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神の子だと崇められていたお兄さん
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私の住んでいた島で私が小さい頃、 神の子だと崇められていたお兄さんが居た。 近所に住んでいたお兄さんで特に神々しいとか、 特別な存在だなと感じるようなものは無かった。 お兄さんは当時中学生だったと思います。 私達は小学1年生でよく遊んでもらいました。 道行く人がお兄さんを見かけると 拝んでから過ぎ去っていく様子は、 今でも鮮明に覚えています。 お兄さんに遊んでもらっている最中に、 私達の同級生の一人が素朴な疑問をお兄さんに投げかけました。 「どうして○○(お兄さんの名前)にいちゃんは拝まれたりするの?」 お兄さんは少し困った表情で、 「ぼう(僕)の事を神様か何かだと勘違いしてる人がおるんや。 変な人らやね」 誤魔化すようにそう答えました。 私達は「へぇー」と言うしかありませんでした。 家に帰ってからお兄さんの事を親にも聞いてみました。 親は「知らない」の一点張りで教えてくれません。 おじいちゃんに聞くと おじいちゃんは快く教えてくれました。 おじいちゃんから聞いた話と、 少し大きくなってから聞いた話を混ぜてまとめると、 漁師の息子であるお兄さんはある日、 父親の仕事についていくために漁へでかけます。 しかし島を出てすぐに大波に襲われ、 船舶事故に遭います。 被害者は約10名。 全員が漁師です。 死者は一人も出ませんでした。 私達の住む島の10kmほど先の無人島に皆が打ち上げられ、 食料も豊富なその無人島で漁師達は1週間生きながらえ、 砕石などを運ぶ大きな船に助けてもらったそうです。 お兄さんの父親だけが、 息子がいない!探してくれ! と島の周りを泳ぎまわり探してまわってたそうです。 はじめは親身になって探してくれていた漁師仲間も、 2日目にもなってくると、 息子さんを探す事よりも 食料の確保に必死で探してくれなかったそうです。 救助された船の休憩室で 漁師の一人がこんな事を言い始めます。 「そういえばお前の息子、 事故で溺れてる最中に見たかも。 脚にヒレが生えとったような…」 すると、他の漁師たちも次々に、 薄れてく意識の中で観音様に逢った事や、 人魚に救われた事などを話しはじめます。 父親は気が気じゃない様子だったらしく、 ノイローゼの一歩手前まで行っていたようで、 そんな話しに耳もくれず、 ずっと船の中で何かをつぶやいていたそうです。 父親が家につくなり 嫁さんへ息子の無念と懺悔の言葉を述べたあと、 食卓にはいつものように息子が座っていました。 息子さんは皆が救助される3日も前に、 約100kmも離れた本土の他県のリゾート地で発見されます。 釣りをしていた中年のおじさんに助けられ、 警察に届けを出し、 身元の確認がきちんと取れてから送り届けられたそうです。 感動の再会のあと、 夫婦は奇妙な4つの出来事と1つの悪巧みに翻弄される事となります。 1つ目の奇妙な出来事とは、 身元確認の際に電話に出た覚えがないという母親。 母親は旦那と息子の帰りを 涙ながらに待っていたそうです。 地元にも捜索願を出し、 息子の捜索願を取り下げられている様子も無かったので、 真実味がある事。 警察は確かに身元の確認をし、 名前の一致も確認しているということ。 2つ目は発見された時の息子。 第一発見者の釣り人の話によると、 海女のように海から歩いて出てきたそうです。 3つ目は息子の体験談。 どうやって助かったのかを尋ねると、 海の底が歩けるようになっていて歩いていていたら陸についた。 足が重くて寒くて陸に上がった途端に動けなくなった、 と言っていたそうです。 4つ目は、 息子がたまに別人のような口調で話すようになったそうです。 この現場には私は遭遇した事がありませんが、 ビーチから孤島にある神社までの約300mくらいを歩いて海に入っていき、 息継ぎをせずに孤島までたどり着いたお兄さんの姿を目撃したことがあります。 子供会のお祭りの帰りに偶然見てしまった光景です。 その神社は、 地元の漁師が水難事故を避けるために お祈りをする神社でもありました。 結局この謎が解ける事は無いままに、 お兄さんは島を出てしまいます。 出ていったのは 高校生くらいの年になってからだと思います。 お兄さんが島を出ると、 島民はお兄さんの事を まるで最初から居なかったように語りません。 一人のタバコ屋のおばあちゃんだけがお兄さんの事を覚えていて、 他の島民はお兄さんの話をすると嫌がります。 お兄さんが島を出て1年もしないうちに、 お兄さんの母親は言葉が話せなくなり、 父親はイカリに左腕を取られ、 命と引き換えに左腕を落としたそうです。 母親の方は言葉が話せないというより、 耳が不自由になったような感じで、 ろれつがまわらないという感じです。 父親の方は左ひじから先の腕がありません。 5年ほど前に タバコ屋のおばあちゃんが話してくれた事に関連があるかはわかりませんが、 誰もお兄さんの親が不幸になった事を哀れむ人は居ないと言いました。 あの夫婦は、 息子を神の子に仕立てあげ、 貢物をさせたので、 祈祷をしたにも関わらず 海難事故に遭ってしまった人に責め立てられました。 それから息子が出ていき、 出て行く前に島民の夢枕に立ち、 「私の事は今後語らないでください。 皆に不幸が降りかかります」 というふうな事を言ったそうです。 タバコ屋のおばあちゃんはそんな夢を見ていないそうですが、 夢を見たという人は何人も居たそうで、 島はその噂でもちきりだったそうです。 しかし夫婦が怪我をしてから、 その話題は暗黙の了解でされなくなったそうです。 タバコ屋のおばあちゃんは多分まだ生きてます。 以上です。
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