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小さい木の箱
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おれが昔働いてた職場での話。 職種は食品の卸売業、 おれはそこで配送と事務をやってた。 で、会社の倉庫があるんだが、 そこは元々ボロボロの体育館を改築して 横に無理矢理事務所を増築してくっつけたものだったんだ。 そして、その倉庫には中2階が有り、 隅っこに備え付けられた階段から登れるんだが 誰も登ろうとはしなかった。 理由はわからない。 おれは暗黙の了解的な何かかと思った。 ある日、先輩たちと暇だから 倉庫でバレーのレシーブをして遊んでいたんだ。 したら、ボールが間違って中2階に飛んでったのね。 そのボールを先輩Aは取りに行った。 周りも誰も止めなかった。 中2階部分は昼間でも真っ暗で照明も着かない暗所で、 先輩Aは探すのに大分手間取ってた様だった。 でも、5分経っても一向に帰ってこない。 痺れを切らした先輩Bが見に行こうとしたら、 中2階から 「ギエエエエッ!」 っていう断末魔の叫びが聞こえた。 急いで駆けつけると、 先輩Aが泡吹いて痙攣して倒れていた。 一瞬で危険な状態だと分かったおれ達はすぐ救急車を呼んで、 外勤から戻った所長も交えて社内は騒然となった。 警察も来たんだが、 いきなりぶっ倒れるもんだから 何が何やらって感じで互いに困惑するだけだった。 で、結局先輩Aは会社を辞めた。 身体的には問題ないが、 精神的にとても仕事を続けられない。 Aの母親の話だと、 暗闇が怖くて夜になると獣の様に発狂して暴れるらしいんだと。 所長は申し訳ない、と頭下げてたけど、 母親は如何ともし難い顔をしていた。 そして、それ以降 社内でこの事件の話をするのは躊躇われるようになった。 後日、おれは残業で 事務のお局のオバサンと二人きりで仕事をする機会があった。 おれとオバサンは仲良しで 共通して嫌いな先輩Cの愚痴を言い合う仲だった。 まぁ、先輩Cはこの事件の1月前に退社したんだけどね。 で、シーンと静まり返った社内、 おれはふと 「こないだの何なんすかね…」 みたいなことを何気なく呟いた。 したら、オバサンは誰にも言わないなら、 という約束つきで小さな声でおれに話をし始めた。 曰く、昔ここの倉庫で男が首吊りで死んだらしい。 そいつは社員で、 残業ばかりの過酷な労働環境だったんだと。 発見したのはオバサンの先輩の事務員さん。 で、当時は事件性もないと判断され 過労からの自殺ということになった。 でもな、オバサンの先輩曰く不気味な点が二つあったらしい。 一つは、その死んだ先輩は 到底自殺するような人では無かったということ。 職場に一人ぐらいはとびきり明るい人っていると思うが、 そんなタイプ。 まぁ取り繕ってただけかもしれないけどね。 二つ目は、男が自殺していた時の状況。 首を吊るのに使うものと言えば 麻縄とかネクタイとかをイメージするかもしれないが、 見間違いじゃなければ動物の毛の様なものだったらしい。 そのフワフワした紐状の毛が倉庫の天井の鉄骨から垂れ下がっており、 発見された時朝だったのもあって 窓からの日差しが遺体を照らしていて気味が悪かった。 というのが、 オバサンの先輩事務員さんの言い分なんだと。 おれは人が死んだなんて知らなかったから驚いたし、 その話を聞いてから倉庫に入ること自体を恐れる様になってしまった。 しばらくして年末の倉庫の冷凍庫内の棚卸しをする事になった。 で、配送が全員参加することになってて先輩方も全員参加するんだが、 先輩Aがいなくなったため 先輩Bが先輩Aがいつも担当していたエリアも棚卸しする事になった。 うちは冷食メインの会社で 冷凍庫も小さい家くらいのデカさで 数人で分担しなきゃ棚卸し出来ないんだが、 先輩Aは何故か頑なに右奥の角のエリアをやりたがるんだよな。 ちなみに先輩Aの前は 先輩Cが頑なにそのエリアを担当していた。 まぁ、何かやり易いかなんかだろうなと 理由は気にされてなかったんだ。 で、段取りを決めて棚卸しが始まったんだが 終わりに差し掛かった所で先輩Bが皆を集めた。 何やら棚卸しの最中に小さい木の箱を見つけたらしい。 それは両手の平に乗るぐらいの小さい箱で、 外側には開かないように細い縄が縛り付けられていた。 明らかにうちの商品では無かったから 何だこれは、と皆ざわついた。 おれは何か嫌な予感がして若干後ろに引いてたんだが、 先輩Bは中を確認すると言い 縄を切り箱を開け始めた。 そしたら中にあったものが姿を表した。 それは何らかの獣の脚だった。 ドス黒く変色して凍結した獣の脚が4本。 そして他にはその獣のものとおぼしき毛と 見覚えの無い人間のボロボロの写真が入っていたらしい。 流石に皆驚いて わぁっ、と大声で仰け反った。 おれはコレヤバいやつだから お祓いとかした方が良いと進言した。 で、とりあえず蓋を閉めて暗所に保管することにし、 年が開けたら寺社に持っていくということで 年末の棚卸しは終わった。 おれは年末年始の休みを落ち着かない気持ちで過ごした。 お局のオバサンの話を聞いていたから尚更。 先輩AとCが頑なに一つのエリアを担当していたのは アレを守るためなのか? 何故獣の脚? 写真は誰? 自殺した社員は本当に自殺か? とか色々頭を駆け巡った。 そして、年が明け おれの不安は的中した。 先輩Bが交通事故で亡くなった、 との所長からの電話だった。 山奥で車がスリップして崖から落ちて即死だった、と。 おれも所長も言葉には出さなかったが まさか、という気持ちでいた。 そんなこともあって、 おれは早々にその会社を辞めたよ。 もう怖くてな、 会社に近寄るの自体嫌になってな。 そこから会社と残った人達がどうなったかはおれは知らない。 オチというオチが無くてごめん。 無理矢理オチを付けるなら 最近おれが眠りから覚めるとき、 仰向けになって寝ているおれの体の周りを 4本脚の生き物が周っているような、 リアルな感覚が襲ってくるぐらいかな。 もしかしたら近々何かあるかもなぁ、 と注意しながら生きてるよ。
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