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酒臭い
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秋、本州でも高山では雪が降り始め、11月から翌年の6月か7月までは、山小屋さえ閉ざされる。賑やかな声は聞かれなくなり、寡黙な連中が多くなる。冬の手前、秋の終わり。そんな時期の野宿というのはまた格別で、特に朝が良い。顔の冷たさに目を開け、テント代わりに枝から吊るしたシートをめくると、周囲が白く光っていた。 積雪というほどでもないが、雪が薄く周囲を覆っている。空は暗く、月の明りもぼんやりしている。朝露が草木に降る音さえ聞き取れそうなほどの、静けさ。時計を見ようとランプに手を伸ばしたが、この暗さと静寂を破るのは、あまりに野暮な気がした。明るくなればそれが朝だと、もう一度横になり、身体を丸めた。遠くからの足音。石を踏み、ざくざくと一定のテンポで進んでくる。これから山へ入る連中だろう。だとすれば、もう朝は近いということになる。そのまま起きることに決めた。草の朝露を両手にこすりつけ、形ばかりの洗顔。振り返ると、足音の主は完全な冬支度の男達だった。人数は3人だが、登山者の格好ではない。頭の笠から足の靴まで、全身を藁で覆っている。大きな藁人形が歩いているようなものだ。全員、大きなひょうたんを手にして、始終酒を呑みながら歩いているようだ。とんでもなく酒臭い。通り過ぎ、暗闇が山へ向かう彼らの姿を隠し、足音が残った。俺は寝ぼけた頭を振り、もう一度朝露で顔をぬぐった。冬、この山で死にかけ、誰かに酒を貰い、朦朧として案内され、捜索隊に見つかり、あるいは別の登山者に行き会う。そうして命拾いした者がいる。誰に案内されたのか、彼らの記憶はあやふやだ。地元には、大酒呑みの鬼が山にいるという伝承がある。
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