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マウンテンバイクの一団
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子供の頃の思い出。 夕方時になると 近所の公園前を真っ白なマウンテンバイクの一団が よく一列になって通ってた。 当時は カッケー自転車乗ってんなー って印象しか無かった。 ある日お袋に事情を話し アレと同じ自転車が欲しい! と思い切っておねだりしてみた。 どれどれ?と お袋が窓の外から例の一団を覗くと 一瞬凍り付いた様に固まった後、 急いで雨戸をガラガラと下ろし鍵を掛けた。 顔面蒼白な様子だった。 そして、 「B!あの自転車の人達を二度と見ちゃ駄目よ! 近付いても関わっても駄目! この時間帯になったら雨戸を閉めなさい! 見たら一生自転車買ってあげないからね!」 あの人達は何かヤバイ人達だったのだろうか? 怪訝に思いながらも 棚ぼたで自転車ゲットに感謝した。 うぉおおおおおおおお!やったあ! 別の日、この日は親がPTA会合と 実家の野暮用で家に居らず 雨戸を閉めなくても良いと思って 夕方まで窓開けっぱなしでDSやってた。 でも、まぁ見るなと言われると 見たくなるのが人間の性でして。 ポケモン図鑑コンプしてやる事無かった事もあり 何で駄目なのか確かめたくなり 外へ出て間近で観察してみる事にした。 暫くはシャボン玉でも吹きながら 自転車集団が来るのを待っていた。 「おーいいねぇ!」 急に背後から声を掛けられた。 いつから居たのか いかにも健康そうな いつものサイクリスト好青年達の姿がそこにはあった。 あ、どうも。 俺Bって言います。 自転車カッコイイですね? よく走るんですか? と聞いてみた。 「うん、この先にいーとこがあってね」 日焼けしたサイクリストお兄さんが 満面の笑顔で言った。 そうなんですか。 「B君も来るかい? 自転車貸そうか? ていうかあげるから!」 え?マジですか? 当時の俺は 二つ返事で知らない大人達に付いて行った(苦笑) そこからが奇妙だった。 一列になって進み 俺は最後尾に居た。 和気藹々って訳でも無く、 葬式の様に重い空気で全員黙々と漕いでいた。 ただ物凄く漕ぎ易いマウンテンバイクだったので 全然脚は疲れなかった。 「目的地ってどこなんですか?」 最後尾のお兄さんが一瞬振り向いたが 何故か顔面蒼白で返事は無かった。 疑問符が沢山浮かんだが、 考えても仕方無いと思う様になった。 どうしてそう思ったのかは分からない。 とにかく漕いだ。 きっとマウンテンバイクを手に入れて 浮かれていたのだろう。 皆と走るのが楽しかった。 明るい内は。 真夏とはいえ 周囲は既に暗くなりつつあった。 もう夜の6、7時位だろうか? 道路横の森の中にある 血の様に真っ赤に錆びた蔦の絡まった看板を通り過ぎ様に 垣間見て不安になる。 2時間位ブッ通しで漕いでいるのに まだ着かないのか? 休憩もしないのか? というか何で自分は全然疲れてないのか? 何で真っ暗な夜道を知らない大人達に付いて行くのか? 考えるとどんどん怖くなって 少しペースを落とそうとする。 その瞬間… 「B君大丈夫? あとちょっとで着くから頑張って! まだいけるっしょ?」 と先頭の人が言った。 急に喋ったのに驚いてビクッとした。 だが、確かに全然疲れていなかったし、 もうすぐ着くと聞いて安心してしまった。 それから10分位漕いでいると 古いお寺が見えて来た。 俺は寺を凝視した。 「着いたよ! あのお寺の境内のとこまでだから頑張って…」 キキイイイイイイガチャン! と先頭の人が言い終わるよりも早く 俺は急激に方向転換していた。 余りにも禍々し過ぎた。 霊感の無い自分でも分かる。 あれはまともな場所では無い。 人間の行くべき場所では無い。 漕ぎ出して10分もしない内に さっきまでの駿足が嘘の様に 身体中をジワジワとした筋肉痛と乳酸が襲う。 漕ぐ度にどんどん筋肉痛は増していった。 「おーい、どーしたのー?」 というお兄さん達の 不自然に間延びした声が後ろから聞こえる。 声が全然遠退かない、 追い掛けて来ているのだろうか? 「B君待ってよー」 「ねー、おーい!」 「Bくーん!おーい!」 「なんで帰ちゃうのー?」 もしかしたらあのお兄さん達も 人間では無いのかも知れない、 そう思い必死で漕いだ。 「Bーおーい…おー…」 声が遠退いていく。 どれだけ執拗に追い掛けられたのだろう… 足の裏の豆が潰れて 靴の中が血まみれになっている感覚を感じる。 もう諦めてくれたのだろうか? だが次の瞬間、 俺は今までの人生の中で味わった事の無い絶望感に襲われた。 あの真っ赤に錆びた看板が 眼前に飛び込んで来たのだ! 嘘だ! だって1時間以上も前に通り過ぎた筈だ! 素直に認めたくは無かった。 まだ寺から10分位の距離しか進んでいないという事か!? こんなに遠い筈が無いんだ! 来る時は10分位で来れたのに! 後ろからクスクスと笑い声が聞こえて来る。 頭の中が真っ白になった。 漕ぐ脚も止まった。 次の瞬間、 俺は無意識にマウンテンバイクを 道路の側溝に投げ捨てていた。 「ヴォオオイ! 何してくれてんだガキがぁ! この野郎ォィ!」 間延びした穏やかな口調は 一瞬にして罵声に変わった。 俺は走り出していた。 どこにそんな力が残っていたのか 自転車を捨てると体が軽くなったからだ。 「待てオラぁ! 殺すゾァァァァグルルルル」 あいつらの罵声は 更にかん高く化物じみて来た。 だが、脚に疲れは無い。 まるで今初めて走り出したかの様だった。 それからどの位走ったのかは覚えていない。 後ろは怖くて振り向けなかった。 声がどんどん異様になっていたから。 思い出したくも無い恐ろしい声だった。 走っている内に意識が朦朧として来た。 次に目覚めたのは 病院のベッドの上だった。 朝に隣の県の山奥にある 無人神社の境内で倒れていた所を 偶然ジョギング中だった 小学校教師のUさんに助けられたのだ。 病室では駆け付けた父親に 「そいつらと隣の県までわざわざ何しに行ったのか!?」 と詰問された。 母には 「だから見ちゃ駄目と言ったのに! 知らない大人に付いて行くからよ!」 と言われた。 見ちゃ駄目というのが引っ掛かったが 理由は怖くて聞けない。 助けてくれたその先生が言うには 「近隣を調べてみたが そんな寺は存在していなかった。 でも念の為今後はあの山に近付かない方が良い」 と言われた。 俺は両親やその先生と 「もう二度と知らない大人には近付かない」 と約束した。 そして母に買って貰ったマウンテンバイクのプレゼントは 罰として1年延期された。 替わりにU先生に手作りの御守りを貰った。 美人からのプレゼントはやっぱり嬉しかった。
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