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オフクロの夢
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俺が大学生だった頃の話です。念願の志望校に入学したけど、何か自分の道が見いだせなくて、ほとんどバイトに明け暮れ、授業なんか全然受けてなかった。ある日、本屋で立ち読みしてると、海外語学留学というのが突然目にとまった。英語なんか全然興味なかったし、喋る事も出来なかったけど、何故かその時「これだ!」と思って、早速家に帰ってその日の夜、「俺、とりあえず大学休学して留学するわ」って両親に相談というより宣言した。 オヤジは反対したけど、オフクロは何故か「一回きりの人生だから好きにしなさい」と、すんなり賛成してくれた。それから、俺はあっちこっちで色々情報をかき集めて留学の準備を進めていた。そして、いよいよ来週留学だという時になって、オフクロが検査入院する事になった。実はオフクロは、俺が高校生だった頃に子宮ガンで全摘出手術を受けていたが、主治医曰く、「手術後、5年以内に再発しなければ完治したと思って大丈夫」と言ってくれていて、既に手術してから4年が経とうとしていた。で、以前から検査する為に1~2週間の検査入院はよくある事なので、オフクロも「入院しちゃう事になったので、お母さんは空港までは見送る事出来ないね」と言うので、「空港行く前病院よるから、心配しなくていいよ」といったような話をしている間に、いよいよ留学する日が来た。朝10時の便だったので、病院には朝7時半に行った。通常なら面会時間では無いので会えないのだけど、看護婦さんに頼んで病室に入れてもらった。30分ぐらい話して、そろそろ時間だから行くわと言うと、オフクロが「餞別ね!」と言って枕元に隠してた包みをくれた。1年間会えないと思うと名残惜しかったが、「退院して、暖かくなったら遊びにおいでよ」という約束もしてたので、笑って病室を後にした。空港までのバスの中でオフクロから貰った包みを開けると、腕時計と手紙が入っていた。手紙はリュックにしまい、時計を腕にはめた。海外の生活にも馴れ、全く出来なかった英語もなんとか普通に喋れるようになった。オフクロと「退院したなら、こっちに遊びにおいでよ」とかいうやり取りを手紙や電話で何度かしたのだけど、その度に「うん、もうちょっと調子よくなってからね」という返事しか返ってこなかった。でも、信じていた。いつかはオフクロとオヤジとアネでこっちに来ると。その為に、何処に連れて行こうか観光スポットのプランまで練ってたね、俺は。で、それから後2ヶ月で1年が経とうとしたある日。ずっとしてたオフクロに貰った時計が突然止まった。その時は別に、明日にでも電池交換に行こう程度に思った程度だったのだけど。次の日、突然家(借りていたアパート)の電話が鳴った。でるとオヤジからだった。『お母さんの容態が急に悪化したので、至急帰って来い』と。俺は頭が混乱して何か状況が全く掴めないまま、飛行機を予約して大急ぎで帰国した。到着し空港から大急ぎで病院に向かい、看護婦詰所に行った。夜だったので看護婦さんは窓口におらず、奥まで聞こえるように大声で、「○○の息子ですけど、母親は何号室ですか」と聞くと、看護婦さん達は顔を見合わせた後、「ご存知ないんですか・・・昨日の夜、亡くなりましたけど・・・」「はっ?いや、○○の息子ですよ」「ですから、○○さんは昨日お亡くなりになりました・・・」その意味が素直に飲み込めなくて、病院の電話借りて家に電話してみた。きっとオフクロが電話にでてくれると思って、いや、そう信じて・・・しかし、『只今、留守にしております・・・』。正直、パニクった。当時、携帯なんか存在しないから、オフクロはおろか家族の誰とも連絡とれない。看護婦さんに頼んで何処にいるか調べて貰うと、葬儀会館の電話番号を教えてくれた。電話するとアネが電話に出たので、状況は依然ワカラナイまま、病院まで迎えに来てもらった。葬儀会館についてオフクロの棺開けて顔見たけど、不思議と悲しいという感情は湧かなかった。たぶん、状況が飲み込めなかったんだと思う。で2日後、やはり状況が上手く飲み込めないまま、葬儀も終わり灰になったオフクロの骨壷見た瞬間、この世から形が無くなったと思うと、最後に会えなかった悔しさや、留学を快く許してくれた事を思い出し、何故だか涙が次から次へと溢れてきて止まらなくなった。それから初七日が過ぎ、1ヶ月が過ぎ、実家で何もする気がしないのでボーッとしてた。その間、何度となくオフクロが元気だった頃の夢を見て、願わくばこのまま夢から覚めないで欲しいと思った。逆に寝てさえいればオフクロに会える気がしたし、現にほぼ毎日のようにオフクロの夢をみてた。その日も早くに布団に入って寝ると、しばらくしてオフクロの夢をみた。でも、いつもの夢と全然違う。何故かオフクロは船に乗ってて、「もう、行かないといけないから」「人生大切にして、一回コッキリの人生楽しみなさいよ」と言うので、「来週向こうのアパート片付けに行くから一緒に行こうよ」と言うと、(現に行かなきゃならんかったんだけど、日本に飛んで帰ってきてるし、アパート解約しないといけないし)「それは無理だけど、体大事にして生きなさいよ、見守ってるから」って言うから、夢の中で号泣しながらオフクロの手を握ると、強く握り返してきて、そしたらオフクロが乗ってた船が動き出して、握手してた手が離れた。そこで追いかけようとしたら、ガバッって感じで布団から飛び出して目が醒めた。そしたら、マジに俺泣いてんのね。しかも、手に感触が残ってた。その夜はそれから寝付けなくて、朝を迎えた。カレンダーを見ると、ちょうど今日が四十九日だった。それ以来、今まで一度もオフクロの夢を見る事はない。所詮、思い込みの激しい夢じゃん、と言われるとそれまでなんだけどね。でも今でも不思議な事は、時計が止まったことだな。オフクロさん、感謝してますよ。結局、その後、大学休学したまま辞めちゃったけど、留学経験活かして自分で会社作ってなんとか飯喰えてるし。
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