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山を行くジプシーの一家
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知り合いの話。彼は若い頃、欧州での一人旅を好んでしていたそうだ。ある日、山を行くジプシーの一家と出会い、馬車に同乗させてもらったのだという。荷馬車は一家の者が寝泊まりしているだけあって大きくゆったりとしていて、午後の一時を楽しく会話しながら過ごした。一家の祖母は昔ながらの占いをよくするらしく、車座になって一緒に夕食を取った後、彼の未来を占ってもらうことになった。老婆は、何か大きな動物の骨らしき物を手でこねくり回しながら、難しい顔になって重々しくこう述べた。 「あんたはこれから……美味い酒を飲んで、一晩中楽しく唄って踊るだろうよ」そう言ってニヘラと笑う。一家の者も声を合わせて笑い、宴会が始まった。実に楽しく愉快な酒盛りだったらしい。彼も日本の歌を幾つも披露し、やんやの喝采を受けたそうだ。翌朝に目が覚めると、周りには誰の姿も見えなかった。焚き火を起こした跡はあるが、自分の荷物以外には何も残されていない。二日酔いで痛む頭を擦りながら後ろを向くと、そこには朽ち果てた荷馬車があった。近寄ってみてまじまじと見ているとあることに気が付き、口の中の唾が一気に引いた。廃馬車の側面に微かに残された紋様は、彼が昨日乗せてもらった馬車に刻まれていたそれと一致していたのだ。荷馬車の側にはぼろぼろになった楽器が幾つも落ちていた。数といい種類といい、一家の者達が奏でていた楽器と同じ物に思えてならなかった。「自分は昨日の昼からずっと、一体誰と過ごしていたのか……?」いくら考えても答えは出ず、落ち着かない気持ちでその場を後にしたのだという。
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