にわかったと言い、 親が来るまでは、ゆっくりと泣きじゃくる私達を宥めていました。 家に戻ってから、 先生に言ったことと同じことを親にも言いました。 それと、何故いじめと思われたのかを聞きました。 それは知らなくて良いとの事で、 母は私達に嘘をつきました。 「A君が死んだのが川だったから、 落ちたのか落とされたのかわからなかったんだって」 と。 私達を心配しての事だったのでしょう。 その後、親に連れられて、 みんなでA君の葬儀に行きました。 棺の中を見ることは出来ませんでしたが、 A君の母親は私達に憎しみを持っているかのように、 「よく来れたわね!顔をよく出せたわね!」 と、皆の顔を憎々しげに見て、 それぞれの両親にも毒を吐いてました。 A君の父親がそれを制して頭を下げたので、 私達も頭を下げ、親は謝りながら帰っていきました。 さて、何故、私達がこれほどまでに彼の母親に憎まれたのか。 何故、親が嘘を言ったとわかったのか。 何故、先生が私達にいじめじゃないのか?と言ったのか。 すぐに答えはわかりました。 それはA君の死因でした。 ローカルニュースで何度か取り上げられたのです。 彼の母親が、 マスコミにでも駆けつけたのでしょうか。 『小学生死亡、イジメが原因か?』 というような見出しで。 A君の学校の生徒に、 「A君はいじめられてたの?」 とインタビューするシーンが、 TVで何度も報道されました。 もちろん、 誰一人虐められてたと言う人は居ませんでしたが。 ニュースでは、 A君の死因は撲殺されていたそうです。 顔がぺしゃんこになってしまっていたそうです。 そのころには、イジメどうのこうのでは無く、 不自然な死因という感じで取り上げるようになっていました。 警察は事件・事故の両面で調べているいるとの事だったので、 不思議な死因を殊更に取り上げていたのかもしれません。 誰かに何度も何度も踏まれたかのように。 何度も何度も地面に擦り付けられたかのように A君は顔が潰れていたのだと。 これを親は、 一切私達に伝えていませんでした。 伝えられなかったのでしょう。 数日後の登校日に全校集会で、 「その公園の奥には近づかないように」 と、何度も校長先生や担任が言いました。 犯人がいるとするならば、 未だつかまってないからです。 それから十数年が経ち、 私達は何故かその話を頭から消していました。 まったく覚えていなかったと言う訳ではなくて、 思い出したくなかったのです。 後々の警察発表では、 事故ということになってました。 思い出したのはなぜかというと、 私と兄と、当時は友人だった兄の彼女が、 3人一緒にA君を見たのです。 兄と友人は、 中学卒業後から付き合いはじめました。 私達はそれ以降も、 3人でよく遊んでいました。 大学生になった私達はある日、 3人で車で買い物に向かっていました。 高速道路で都会のある町へ向かう途中、 事故があった為、渋滞になってました。 私達はインターを入ったばかりで戻ることも出来ず、 ただ車が流れるのを待つばかり。 少し進むと、 前の方に車が横転しているのが見えました。 山の穴のある位置の、 ちょうど上にあたる場所で、 車からはウネウネと糸が出てきていました。 クネクネと、 横転した車の窓から出てきているのです。 旗はヒラヒラゆれてました。 私は兄と友人を見たのですが、 二人とも唖然としていました。 車がすこしづつ進み、 事故現場の横を通ります。 前の車に乗っている子供が、 ウネウネしている糸を指さしています。 私達はクネクネしている糸を見ないようにしていましたが、 その子供の車の窓の横に白い糸が降りてきています。 子供は親に何か言ってるようですが、 前に座ってる彼の両親は、 何も見えてないのか振り向きません。 旗は膨張してきだし、 目を背けたかったのですが、 どうしても無理でした。 金縛りのような状態なのです。 膨張した旗が、A君の顔になってきました。 「ヒッ」 と悲鳴をあげてしまい、兄を見ます。 兄も真っ青になりながら、 車を少し進めました。 そのとき都合悪く、 CDを掛けていたのですが音が急に飛び始めたのです。 同じ音をずっと繰り返します。 「ギャーギャー、ギャーギャー。ナ、ナ、ナナナンデ、ナナナンデ」 と聞こえた気が。 前の車が流れ始めて、 私達も事故現場を通り過ぎようと少し車のスピードを上げました。 A君の顔をした糸は、 旗に戻ったりしながら、クネクネとゆれながら、 助手席の窓の横を、逆立ちのよう状態でこちらを見ています。 CDは飛び飛びで、あまりの恐怖から 「ナンデ、ボクガ」 と聞こえてしまい、 心臓が飛び出しそうになり、 兄は震えながらも車を運転し、 加速をつけてそこから逃げ出しました。 私は真横にいたクネクネしたものを視界の横に捉えつつ、 悲鳴が出そうな口を押さえて、真っ直ぐに前を見続けます。 視界の端では、糸の下についてるA君の顔が、 旗に戻るように平ぺったくなりだし、 真っ赤になりながら、萎んでいく様を捉えていました。 通り過ぎたものの、怖さから運転も儘ならず、 そのまま高速を降りて、 近くにある魔よけで有名な神社に向かい、 御払いをしてもらうことになりました。 それ以降、私達は糸を見たことは無いのですが、 あの糸は何だったのかと今でも不思議です。 ロープぐらいの太さなのですが、 糸としか思えないで糸と言ってます。 あれは死んだ人の魂なのか、 それとも何か別のモノなのか。 未だに理解ができません。 その高速道路を通る事は、 それ以降ありません。 そこは未だに事故が多い場所で、 その糸のせいなのか、 もしくは山の穴が何か関係するのか。 結局結論はわからずじまいですが、 私が体験した話です。 原因も山の穴に何かあるのか、 その場所にあるのか等も一切わからないままですが、 これ以上の体験はありません。
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