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感応式信号
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よく一緒に遊ぶ友達がいる。 そいつの家にオレが車で行って、 色々遊んで深夜2時3時に帰ってくるのがいつものパターンだ。 そんな時間に40キロほど田舎道を走って帰るわけだが、 途中一箇所気味の悪い場所がある。 道路の両側がうっそうとした林で、 街灯もない暗い道の途中に小さな交差点があり、 感応式信号がぽつんとついている。 とくに何てことない場所だが何が気味が悪いかというと、 その時間オレが通りかかるとよく信号が赤になるんだ。 でも車は出てこない。 前にも後ろにも車はなく対向車もいない。 いるのは止まってる俺の車だけ。 じゃ何に反応したんだよってなるんだが、 悪いほうに考えるとどんどん怖くなるので、 俺の中で答えを見つけていた。 誤動作。 もしくは車が来て反応したが、 深夜の田舎道なんで無視して通ってしまう人がいる。 で、信号が変わる頃オレが通りかかる。 これならありがちで納得がいく。 まあオレが怖がりなだけで、 この程度のことは普通に考えればなんて事はないんだよね。 そもそも霊感と呼ばれるものを俺は持っていない。 おかしな物を見たなんて経験は一度もない。 それ故か怖い話が好きでよくネットで読んでいた、 怖がりのクセに。 そのせいでこういう事も怖いと思ってしまうんだろう。 その日もいつものように友達と遊んだ帰り、 その信号に差し掛かると案の定黄色に変わった。 またか、と車を止めると一瞬車が軽く揺れた。 突風でも吹いたかな?と思ったが 木々も揺れず音もしない。 なんだったんだ?と周囲を見回し、 ミラーを確認する。 運転席側は何もない。 そして左の助手席側を見たとき、 ハンマーで心臓を殴られたみたいな ドカンという鼓動とともに全身が硬直した。 なんかいた。 ミラーになにか映ってる。 もう心臓バクバクでパニックになりそうだったが、 とにかくそれが何か確認しようとよく見てみた。 信号の明かりで照らされたそれは、 小さな子供の背中のように見えた。 こっちに背中を向けて肩をドアにくっつけて寄りかかり、 しゃがんでいるか体育座りしているように見える。 しかし頭が見えない。 首なし? いや、わずかに見えている。 うなだれているだけ? ミラーから目を離さずに、 オレはドアロックのスイッチを手探りで探して押した。 あれがドアを開けて入ってくるかもと思ったのだ。 「ガコン」という思ったよりも大きな音がして、 ヤバイ!と思ったのと同時に、 子供のうなだれていた頭がぴょこんと起き上がった。 起き上がった頭がゆっくりと横を向き始めた。 音のしたドアの方に。 ハッキリと見えた。 横顔の輪郭。 鼻があって口がある。 明らかに人の顔だ。 オレは思わず目を閉じ、 下を向き両手で顔を覆った。 『くそ!完全に人じゃねえか!』 と心で叫ぶ。 さっきまでは ゴミ袋かなんかが引っかかってるだけかもと思っていた。 こんな時はお経を唱えるといい、 という話はよくある。 しかしその時のオレは、 「もう勘弁してくれ、頼むから勘弁してくれ、ホントマジで勘弁してくれ」 と、バージョン違いの勘弁してくれを繰り返すしか出来なかった。 その祈りが通じたわけでもないだろうが、 その後何も起こらない。 よくある話なら、 バンバンと車を叩く音がしたり、 『ボクヲヒイタノハオマエダロ?』 なんて声が聞こえたりするところだが、 何も起こらない。 どれくらい経ったか、 30秒?40秒?何も起こらないので少し冷静になれた。 このままではいられない、どうにかしないと。 だが何をするにもまずは目を開けないと。 そうなると目を閉じた事に後悔する。 今まで読んだ車系怖い話のいろんなパターンが浮かんでくる。 目を開けたとき足にしがみついてたり、 フロントガラスにへばりついてたり、 助手席にすわってたり… どれも最悪の展開だ。 目を開ける勇気がでない。 その時ふと頭に浮かんだもう一つの最悪。 エンジンが切れる。 一度切れたら最後、 オレが行方不明になって話が終わる。 冗談じゃない、 今のうちになんとかしないと! とりあえず足をバタバタ動かして 何にも捕まれてないことを確認する。 大丈夫だ。 少し深呼吸し、 大きく息を吸い込んだところで 「コノヤロー!」 と気合を入れて目を開けた。 足元には何もない。 前、助手席、何もない。 そして助手席側のミラー… 何もない!? あちこち見回してみたが何もいない。 消えた?見間違い? オレは吸い込んだ息を一気に吐き出した。 もう信号は青になってる。 ここから離れないと…と思うのだが、 その前に別の可能性に気付く。 霊じゃなくて本当の子供だったら? 突然現れたあれに気が動転して霊的なものと思っていたが、 そもそもオレには霊感はない。 オレに見えたとしたら 生きてる普通の子供かも知れない。 あるじゃないか、深夜、 山道で子供が出てきてオバケかと逃げたら殺人犯から逃げてたって話。 さすがに殺人事件はないだろうが、 家から抜け出したとか、 特に障害のある子なんかだと何するか判らない。 何処で見聞きした知識か憶えてないが、 そういう子供は危機感があまりないとか。 何が危険かがよく判らないので思いも寄らぬ行動をするとか。 間違っていたらすまない。 とにかく、 車の前や下に入り込んでたりしないとも限らない。 降りて確認すればいいだけだがやはり怖い。 まだ霊の可能性もあるのだから。 しかし現実的に考えて、 車を降りて霊に出くわすのと、 降りずに発進して事故を起こすのでは、 どう考えても避けなければならないのは後者だ。 「どうせ見間違いだろ」 と自分に言い聞かせて、 ベルトを外してドアを開ける。 開かない!? 心臓がキュッと縮んだ気がした。 ドアが開かない、 もう一度ノブを引いたが開かない! そしてすぐに気付く、 さっきドアをロックしたことに。 アホかオレは。 外に出て上下前後左右を確認したが やっぱり何もない。 一応交差点の左右の道路も見てみたが何もない。 生きてる普通の子供ではなさそうだ。 じゃあやっぱりさっきのは… もういいや、さっさといこう。 車に戻ろうと歩き出した時、 突然景色の色が変わった。 慌てて振り返ると信号が黄色に変わっている。 うそだろ! もう一度左右の道路を見てみたが 車なんて何処にもいない。 だが一つ、 ある物を見つけてしまった。 「くそ!押しボタンもあったのか!」 信号柱の下に小さなランプが点いている。 歩行者用の押しボタンだ。 さっきみた子供の姿と何かが噛みあった気がして急いで車に戻り、 信号を無視して逃げ出した。 その場を離れてもまだ怖い。 実は乗ってました!なんて話もよくあるからだ。 10分ほど走ったところのコンビニに車を止めて、 ようやく人心地ついた。 店内へ入り読みたくもない雑誌を取り、 立ち読みする振りをして自分の車をちらちら観察する。 『ふざけやがって! 用があるなら出てきてみろってんだ!』 居もしない相手に心で話しかける。 明るい店内にいるので強気だ。 5分ほどそうしていたがやはり異常はない。 さすがに落ち着いてきた。 喉が渇いたので コーラでも買おうと手を伸ばしたがやめた。 だめだ、コーラなんて子供の大好物じゃないか! コーラに惹かれてついてくるかもしれない! そこで子供の嫌いなブラックの缶コーヒーを2本買った。 ばかばかしいと思うでしょう? オレも思う。 ただその時は必死だったんだ。 店を出て一本を一気に飲み干しゴミ箱へ捨てる。 気合を入れ直して車へ乗りもう一本をあけた。 『さあ、ブラックコーヒーも飲めないお子様はお帰りください』 と心で言い放ち家へと車を走らせた。 その後道中何もなく無事家までたどり着き、 今日は眠れんぞと思いながら ビール飲みつつネットしてるうちに いつの間にか眠っていた。 翌日、一つだけ確認しなければならないことがあった。 車系霊現象の定番『手形』だ。 左側の後部座席のドアを見てみる、が何もない。 埃だらけのままで何かが触れたり擦れたりした後もない。 一応全体をよく見たが何もない。 無いならいい、無くていいんだ。 あの子供は見間違いで信号は誤作動だった。 これで一件落着だ。 そこで昨日車に置きっぱなしにした荷物を取ろうとドアを開けた、 左側の後部座席のドアを。 カランと音がして何かが落ちた。 地面に落ちたそれをよく見てみる。 水色の丸くて平べったい大きめのボタンだ。 絶対にオレの服のものじゃない。 昨日は友達も乗せてない。 オレの車は友達の家に置いて、 友達の車で遊んだからだ。 どうしても昨日みた子供と関係あるものと考えてしまう。 子供服や園児服のボタンにどうしても見えてしまう。 もう素手では触れない。 車からティッシュを3枚取りボタンの上に乗せて、 そのままつまみ上げぐしゃりと包んだ。 今度はコレをどうするかだ。 その辺に捨てたら何か悪い事が起こりそうな気がする。 もうこうなったらしょうがない、 まだ明るい今ならばとオレは昨日の交差点へと向かった。 現場に着き車から降りて少し周りを見て回った。 もしかしたら 花束でも供えているんじゃないかと思ったが 何もなかった。 オレは昨日子供の背中が見えたあたりにいき、 ボタンをティッシュから取り出して林に放り投げた。 『返したからな、頼んだぞ』 と心の中で言い、 途中で買ったコーラをドボドボと道路の脇に流した。 傍から見れば ゴミと飲み物を捨てただけのけしからん野朗だが、 俺なりの供養のつもりだったんだ。 帰り道、 「子供に言い聞かせるには言葉が少し足りなかったかな、 ちゃんと伝わったかな?」 と少し不安になったが、 その後何もないので大丈夫だったのだろう。 友達とは今でも遊んでいるが その道は使わず遠回りして帰っている。
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