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ミキハウス
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突然だが『プリンプリン物語』をご存知だろうか?30年ほど前、子供達に人気だった人形劇だ。内容はうろ覚えだが、主人公のプリンプリンを中心に仲間と旅をする話。いろんな国(仮想国)を回り、いろんな人が出てくるのだが、その中でも強烈なキャラ『ルチ将軍』なる人物がいた。ルチ将軍はスキンヘッドで、後頭部が異常に発達(後頭部が頭一つ分くらい出っ張っている)していて、知能指数が1300の驚異の軍人。その頃小学生だった俺のクラスに後頭部が出っ張るっているヤツがいて、当然のようにあだ名はルチ将軍だった。 ルチ将軍(以下ルチ)は明るく人気者で、そのあだ名を最初は嫌がっていたが、そのうち開き直り、授業中先生に誉められると、「そりゃあ先生、知能指数は1300だから」と、みんなの笑いを誘っていた。そんなルチだったが、人形劇で出番が無くなったと同時期(偶然だけど)くらいから、クラスの女子から嫌われ始めた。理由は覚えてないが、一部の女子から嫌われ始め、終いにはクラスの全女子から無視されるようになったのだ。男子はそんな事もなく一緒に遊んだりしていた。まあイジメは今も昔も変わらず残酷なもので、昼休み俺とAとルチの3人で遊んでいると、クラスの女子Bがやって来た。Bは「うちから持ってきたんだけど、これあげる」と飴をくれました。「ホントに?サンキュー」と俺とAが受け取り、俺が「ルチのは?」と聞くと、Bが「2つしかないんだよね~」ニヤニヤ笑う。Aが「ルチ、俺の分やるよ」と渡すと、Bは怒ったように「T(俺)とあんたに上げたんだよ?他の人に上げるなら返して!」と突っかかって来た。あからさまな態度に頭に来た俺が返そうとすると、ルチは笑いながら「T、A貰っとけよ。俺は歯痛いからいいんだ」と言いました。「俺ちょっと保健室行ってくる」と、ルチは教室から出て行ったのです。「ルチ!」とAは追いかけて行きましたが、俺はBに「なんであんな事すんだよ、ルチが可哀相だろ?」と言うと、Bが意外な事を言いました。「だってルチ気持ち悪いんだもん。学校帰りに人形とお医者さんゴッコしてるの見たって、みんな言ってるよ?」「お医者さんゴッコくらいなんだ!……人形と?」「そう、嬉しそうに。変態じゃないの?あんたらもルチと遊んでると、ガイマ(仲間外れ)なるよ」そう言ってBはいなくなった。まさかな…そう思いながらも、確かにルチとは学校内ではよく遊ぶが、外ではあまり遊んだ記憶がない。放課後、Bの話が気になった俺は、ルチの後をつける事にした。ルチに見つからないように距離を取りながら…気分は「太陽にほえろ」のマカロニ刑事だった。それにしてもルチの家ってこっちだっけ?しばらくすると、ルチは道路脇の土管を覗き込み、人形を取り出した。随分大きな人形だな!?それを手に取ると、柵を乗り越え原っぱに出た。そこは草刈りしていないようで、俺の胸くらいまで草が生えていた。身をかがめ、かき分けながら前へ進むと、ルチの笑い声が聞こえてきた。気づかれないようにそっと近づく俺。見えない。もう少し近くにと思っていると…お約束のように、落ちてた木っ端踏んでルチに見つかってしまう俺。「T、俺の後付いて来たのか?」「付いて来たって言うか…ハハハ」と笑ってごまかそうとしたが、ルチが手にしている物を見て固まってしまった。汚い裸の人形で、何て言うか凄い薄気味悪い。大きさは60cmくらいはある女の子の人形。目は白目で口角が上がっていた。「ルチこそこんなとこで何してんだ?」と尋ねると、ルチは恥ずかしそうに「お医者さんゴッコ」と言った。「人形とか?」「なに!?いま何て言った!?ミキちゃんは人形じゃない!生きているんだ!」あまりのルチの勢いに俺は驚いた。ルチの様子も尋常じゃなかったので、怖くなった俺はルチに合わせた。「ごめんごめん。俺の見間違いだった。それミキちゃんって言うんだ。いつも一緒に遊んでるのか?」「ああ、可愛いんだぜ。もしかしてTも一緒に遊びたいのか?遊びたいんだろう?ミキちゃん、Tも一緒にいいかな?」虚ろなルチの目に寒気がした。大変な事になったかも…尾行なんてするんじゃなかった。こんな時Aがいてくれたらなぁ、と思っていたら雨が降ってきた。チャンス!これで帰れると思っていると、ルチは「このままじゃ濡れちゃうな…そうだ!ミキちゃん家行こう!」と、右手にミキちゃん?左手に俺の手を持ち走り出した。帰りたかったがルチの力は半端じゃなく、振りほどく事が出来なかった。連れて行かれたのは野草園の裏にある廃屋の一軒家。通称『悪霊の館』。学校で噂の心霊スポットだった。一家惨殺されたとか、呪いの鏡があるとか、曰く付きの場所だ。「ルチ!遅くなったら怒られるから俺帰るわ!」そう叫んでも、ルチは何かブツブツ言って聞いていないようだ。そしてルチは入り口の扉を開き、俺を引っ張り中に入った。中は窓からの光が差し込んではいるが薄暗く、蜘蛛の巣だらけだった。「なぁ、もういいだろ?帰ろうぜ」ルチは相変わらずブツブツと呟くだけ。怖いのと言うこと聞かないルチに腹を立てた俺は、「いい加減にしろ!」とルチの頭を叩いた。するとルチは俺の方を向きケラケラと笑い出し、「ミキちゃんの母さんだ!」と叫んだ。背後から冷たい空気が触れるのを感じた。汗のせいか張り付いたTシャツがひどく冷たかった。振り向く事が出来ず震えていると、物凄い強い力で肩をつかまれた。「ヒッ!?や……やめて…」無理やりうしろを向かされる俺。「………!?」見てしまった。ボサボサの髪をした女、獣のようにつり上がった赤く光る目。女と思えないような低い声で言った。「…カエセ……ニンギョ…カエセ」ニンギョ?……人形!…ミキちゃん!!「ルチ!人形…人形を離せ!早く!!」女から目を逸らし、うわずった情けない声で叫ぶ。バタン!突然大きな物音がした。「ル…ルチ?おい、どうしたんだよ?」いつの間にか体が軽くなっていた。ルチの方を振り向くと、そこに女と人形の姿はなかった。ルチが床に倒れているだけだ。「ルチ起きろ!ルチ!」気を失ったルチを何度もビンタすると目を覚ました。「大丈夫かルチ?こんなとこサッサと出よう!」「あれ、T?俺なんでこんなとこにいんの?」「いいから早く!」ルチの手を引っ張り慌てて外に飛び出すと、雨は上がっていた。ルチに聞くと、今までの事は記憶にないようだった。俺が今あった事を話すとルチは俯いて、「俺さぁ女子に無視されていただろ?だから、噂になってるこの家に一人で来たら見直されると思って……だけど、目の前にしたら怖くなって引き返そうとしたら、外に人形が落ちてたんだ。拾って手にしたら、急に涙が流れて来て、人形が可哀相に思えた」「それがミキちゃんか…」俺が聞くと、ルチは不思議そうに「ミキちゃん?」と聞き返した。どうやら名前を付けた覚えはないそうだ。「こんな大きな人形だし、家に持って帰る訳にはいかないから、隠していたんだ。学校から帰る途中、毎日寄っていたんだけど、不思議とその間の記憶がないんだよな……気持ち悪くなって行くの止めようと思っても、自然と人形のとこに行っちゃうんだ」そう話すルチの顔は青ざめていた。人形は、廃屋にいた女が大事にしていた物なのだろうか?真相は分からないが、振り向くと廃屋の窓辺に立つ女と、女に抱かれた小さな女の子がこちらを見つめていた。
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