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山の麓のキャンプ場
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親父から聞いた怖いというよりは不可解な、まさに狐につままれた様な話。親父が若い頃、友人たちと山の麓のキャンプ場へキャンプに出かけた。テントを張り終えてキャンプ場内を散策していると、キャンプ場の奥から山へと登っていく小道を見つけた。道の入り口には何の表示も無かったが、獣道などではなく明らかに人が通っている道。親父たちは興味を惹かれ、ちょっとした冒険気分でその道を登ってみることにした。しかし期待に反して10分も登らない内に小道は行き止まり。 行き着いた先は、何かを祀っているらしい古い祠だった。古いとは言ってもきちんと手入れはされている様で、おそらくキャンプ場の人辺りが管理をしているのだろう。つまりこの小道は、祠の管理をする人が行き来するためのものだったのだ。その後キャンプ場に戻った親父たちは、バーベキューをやってたらふく食って飲んだ。しかし明るいうちから始めたせいで、片付けが終わっても寝るにはまだ早い時間だった。そこでなぜか肝だめしをやろうという話になり、昼間見つけた祠まで一人ずつ行って帰って来ることになった。四人いたので一人目が祠に証拠の品を置き、二人目がそれを回収、三人目と四人目も同様にすることにした。くじ引きで親父はしんがりになった。一人目と二人目は何事も無く終了。満天の星空に月まで出ていて道の周囲にはその明かりを遮るような木も無いため、懐中電灯無しでも歩けるくらいで全然怖くなかったらしい。拍子抜けしながらも出発した三人目が帰って来ると、「おい、この山には何かいるぞ」と言い出した。しかし、どうも怖がらせようとしている感じではない。聞くと、小道を登りだしたら道の脇の草むらをガサガサと掻き分ける音がついてきたという。最初は親父たちが脅かすためについてきたのかとも思ったそうだが、草の丈は人が隠れられる高さではない。「狸か狐か、はたまたイタチか。姿こそ見せなかったが逃げもせずずっとついて来てた」と。恐らくキャンプ客のおこぼれ目当てでこの辺に住み着いている奴で、ある程度人にも馴れているのだろう。ひょっとしたら祠の管理人からエサでも貰っているのかもしれない。すっかり和みムードで最早肝だめしという雰囲気では無かったが、三人目が証拠品としてライターを祠へ置いてきてしまったので、回収のために親父は予定通り出発した。小道へ入る際に友人たちから、「お前、バーベキューの肉の匂いがするぞ」「気を付けないと後ろからガブッとやられるぞ」なんて脅しをかけられたが、親父を含め皆笑っていた。小道を登り始めると、程なくして右後ろからガサガサと草を掻き分ける音が聞こえてきた。しばらく続いた音が途切れたかと思うと今度は左後ろから、次はまた右後ろからと、位置を変えながら音は親父についてきていた。音が途切れた時に後ろを振り返っても、道を横切る相手の姿は見えない。立ち止まれば音も止まる。チチチと舌を鳴らして相手の気を惹いてみても、こちらが止まっている間は息を殺してじっと様子を窺っているのか全く気配が無い。親父は「用心深いからこりゃきっと狐だな」なんて思いながら祠でライターを回収、帰り道も友人たちの姿が見える辺りまで音はついて来たそうだ。肝だめしを終えてテントに戻ってからも「あれは狸だ」「いや狐だろう」と音の正体の話で盛り上がり、夜が更けてもみんななかなか寝付かずにいた。そんな中、一人が「シッ、静かに」と声をひそめて言った。みんなが黙ると、テントの外から小道で聞いたあのガサガサと草むらを掻き分ける音が聞こえてきた。「おっ、タヌ公がおいでなすったぞ」「だから狐だって」「なるほどこれは小動物の音だな」「食べ物でも探しに来たのかな」ヒソヒソ声で語り合う間も、ガサガサと草を掻き分ける音はテントの周りをぐるぐると回っているようだった。深夜の珍客にテント内の空気も和む中、急に一人が緊張した様子で更にトーンを一段落とした声で言った。「ちょっと待て、テントの周りに草むらなんか無いぞ」場が凍りついた。テントサイトには所々草も生えてはいるが、掻き分けるほどの草むらに囲まれているわけではない。ガサガサと草を掻き分けながらテントの周りを回れるはずがない。それまで臆病だけど好奇心も旺盛な子狸か子狐のような可愛らしいものだと勝手に思っていた\"それ\"が、いきなり得体の知れない存在になった。親父もあの時自分が得体の知れない相手につけられていたことに今更ながら背筋を凍らせた。もう誰も言葉を発しない。ガサガサという音はまだテントの周りを回っている。誰も外を確かめに行こうとはしない。親父自身もそんな勇気は無かった。ただ息を殺し、テントの外から聞こえてくる音に全神経を集中させていた。どれぐらいそうしていたか、時間の感覚がなくなりかけた頃、不意にガサガサという音が止んだ。次の瞬間、目の前が真っ白になるほどの光と音というよりは衝撃というべき轟音がテントを襲った。「落雷だ!」と親父は直感した。友人たちもそう感じたらしく、「落ちたぞ」「たぶんすぐ近くだ」と小声で囁きあっていた。ガサガサという音が止んでいたこともあり、友人の一人が恐る恐るテントから顔を出して外の様子を窺った。しかしどうもおかしい。付近には落雷があった気配などなく、それどころか肝だめしの時と変わらぬ満天の星空で雷雲の欠片すらない。その日は親父たち以外にもキャンプ客が割と来ていて、親父たちのテントから見える位置にも他の客のテントが張られていたが、今の落雷で起き出してきた様子も無い。まるで落雷など無かったかの様だ。もう何が何だかわからずこんな所に長居はしたくないということで、二泊の予定を切り上げ夜が明けたら早々にここを発つことにした。親父はその後夜が明けるまでとうとう一睡も出来なかった。夜が明けて朝食もそこそこにテントを畳み、帰り支度を整えると管理事務所へ帰る旨を伝えに行った。事務所で落雷について尋ねるも、やはりそんな話は聞いていないと言われたのみ。本当に落雷など無かったらしい。気になったので祠のいわくについて何か知らないかも尋ねてみたら、予想外の答えが返ってきた。「そんな祠は知らないし、第一キャンプ場の奥に山へ続く小道なんか無い」そんなはずは無い、自分たちは実際にその道を通ったと主張しても、こちらが把握していない道など無いの一点張り。しまいには「そんなにあると言うなら案内してみろ」と言われ、小道の存在を確かめに行くことになってしまった。親父は正直行きたくなかったが他の友人たちが行くと言うので、一人で残るのも嫌だからついて行った。小道なんか無かった。昨日は普通に見つけて、夜にも迷わず行けたのに。小道の入り口があったはずの場所さえ何処だかわからなかった。結局親父たちの勘違いということで、親父たちは管理人に謝って帰ってきた。
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