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ミミズと僕
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長編14分
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あだ名がミミズという、小学校4年になる少年がいた。あだ名の由来は彼の名前にもあったが、性格にも関係していて、引っ込み思案で弱弱しい少年だった。風貌も薄茶色のTシャツの日が多く、目は重々しい二重で少しギョロ目の細顔。春に転校してきて、早速他の男友達になじられる存在になる。別に嫌われていたわけではない。そんな彼を、人一倍なじっているのが僕だった。その頃の僕は、いい意味で素直な性格、悪く考えるとわがままな性格だった。 とりあえず自分が一番という…大人になって考えるといやなガキ。僕のような性格のやつとミミズが仲良くなるなんて、誰が想像できただろう?周りには友達はいたし、別にミミズと二人で遊ぶ必要もなかった。でも僕は、なんとなくミミズが気に入っていた。子供の時、僕と似たような性格をしていた人にはわかってもらえるだろうか…丁度いい子分になるような、決して対等ではない友達。よく話すきっかけになったのは、やはり共通の趣味、ガチャガチャ集めだろうか。とある漫画関連のガチャガチャだったわけだけど、少しマイナーで、話が通じたのはミミズが初めてだったわけです。こうして日々半分は他の友達と、半分はミミズと遊ぶようになった。ミミズと遊ぶというと、僕が勝手に提案したガチャガチャ競争が主。どっちが先にシリーズを集められるか…とかいいつつ、本当に嫌なガキの僕は、平気でミミズから欲しいガチャガチャを横取りしていた。ミミズは困惑した表情をすると、苦笑いでそれを容認してくれた。僕はいろいろと彼にわがままを突き通して平気でいたのも、実は”遊んでやってる”という気持ちをもっていたからだ。ミミズは自分から人の輪に入るのが苦手で、こっちから話しかけないと来ないから、しばしば一人になることが多かった。ミミズ自身も、別に1人でもよさそうだったけど…えらそうな僕は、もらうだけじゃ悪いからと、はずれのガチャガチャをミミズに押し付けたりもした。ミミズは目をキョロリと動かして、「ありがとう」ともらってくれる。満足する僕…僕「僕そろそろ家戻る」他の友達「え?もう?」僕「うん。ミミズが僕んちくる約束なんだ」他「お前ほんとにミミズと仲よしだなーあいつ話しかけても、ギョロギョロしててよくわかんないよな」僕「ミミズとは***(漫画のタイトル)の話ができるからさ」夕方になって空が赤くなる頃、玄関に戻るとミミズが待っていた。部屋で話しているとき(僕がほとんど一方的に話してた)、なかなかでてこないガチャガチャの話をしていると、珍しくミミズが顔をあげて話し始めた。「僕の兄ちゃん…それもってんだ」「え!兄ちゃんも集めてるんだ!」「うん…今は受験のために集めるのやめてるけど…かざってある。2個」「!!」興奮した僕は早速催促を始めた。「2個あるなら1個もらってこいよ!」いつにもまして困惑したミミズだったが、僕は無理やりまるめこねて彼を説得し、「じゃあ聞いてみる」といわせることに成功した。次の日、見事にミミズは幻のガチャガチャをゲットしてきた。乱舞してる僕を見てミミズも満足してるようだったが、急にまた目をギョロッとさせて、「実は…兄ちゃん昨日、友達の家に泊まって帰ってこなくて…勝手に持ち出したから…その…」自分でも何をいっていいかわからないようだったし、僕もそっか正式に持ち出したわけじゃないのか…と、少し後ろめたさを感じたが、すべてはミミズとミミズ兄の間のことであって僕には関係ないとして、ただただガチャガチャをゲットしたことを喜ぶことにした。1週間かしたか、ある日のこと。すごく暑い日だった。セミがうるさく鳴き始め、僕もイライラしていた。僕はセミの鳴き声は正直好きじゃなかったし、その後の人生でも好きになることはなかった。忘れられない1日の始まり。教室に入って席にドスンと座ると、ミミズが自分の席から立ち上がり、珍しく僕のほうに自ら近づいてきた。「おはよ…」言いかけたときに、ミミズの顔が蒼白になのに気がついた。「○○くん…あのさ…兄ちゃんが気づいてさ…」「2個あるなら1個くらいくれてもいいじゃん…っていっといてよ」いつにもなく強気で無礼な僕。どうしてもそのガチャガチャを手放したくなかった。「いや…それが…1個しかなくなっちゃって…その…」「え?1個?2個あったんじゃないの?」ごにょごにょ言うミミズからの説明を、なんとか僕は理解した。この間、ミミズ兄がいない間にガラスケースからとったガチャガチャは、僕用の1個ではなく2個だった。ミミズも、そのガチャガチャの中身をよくみたかったらしい。しかし、ミミズはそれをなくしてしまった。なくしたのは、なんとも早い次の日のことだった。ミミズ兄はしばらく気づいていなかったが、昨日ついに気づいてしまったらしくカンカンだという。なくしたことは告げてないものの、とりあえず1個返せば機嫌を直してくれるはずだとのこと。ただガチャガチャを返せばいい…なのに…僕はどうしてもどうしても、それを手放したくなかった。もとはといえば、ミミズ兄のものであるにもかかわらず。僕は意味不明な理屈を重ねて断固拒否の姿勢をとった。ミミズはもう泣いてる。ギョロ目が潤んで、ひどく気の毒な顔になっていたのに…「僕はお前にもらったんだぞ!お前の兄貴にもらったわけじゃないし!なんでお前の兄貴に返さなきゃいえないんだよ!」「おねがいだよぉ~…兄ちゃんイライラしてて…すごく怒られる…」「しらねーよ!あー…だったらだせばいいじゃん。ガチャガチャいって」「むりだよぉ…そんなことわかってるくせに!」キッとミミズが僕の顔をにらみつけた。初めてミミズのこんな顔を見た…ミミズのくせになんなんだよ…僕は顔をそむけて知らないふりをした。しばらくミミズは、僕の隣でたっていたようだが、先生が入ってきて目線を戻すと、ミミズは窓際に席に戻っていっていた。「…しらねーよ…ほんと…」あの、ミミズが僕を睨みつけた目が…それが僕が見たミミズの最後の目。そして顔。朝あんなに晴れていたのに、ものすごい夕立がきて、車がスリップしミミズに激突した。即死だった。ガチャガチャのある店の前で…僕に、初めてとてつもない罪悪感がのしかかってきた。葬式の時にもまともに写真を見ることができず、ひたすら心のうちで謝るばかり…勘違いでもなんでもない。あの日僕が返さなかったから、ミミズは店のガチャガチャをやりにいったんだ。わらにもすがる思いで!そのときはねられたんだ!それでしんだんだ!!ミミズが死んだ!!!僕のせいで…?初めてづくしの一日だった…初めて自分の行動を恥ずかしく思ったし、初めて自分の性格というものを考えた。そして何より、初めてミミズの立場になってみたのだ。ミミズはなんであんなに、僕のわがままを許してこれたんだろう…僕はあんなことされたら絶対怒るのに、蹴りいれてるのに。いらないガチャガチャなんて渡されても困るだけだし、ずっと馬鹿にされたら…自己嫌悪になりながら寝床について、その日は電気を消した。暗闇の中にガチャ玉が浮かんでた。中にはあの幻の怪獣が入ってる。ミミズの兄貴の…でも今は僕のだ!中の怪獣が叫び始めた。小さい目のはずなのに、なんだか大きく見えてきた。おかしい。こいつに黒目はないはずなのに…キョロリと僕を睨んだのはミミズの目。「まっくらだ!ここはまっくらだよぉ!」青ざめて目覚めると、すぐ横からコツリと音がして、ガチャポンが落ちた。夢の中のガチャポン…ミミズから僕が奪った…!僕は幽霊はいると信じていたから、この偶然が偶然に思えなかった。それから5日間ほど僕は似たような夢を見続け、ミミズがすぐそばで睨みつけている感覚がどうしてもとれず、日に日に食欲がなくなっていった。家族はもちろん僕の周囲の人たちも、僕の異変には気づいていたようだが、大切な友達が亡くなったショックだろう、と思って当然だった。「…悪かったよ…許して…!」何をすれば許されるのか考え続けていた。そしてふと気づいた。というか、なんでそれまで気づかなかったのか。夢の中でもガチャガチャがでてきてたじゃないか…もしかして返せば、ミミズも無事成仏してくれるんじゃないだろうか…と。そんなことで許されるもんなのか…でもとりあえず、これはもともと僕のものじゃないんだ。返さなきゃいけないんだ。ミミズの家に呼びかけると、ミミズ兄だろう人がでてきた。意外とミミズには似てない目をしていたが、表情をギョッとさせた。というのも、僕の顔が相当やつれていたらしい…。「僕××(ミミズの名前)くんの友達です。それで…これ…」「…あ、これか。あいつ…君に渡してたんだね」「はい…あの、お返しします」「いいよ。あげるよ。最後に君にわたしたんだろ?」「返します。お願いです…お願いだから」泣き崩れてしまった。もう子供の僕には限界で、全て話してしまいたくなって、ミミズ兄に夢のことなど全て話してしまった。ミミズ兄は長い間黙っていた。「そうか…そんな夢を見ちゃったんだね。怖かっただろ」「…当たり前なんです。あいつにひどいこと沢山したし…!」「でもさ、○○くん。あいつは、そんなたたるような性格してないよ」「…」ああ確かに、ミミズが人を恨んでたたるような性格には見えなかった。「きっと夢とか××の気配とかもさ、○○くんが自分を責めるから、見えたり感じたりするんじゃないかな」「…でも…」「…それに実をいうと、あんまり人には言ってないんだけど、君には特別に教えてあげるけどね」「はい…?」ミミズ兄は声を潜めて話し始めた。「俺霊感あるんだ。親にも内緒にしてるんだけどね。今君の周りにはなんにもいないよ。もちろん××も」「ほんとに?」「本当さ。いいか、結構幽霊とかって、人の勘違いが大半なんだよ。君は反省してるんなら、それでいいじゃん。な!」僕は単純だったこともあって、霊感があるという人が『僕の周りに何もついていない』というその言葉だけで、スーっと肩が軽くなっていった。それからの2、3日して、僕はすっかり元通りになっていた。好き放題に遊びまわり、食べまくりもした。変わったといえば、少し前よりは思いやりという心が増えたはず。あれは何日後のことだったか。暑い晴れた日の放課後、みんなで野原に囲まれた土の上でサッカーをしていた。ミミズのことなど皆忘れていた。僕も正直、もう切り替えていた。これからは皆にあんなわがままはしない!ボールが僕の頭上を大きく飛んでいった。「とってくる!」野原をかきわけていくと、最近は遊びに使わなくなった小川が見えてきた。思えばその頃から川が汚くなり始めていて、皆臭いといって近づかなかったのだ。ボールは川の一歩手前で止まっていた。ボールを手にとると、自然と濁った水面の中にあるゴロゴロしたものが目に付いた。大量のガチャガチャ…僕らが集めてたシリーズの人気のないやつ。僕がミミズに押し付けた…後ろに冷たい気配と冷たい感触が襲ってきて、振り向こうとした時、されるがままに、僕は川の中に突き落とされた。川はあんなに日が照っていたのに、ひどく冷たかった。だがそれ以上に、足元に激痛が走る。そのとき、僕の足にひびが入ったらしい。思ったよりも小川は深くて、仰向けにのんびりしていたら溺れてしまうから、必死で身をおこしていたが、冷たいし痛いし、でも足が痛くて起き上がれなくて、だんだん感覚がなくなっていった。このままじゃ死んじゃう!「だっ誰かー!!たすけてー!」野原にはミミズが立っていた。僕の体温はさらに下がっていった。なんだ?これも幻覚なのか?幻覚だから、ミミズの髪がそよ風になびかないのか…ふと僕は、『僕はここにきちゃいけなかった』と悟った。ここはミミズの秘密の場所だったんだ…なぜか頭の悪い僕にもわかった。目の前に立っている無表情のミミズの気持ちがよくわかる気がした。背中を押したのはきっとミミズだったんだろうけど、そのときは必死だった。「助けて!たすけて…足が動かない…このままじゃしぬ!」ミミズなら助けてくれるだろ…いつもよくみたミミズの顔だ。困ってるけど笑ってる顔。ギョロ目を細くさせて…今ではその目から涙をしたたらせて…「ぼくはそんないいやつじゃないよ…」ハハハハハとミミズが笑う途中で、僕の意識は途切れた。病院で母に、あのガチャガチャをミミズ兄に渡してもらうよう頼んだ。断れても絶対に渡すようにと。それからは夢の中でも現実でも、彼に会うことはなかった。あれからミミズ兄とも会ってないが、思うに、霊感があるといったのは、僕を落ち着かせるためについた嘘だったんだろうと思う。ミミズはやっぱり、あのガチャガチャを返して欲しかったんだ。あれから僕はだいぶ考え方がかわった。まあ、まともな考えをするようになっただけ。その後もミミズのような人間に会うが、なんでもなさそうな顔をしている彼らも、恨むということを知っている。決して許してくれてるわけではないのだと。僕自身も天狗にならないように気をつけている。
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