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オオカミ様の神社の修繕
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俺が宮大工見習いをしてた時の話。だいぶ仕事を覚えてきた時分、普段は誰も居ない山奥の古神社の修繕をする仕事が入った。だが親方や兄弟子は、同時期に入ってきた地元の大神社の修繕で手が回らない。「おめぇ、一人でやってみろや」親方に言われ、俺は勇んで古神社に出掛けた。そこは神社とはいえ、小屋提程度のお堂しかなく、年に数回ほど管理している麓の神社の神主さんが来て掃除する位。 未舗装路を20km程も入り込んで、更に結構長い階段を上って行かねばならない。俺は兄弟子に手伝ってもらい、道具と材料を運ぶのに数回往復する羽目になった。そのお堂は酷く雨漏りしており、また床も腐りかけで酷い状態だった。予算と照らし合わせても中々難しい仕事である。しかし、俺は初めて任せられた仕事に気合入りまくりで、まずは決められた挨拶の儀式をし、親方から預かった図面を元に作業に掛かった。この神社はオオカミ様の神社で、鳥居の前には狛犬ではなくオオカミ様の燈篭が置いてある。俺は鳥居を潜る度に、両脇のオオカミ様に一礼する様にしていた。約一ヶ月経過し、お堂がほぼカタチになってきた。我ながらかなり良い出来栄えで、様子を見に来た親方にも、「なかなかの仕事が出来ているな」と褒めてもらった。それで更に気合が入り、俺は早朝から暗くなるまで必死で頑張った。ある日、内部の施工に夢中になり、ハッと気付くと夜の10時を過ぎていて、帰るのも面倒になってしまった。腹が減ってはいるが、まあいいかと思い、「オオカミ様、一晩ご厄介になります」とお辞儀をして、お堂の隅に緩衝材で包まって寝てしまった。どれくらい眠っただろうか。妙に明るい光に「ん...もう朝か?」と思って目を開けると、目の前に誰か座っている。あれ?と思い身体を起こすと、日の光でも投降機の光でもなく、大きな松明がお堂の中にあり、その炎の明るさだった。そして、明るさに目が慣れた頃に、目の前に座っていたのは艶やかな長い髪の巫女さんだった。「○○様、日々のご普請ご苦労様です」鈴の鳴るような澄んだ声が聞こえると共に、彼女は深々とお辞儀をした。「ホウエ?」俺は状況が飲み込めず間抜けな声を返しながら、お辞儀でさらっと流れた黒髪に見惚れてしまった。「我が主から、○○様がお堂にお泊りなのでお世話をする様にと申し付けられ、ささやかでは有りますが、酒肴をご用意して参りました」彼女が料理と酒の載った盆を俺の前に置く。盆の上には大盛りの飯、山菜の味噌汁、大根や芋の煮物、渓流魚の焼き物、たっぷりの漬物。そして、徳利と杯が置いてある。「さ、どうぞ」彼女が徳利をもち、俺に差し出す。俺は良く解らないまま、杯を持ちお酌をしてもらった。くっと空けると、人肌ほどの丁度良い燗酒で、甘くて濃厚な米の味がした。「・・・旨い!」俺が呟くと、巫女さんは「それはようございました」と、涼やかな微笑みで俺を見つめた。途端に腹がぐうと鳴り、俺は夢中で食事をした。巫女さんは微笑みながら、タイミング良くお酌をしてくれる。食べ終わり、巫女さんがいつの間にか用意してくれたお茶を飲みつつ、「ご馳走様でした。ところで貴女は、ココの神主さんの身内の方か何かですか?」と聞いてみた。「ふふ、そのような物です。お気になさらず」巫女さんは膳を片付けながら答えてくれた。突然俺は猛烈に眠くなってきて、もう目を開けているのも苦痛なくらいになった。「お疲れのようですね。どうぞ横におなり下さいませ」巫女さんはふらつく俺の頭を両手でそっと抱え、彼女の膝の上に乗せてくれた。彼女の長い黒髪が俺の顔にさらっと掛かる。彼女の黒髪に似合う髪飾りってどんなのだろう、と柄でもない事を考え、暖かく柔らかな感触を頭に感じつつ、俺は深い眠りに落ちていった。「おい、○○。起きろや」親方の声で目を覚ました俺は、バッと飛び起き時計を見る。朝の7時。目の前には、ニコニコした親方と神主さんが居る。「あ、すみません親方。昨夜遅くなったんで、泊まっちまいました」俺は親方にどやしつけられるかとビクビクしながら謝った。「ふ。お堂の中で一晩過ごすなんざ、おめぇもそろそろ一人前かぁ?」なぜか嬉しそうな親方。なんとか怒られずに済んだようだ。「あ、神主さん、昨夜はありがとうございました。食事届けていただいて。」「はぁ?なんですかそれは?私は存じませんが?」「え?だって神主さんのお身内だっていう巫女さんが、酒と食事を持ってきてくれて…」「いやあ、あなたがお堂に泊まってるのに気付いたのは今朝ですよ。朝、様子を見に来たら、あなたの軽トラが階段の下に止まっていたので、何か有ったのかと思って親方に連絡して、一緒にお堂に来たのですが…」「え?そんなはずは…?」戸惑う俺を見て、親方が大笑いしながら言った。「大方、腹減らしながら寝ちまったから、そんな夢を見たんだろうよ。それか、オオカミ様がおめぇの働き振りを気に入って、ご馳走してくださったかだ。まあ、後でお礼の酒でも納めれば良いんじゃねえか」一週間後、無事に竣工した神社を奉納する儀式も終わった。俺は休日に一人で神社に行き、酒と銀細工の髪飾りを納めた。帰りに鳥居を潜ろうとしたとき、お堂の前に間違いなく誰かが居る様な濃厚な気配を感じて、振り向きそうになったが、そのまま一礼して階段を降り始めた。
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