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異常な経文
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これは何年か前の 今頃の季節の話。 俺の実体験に基づいた話です。 ほんと大した話じゃないですが、 個人的には洒落になってなかった話です。 ある日俺は、 地元の友人と夜遅くまで遊んでいた。 飯を食べたあと、 そのまま「S塚」という 京都の山まで行くことになった。 S塚というのは 京都ではそこそこ有名な夜景スポットで、 今度皆でそこに遊びに行く予定があるので、 その下見に行ったのである。 時刻は日付変更前後。 暗い国道を道なりに車を走らせ S塚へ向かう。 入り込んだ山道へ入り、 途中にある火葬場は煙をあげることなく 静かに眠っていた。 その時の俺らは恐怖心などカケラもなく、 意気揚々と夜景スポットを目指したのだった。 車を走らせること30分。 目的のS塚まで辿り着いた。 場所は意外と人で賑わっており、 いくつも車が停めてあった。 京都の夜景を一望できるその場所には、 恋人同士や家族連れなど、 集まってきた多くの人たちが その眺望に恍惚の笑みを浮かべていた。 「流石は夜景スポットやな…」 俺らはそんなことを口々に言いながら、 夜景を堪能してから帰ろうと思った。 その時俺はあることを思い出した。 S塚は、 地図的な距離では 某神社と極めて近い場所にあるはず。 標高差はあるにしても、 S塚から神社まで 充分歩いていける距離なのである。 恐らく10分もかかるまい…。 断っておくが、 その神社は決していわくつきのものではなく、 お祭りシーズンでは一際賑わう、 親しみやすくも荘厳な神社なのだ。 ちょっとした山道を歩く事になるだろうが、 このドライブは下見も兼ねているので、 神社まで友人と歩いて降りる事になったのだ。 夜景が見える場所から少し離れた明かりの無い場所、 その向こうに神社へと通じる道がある。 この時も恐怖心など微塵もなく、 心持ちはひどく穏やかだった。 常闇の中へ足を進めていく。 夜は一層暗がりを深め、 視界に映るのは かろうじて見える道の概形だけだ。 携帯のライトを片手に道を進んでいく。 目が順応して慣れてくると、 少しずつ道の輪郭が見え始めた。 深い茂みだけでなく、 近くには小さな家があるようだ。 見るからにもう廃屋となっており、 人など住んでなさそうだが…。 そんな事を考えながら二人で進んでいると、 大きな道は途中で終わっており、 そこから先は砂利道で先細り、 他には細い山道が派生しているだけだった。 茂みを掻き分けて細い山道に入るのは躊躇われたため、 一応大きな道の延長と見て取れる、 砂利道を進んで行く事にした。 廃屋を横目に見ながら。 そして。 「ちょっと待て」 不意に、 誰かに話しかけられた。 声の主は、 白い服を身に纏った老人だった。 廃屋には小さなテラスがあり、 そこの椅子に腰をかけているようだった。 「この先は行ったらあかん」 老人はそう繰り返していたので、 どうやらこの道の先に行かせたくないようだ。 私有地なのかな? そんな事を考えながら、 「あーすんません、 僕ら●●神社に行ける道を探してるんですよ。 おじーさん、知らないですか?」 そう尋ねた。 繰り返しになるが、 この時の俺は、 特に恐怖心は感じていなかった。 「あっちやで」 老人が指差したのは、 俺らが先ほど無視して進んだ、 道ともいえない細い山道の一つだった。 あそこから行くのか…。 そう思いながら、 「ありがとうございます~」 老人に礼を行って、 俺らはそっちの道を進むことにした。 生い茂る草木を割って山道に入った瞬間、 背筋に戦慄が走った。 視界に飛び込んできたのは、 おびただしい量の経文だった。 紙いっぱいに書かれた理解不能な言葉、 その経文紙が大小入り交じって幾つも連なり、 山道の脇という脇を埋め尽くしていた。 経文を縁取った赤と青の不気味な配色は夜の闇に融け、 その毒々しさを際立たせている。 言葉を失う二人。 山道は確かに麓へと続いていそうだが… ヤバい。 これはヤバい。 降りていったら絶対帰ってこれない。 ここに来て初めて恐怖を自覚した俺。 二人して、 慌てて元の道へ戻る。 廃屋の方へ目をやったが、 さっきまでいた老人が何処にもいない。 そんな馬鹿な…、 帰ったのか? 一体どこへ? 廃屋の中へか? そもそもあの老人は一体なんだったんだ? 人間だったのか?それとも… そんなことを考えながら、 全速力で車に戻って一息つく。 …まぁ多分あれは人間だろう、 そしてきっと、あーいうのを霊だと勘違いして、 みんな心霊心霊と騒いでいるんだろう、 そんな結論に達した。 というか、怖すぎて そういう理由でしか自分を納得させられなかった。 その後、 皆でS塚へ行く計画は頓挫したため、 もう行くことはなくなった。 だけど、 あの異常な経文は何だったのだろう。 そしてあの老人は。 もう二度と行くことはないだろうし、 今さら調べることもないだろうから、 今となっては分からない話だ。
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