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島の祠
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もう10年近く前の話。 私は友達と3人でキャンプに行ったんだ。 砂浜でつながった無人島。 私の地元で、 中学の時はよくそこで遊んだ。 夏場は家族連れも普通にキャンプするような島。 私は女、AとBは男、 中学の時の同級生。 3人とも19歳だった。 Bが一浪で大学に受かって、 晴れて3人とも大学生になった。 そのお祝いで、 入学前にバーベキューでもしようってノリだった。 まだ4月で少し肌寒かったけど、 テントをはれば問題なかった。 その無人島にはたくさんの防空壕が掘ってあって、 中学生の時に肝試しをしたこともあった。 その度に、 軍服の幽霊が出たとか、 子供の幽霊がとか、 話題にはなったが 実際に何か起こったことは一度もなかった。 島は一周で2~3キロ程度だったと思う。 南から北にまっすぐ島を縦断できる道と、 島を一周するような道があった。 南側が砂浜に接していて、 東側がちょっとした港。 北側と西側はほとんど岩場だった。 北側は比較的平らな場所が多くて、 私たちの遊び場もほとんどそこだった。 西側は、 島を一周する道も途中で途切れていたり、 雑草が多かったりで、 ちょっとした探検気分で行く以外は行くことはなかった。 キャンプ当日も、 私たちは北側の平地にテントを張った。 バーベキューもそれなりに楽しく終わって、 3人で川の字になって寝た。 Bが肝試しをしようとか言ってたけど、 Aも私も今さらめんどくさいと 相手にしなかった。 次の日の朝、 私たちはコーン、コーンという、 釘を打つような音で目をさました。 何の音だろうと気にはなったけど、 音源を捜そうとまでは思わなかった。 昼過ぎ、 テントを片付けて島を出ようと 島を縦断する道を歩いていくと、 島を一周する道を西側から歩いてくる5人の団体と鉢合わせした。 彼らは2m近くある古びた板を20枚以上運んでいて、 全員作業服を着ていた。 彼らは軽く会釈をすると、 そのまま島から出て行った。 ふと彼らが来た道に目を向けると、 もう1人こちらに向かって歩いてくる人影があった。 あきらかに服装が違って、 神主さんか何かだろうと思った。 その男の人は、 まっすぐ私たちの前にやってきた。 神主「君たち、昨日からここにいたの?」 A「はい、キャンプしてました」 神主「そっか、う~ん、大丈夫だと思うけど、 何かあったらここに連絡して」 そう言うと、 神主さんは私たちに名刺を差し出した。 A「何かある可能性があるんですか?」 神主「いや、いまちょっと儀式をやって、 こんな時期に島に人がいると思わなくってさ」 A「この島で儀式なんかするんですか?」 神主「ああ、海開き前の安全祈願だよ」 私「ご苦労様です。 さっきの人たちもその関係の人ですか?」 神主「あの人たちは、町役場の人。 設営の手伝いをしてもらっただけ」 私たちは、 納得して神主さんが島から出て行くのを見送った。 Bがすぐに、 儀式をした場所を見に行きたいと言い出した。 私も、子供の頃よく遊んだ場所に、 そんなところがあるのは驚きだった。 西側に向かって歩いていくと、 彼らが歩いたであろう獣道が残っていて 比較的簡単にその場所は見つかった。 他の防空壕に比べると 明らかに大きさの違う穴が海の方を向いて開いていた。 高さも横幅も2m以上あったと思う。 そして、その穴に 真新しい木の板が穴を塞ぐように打ち付けてあった。 塞いである防空壕はいくつもあったが、 こんな塞ぎ方をされているのは初めて見た。 私達が聞いた音は、 これを打ち付ける音だったのだと思う。 B「お、あれ、あそこから中見えそうじゃね?」 Bが指差したところを見ると、 穴の左上あたりに、 板と穴に隙間があるのがわかった。 背が届く高さではなかったため、 AがBを肩車して中を覗こうと試みた。 B「だめ、真っ暗。全く見えないわ。 ってか、なんだこれ、 板の奥にさらに布が目張りしてある」 そういって、 Bが板に少し体重をかけた時、 バリバリッと音がして、 一番上の板がはがれてしまった。 AとBはバランスを崩して 尻餅をついていた。 私「ちょっと、大丈夫?怪我してない?」 B「おまえしっかり支えろよ・・・あぶね~」 A「いや、お前が上でバランス崩すのが悪いだろ・・・」 とりあえず、 AもBも怪我はないようだった。 改めて穴を見てみると、 剥がれた板の奥に真っ黒な布が張ってあるのがわかった。 A「板の奥にさらに布って、普通じゃなくない?」 B「なんつーか、元に戻して帰った方が良いと思う」 そう言って、 二人は剥がれた板を元に戻し始めた。 ただ、長さが2m以上ある板を 肩車の状態で固定するのはちょっと無理があって、 どうしても板の反対側を抑える人が必要だった。 周りを見回すと、 海にはいくつも岩が落ちていて、 それらを積み上げれば簡単な踏み台は作れそうだった。 AとBが数回往復して、 50センチほどの踏み台を穴の右側に積み上げた。 身長の関係でAが私を肩車して、 Bが板の反対側を抑えることになった。 Bはぶーぶー言っていた。 Aは重い、足が太いと言っていた。 私はとりあえず、 Aの頭を数回叩いておいた。 板を元の場所に戻そうと持ち上げた時、 板の奥に張られた布が 少し剥がれていることに気づいた。 私は、AとBにそのことを伝えて、 先にそっちを直そうと言った。 元に戻そうと布を少し引っ張った時だった。 西に傾きかけた太陽の光が 私の背中に当たるのを感じた。 同時にほんの少しだが、 布の隙間から穴の中が見えた。 そこにはおびただしい数の御札が張られていた。 縄に括り付けられた御札が 穴の中を埋め尽くしていた。 そして、・・・・・・私は見てしまったのだ。 御札の隙間に見えたもの、 それは間違いなく顔だった。 まっしろい能面のような顔。 目は細くまっすぐ顔の端まで伸びていた。 真っ暗な中で、 その顔だけが白く浮き上がって見えた。 黒目、白目の区別はつかなかったが、 間違いなく目が合ったのを感じた。 すると、 それは三日月形の口を大きく横に広げ、 にやりと微笑んだ。 私は悲鳴をあげ、 板を突き放すようにして Aと一緒に後ろに倒れた。 それからのことは、 よく覚えていない。 気がつくと私は病室のベッドの上にいた。 AとBが、 私が頭を打ったのだと思い 病院に運んでくれていた。 親も来ていて、 事情は二人から聞いていた。 AとBは、 医者から特に問題がなさそうだという結果を聞いてから、 もう一度同じ場所に戻って 穴を塞ぎ直してきたそうだった。 目を覚ましてから、 二人から何があったのか聞かれたが、 見たもののことを自分でも信じたくなくて、 御札があって怖くなったとだけ伝えた。 二人も塞ぎに行った時に、 御札があったことは確認していた。 何となく、 三人ともあの穴がなんなのか言及するのを避けていた。 私はその日のうちに家に帰ることができた。 親からはいい年して子供みたいなことを・・・ と叱られた。 本当はその日のうちに東京に戻る予定だったのだが、 頭を打った(ことになっている)から 体調に問題がおきるといけないので、 とりあえず自宅に一泊することになった。 私が見たものは何だったのだろうか。 見間違いだったのだろうか。 気のせいだったと思いたかったが、 昼間見た顔は私の記憶にはっきりと残っていた。 怖くて、 その日は電気をつけたまま寝ることにした。 朝方4時過ぎ、 私はふと目をさました。 電気が消えていた。 入り口のあたりに人が立っていた。 全身から汗が吹き出るのがわかった。 体は動く。 金縛りではない。 恐怖のあまり、 私は目をつぶった。 ひたすら時間が過ぎるのを待った。 何分経ったかわからない。 私は意を決してもう一度目を開けた。 人影は消えていた。 私は急いで電気をつけて、 部屋を見回した。 特に変わった様子はなかった。 恐る恐る入り口に近づいてみた。 何もないはず、 安心を得るために確認したかった。 私はショックのあまりそこに座り込んでしまった。 人影があったあたりに 小さな水溜りができていた。 それは、 そこに何者かがいたことを示す確かな証拠だった。 私はしばらくボーっとしていた。 なんでこんなことになったんだろう・・・ そんな感情だった。 女「さみしかった・・・」 耳元で、 そう囁く声が聞こえた。 女の声だった。 自分の体がガタガタと震えるのがわかった。 声にならない声をあげながら、 私は親の寝室に走った。 私「人がいたの、人が出たの。 怖い、怖い!」 多分、 私はそんな感じで父にうったえたのだと思う。 父は血相を変えて私の部屋に行ってくれた。 母もすぐに目をさまして、 私の手を握っていてくれた。 数分して父が戻ってきた。 父「大丈夫か? 部屋には誰もいなくなっていたぞ。 部屋もあらされてはいないみたいだったから、 向こうも逃げたんじゃないか?」 父は、 泥棒か何かだと思っていたのだと思う。 私「違うの、幽霊。女の幽霊」 父「幽霊? ・・・バカなことを言ってるんじゃない」 私ホントに出たの。 声も聞こえたし。 水溜りもできてた。 全く信じようとしない父を連れて、 私はもう一度部屋に行った。 水溜りは残っていた。 私「ほら、これ。ここにいたの」 父「・・・風呂上りに濡れたままだったんじゃないのか?」 正直、よくわからなくなっていた。 風呂上りの水滴ならそれでよかった。 聞こえた声も、 気のせいだったことにしたかった。 私「さわいでごめんなさい」 父「まあ、なにもなくてよかった」 そう言うと、 父は寝室へ戻っていった。 私は部屋で寝る気にはなれず、 リビングのソファーで横になった。 次の日、私はAに電話をした。 AとBには特になにも起きなかったと言っていた。 東京に帰った私は バイトを終えて帰宅した。 多少迷いはあったけど、 電気はつけて寝ることにした。 その日はなかなか寝付けなかった。 仕方なく、 深夜のテレビショッピングを見ていた。 ちょっと眠気を感じ始めたときだった。 テレビのすぐ横に、 女が立っていた。 あまりに突然すぎた。 女は微動だにせず、 少し下を向いていた。 ショートカット、 おかっぱに近い髪型。 服装はジーパンにTシャツ。 顔は、 前髪に隠れてほとんど見えなかった。 私は女と対峙したまま 身動きひとつとれずにいた。 テレビショッピングの 妙に明るい会話が部屋に流れていた。 私が瞬きをした瞬間、 女は消えていた。 女がいたところには、 やはり水溜りができていた。 私は部屋を飛び出すと、 Aに電話をして助けを求めた。 私「A?遅くにごめん。 あのね、幽霊が出たの。 ホントなの。 信じられないと思うけど」 A「マジで言ってるの? 今から行くよ。 東京のアパート?」 私「うん、でも、 近くのコンビニに行くからそこに来て」 Aは、 私の家から車で 30分程度のところに住んでいた。 Aはすぐに来てくれた。 起きたことを説明して、 部屋を見てもらった。 水溜りは残っていた。 ふき取ろうとも思ったけど、 気持ち悪くて触れなかった。 A「お祓いだよな…」 私「うん、そうする。 どこに言えば良いんだろう」 A「このまえ名刺をくれた神主さんは?」 私「ああ、そうか。何か知ってるのかも」 私達は、 近くのファミレスで朝が来るのを待った。 次の日の朝、 Aが名刺にあった番号に電話をした。 A「こんにちは…Hさんのお宅でしょうか? この前、○○島で会った学生です。 実はちょっと困ったことになりまして…」 話はすぐについたようだった。 今からでも来なさいと言われたらしい。 まさか、 2日でまた地元に帰ることになるとは思わなかった。 Aが車で名刺の住所まで送ってくれた。 午後2時過ぎ、 Hさん(神主さん)のお宅を訪ねると あの時の男の人が迎えてくれた。 Hさんは普通の服装で、 見た感じは優しい顔で小太りのおじさんだった。 私は起きた事を正直に話した。 洞窟の板をはがしてしまったことも伝えた。 Hさん「ああ、そしたらまずはそれが先だ。 ちょっとここで待っててくれるかな」 そう言って、お茶を出すと すぐに家を出て行ってしまった。 Aと私は状況が把握できないまま そこで待っていた。 1時間以上たってHさんが戻ってきた。 Hさん「うん、お待たせ。 向こうはもう大丈夫だった。 あとは君だね」 A「すいません、 あの洞窟はなんなんですか?」 Hさん「うん、それも合わせて説明するよ。 聞いた方がスッキリするでしょ」 そう言うと、 次のようなことを教えてくれた。 まず、 私達の地元は東西を山に挟まれている。 そして、それらの山は それぞれ強い神様によって守られている。 だから昔は、 いろいろな霊とかそういったものは 霊的に弱い私達の住む町を通り道のように使っていた。 ところがある時、 町に流れ込む川の増水を防ぐために治水工事を行って、 さらに水の神様を祭る祠を川の上流に作ってしまった。 その結果、 通り抜けられなくなった霊が 町に溜まるようになった。 そこで作られたのが、 あの島の洞窟。 正しくは祠。 あそこで、 霊の流れを切って 町に入らないようにしたんだそうだ。 ただ、それで解決というわけにはいかなくて、 今度は山を隔てた周りの町で 病気とか悪いことが起きるようになった。 で、どうしたか。 島の祠は封じて、 川の上流の祠の場所を移動した。 霊の流れは元に戻したということ。 でも、封じたとはいえ 島の祠は残ってしまった。 霊を退ける力は残っていて、 逆にそれを抑えているという変な状態。 不安定な状態を作ったことで、 その島のあたりによどみができるみたいに 霊が溜まってしまうことがあるそうだった。 Hさん曰く、 西から流れてくる海流が島にぶつかって、 西側に渦潮ができる様子を想像すると わかりやすいとのことだった。 そして、 私はその滞留していた霊を 拾ってしまったんだろうといわれた。 あの日、 Hさんは海開き前の安全祈願をしていたのだけれど、 そのために一時的に祠を開いて ストレスを逃がすようなことをしたんだそうだ。 私達が板をはがしてしまったこと自体は、 それほど大きな問題ではないと言われた。 その時見えた白い顔については よくわからないとのことだった。 板は、直したとはいえ きちんと封印されていないと困るので、 確認に行って来たのだそうだ。 そして、本題。 私に憑いている霊は祓えるのかということ。 Hさん「まずは、やってみましょう」 私「あの、お金はかかるんですか?」 Hさん「ああ、半分は私のせいですから良いですよ」 そう言うと、私は別室に通された。 板の間に神棚の豪華版のようなものがあった。 Hさんが着替えてすぐに戻ってきた。 棒のさきに白い紙がついた 例の道具を持っていた。 何かぶつぶつ言いつつ 私の前でそれを振っていた。 しばらくするとHさんが、 汗を滴らせながらこう言った。 Hさん「供養する方法を考えましょう」 Hさん「祓うこともできるかもしれませんが、 鎮める方が間違いないと思います。 推測ですが、 この女性は山陰地方から流れてきています。 多分○○のあたりだと思います。 そこで、女性を供養する方法を考えましょう」 A「祓えなかったんですか? 詳しい場所がわからずに供養ってどうするんですか?」 Hさん「霊が出るのは怖いと思います。 ただ、命に関わるような感じはしません。 それならば、時間をかけてでも 安全な方法が良くないですか?」 私「お祓いは危険なんですか?」 Hさん「リスクはあると思います」 私「わかりました。 山陰地方の○○に行けば良いんですね」 A「え、ホントに行くのかよ」 私「だって、しょうがないじゃない」 とりあえず、 解決の糸口が見つかっただけで安心できた。 何より、 私にはほかにすがるものがなかった。 次の日、 私は山陰地方に向かう電車に乗っていた。 Hさんはついては来てくれなかった。 お願いしたかったが、 さすがに無理があると思った。 いつでも連絡をください、 とだけ言われた。 Aはついて来てくれた。 心強かった。 *○という地域に着くと、 全身に嫌な感覚が走った。 私はそこに座り込み、 嘔吐していた。 すでに時間は夜の7時をまわっていたため、 予約してあったホテルに入った。 フロントで、 近くのお寺や神社について聞いてみると、 大きなお寺なら… と△△寺というお寺を教えられた。 本当はここからが重要なんだと思うんだけど、 実はよく覚えていない。 お寺や霊場の情報は Aが走り回って集めてくれたようだった。 私は精神的に限界で、 ほとんど眠れず、 ただAに案内されるところに ふらふらと付いていく状態だった。 時々現れる女の影が 私をさらに追い詰めていった。 何の手がかりもなかったけれど、 何となくその場所に行けばわかるような気がしていた。 それは、○○に着いたときに感じていた。 5日ほどその地域の仏閣を回って、 たどりついたC寺。 そこに着いたときのことは覚えている。 ああ、ここだ、 って思った。 それまでふらふら歩いていた私が、 Aを追い抜いてお寺に入っていった。 私「すいません、こんにちは」 住職「こんにちは、いらっしゃい」 私「あの…」 住職「これは…また…、 ご苦労なされたでしょう」 私「え、わかるんですか?」 すごい希望が心に湧いてくるのがわかった。 ああ、これで助かるんだ、と思った。 住職「まずは、ゆっくりお話をお聞きしましょう」 そう言われると、 私達は中へと案内された。 小さな板の間に通されると 冷たいお茶が出された。 私は、自分に起きたことを事細かに話した。 残念ながら、 住職さんにはその女性について わかることはなかった。 結局振り出しにもどったのか… と力が抜けるのがわかった。 また、住職さんは私の話に 何となく違和感を感じている顔つきだった。 住職「昨年、いろいろなお宅から 預かっていたものを供養して燃しました。 それが関係しているのかもしれませんが、 なんだか…」 私「そこに案内してください。 お願いします」 私達は境内の空き地に案内された。 なにもなかった。 ただの空き地だった。 住職「ここで燃したんです」 私「燃したものはどうしたんですか?」 住職「灰はそのまま埋めました」 私「掘り起こしてもよいですか?」 住職「…かまわないですよ」 ここで、私が取った行動。 人って追い詰められると 正しい判断ができなくなるらしい。 私は、手でガリガリと地面を掘った。 狂ったように掘っていたそうだ。 すぐにAに止められて、 住職さんがスコップを持ってきてくれた。 爪が割れて、 血が出ていたけど どうでも良かった。 そして、 埋められた灰の中から いくつかの木片が出てきた。 布切れもあった。 よくわからないけど、 これだって思った。 正直、 体力的にも精神的にも 限界だったんだと思う。 特に、 最後に救われたと思ったのに 結局わからなかったのが致命的だった。 もう、これでもこれじゃなくても良いやと思っていた。 もし違ったら リスクがあっても祓ってもらおうと思った。 そして、私達は 木片や布切れをもらって帰路についた。 帰り際、住職さんが、 もし何かあったらまたいらっしゃい、 と言っていた。 帰りの電車では、 久しぶりに眠りにつくことができた。 次の日、 私達は神主さんの家を訪ねた。 私「これが関係あると思うんです」 そういって、 木片を神主さんに見せた。 神主さんはまじまじとそれを見つめると、 一言、おつかれさま、と言った。 私はまた、 別室に通された。 神主さんは、 火を炊きながら私に向かい合うように座った。 今度は、 紙のひらひらがついた道具は持っていなかった。 木片を木の台に載せると、 ぶつぶつと何か念じていた。 私はただただ、 その儀式を見つめていた。 神主「バカじゃないの?」 小さな声だったが、 そう聞こえた。 私はお腹のあたりが苦しくなるのを感じて 神主さんを見つめた。 相変わらず、神主さんは 下を向いて何かを念じている様子だった。 … … … 神主さんの声が止まって、 長い静寂があった。 神主「ねぇ…」 明らかにトーンの違う声で 神主さんが私に声をかけた。 そして、 神主さんは私の方を見ると 歯を見せて微笑んだ。 神主「バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないのバカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの? バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの? バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの? バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?」 神主さんの顔がみるみる崩れて、 あの能面のような顔になっていた。 あと私はただ、 涙を流して座っていた。 小躍りしながら 能面は部屋から出て行った。 その時、 部屋の隅にあの女が立っていることに気づいた。 私「もう、なんなのよ! いいかげんにしてよ! お願いだから!」 私は女に向かって叫んでいた。 異変に気づいたAが 部屋に入ってきた。 私「A、あそこ、見えるでしょ、あそこ」 私は女のいる方に目線を向けて Aに女の場所を伝えた。 A「え、あ、うわ、ええ、あ、え??」 明らかに錯乱していた。 Aにも女は見えているようだった。 A「神主さんは、神主さん、神主さんは?」 私は答えずに Aの手をとって部屋から逃げ出した。 女は部屋の隅で立ったまま 微動だにしていなかった。 私達は車に乗ると すぐにそこを離れて、 遠くのファミレスに入った。 私はしばらく泣いていた。 AはBに電話をしていた。 数時間後、 Bがファミレスにやってきた。 すこし落ち着いた私は 二人に神主さんが豹変したことと、 洞窟で見た能面のことを話した。 Aは女を見てしまっただけに、 顔色が真っ青だった。 B「まずその神主さんにもう一度会ってくる」 A「は? 絶対やめたほうが良いって。 危ないし」 B「大丈夫、二人はここで待ってて」 そう言うと Bは地元にいる仲間数人に電話をしていた。 B「じゃあ行って来るね」 そう言ってBはファミレスから出て行った。 私達はBからの連絡を待った。 しばらくしてBから連絡があった。 言われた場所に来たけれど、 それらしい家がないとのこと。 そんなはずはないとAが伝えるが、 どうしても見つからないといわれた。 私達も意を決してそこに向かった。 B「ここらへんで合ってるだろ?」 A「うん、このあたり」 A「あれ…なんで?ない」 私「うそでしょ、 だってここにあったよ。 住所も合ってる」 神主さんがいたはずの家は 空き家になっていた。 見た目も明らかに違っていて、 もう数年は人が住んでいないように見えた。 D「B、近くの人に聞いてみたけど そんな家ないって」 Bは5人も仲間を集めていて、 その人たちが近所の家で聞き込みをしてくれていた。 B「そっか、ありがとう。 今日は解散で。ごめんな」 D「おれたちも少し調べてみるわ」 そう言って、 D達はそれぞれの車に乗って帰っていった。 もう何がなんだかわからなかった。 どうしてよいかわからず、 頼るものもなくなって 私はそこに座り込んでしまった。 私「もうヤダ」 ただ、 駄々をこねる子供のように 私はそこで泣いていた。 AとBはしばらく私を励ましたりしたあと、 二人で話をしていた。 A「今からもう一度○○に行こう」 実は、私もそうしたいと思っていた。 ただ、 1人で行動するのは嫌で、 でもそんな遠くまで またAを連れて行くのもダメな気がして言えずにいた。 うれしかった。 そこからAとBは交代で運転して、 丸一日かけて○○まで私を連れて行ってくれた。 向かった先はC寺。 お昼過ぎにC寺に着くと、 住職さんは待っていたように家の前にいた。 住職「こんにちは」 私「あの、やっぱりだめで…」 住職「落ち着いて、 ゆっくり話を聞きますよ」 やさしい目をしていた 住職「そちらの方もですね」 住職さんはBに向かってそう言った。 Bはハっとした顔をして、 静かにうなずいた。 まず驚いたのはBも憑かれていたこと。 Bは私とAが苦労しているのを知って、 自分のことは自分で解決しようと思ったらしい。 住職さんは、 私に憑いている女は この地と関係があるかわからないと言っていた。 ただ、 あなたがそう感じるなら そうなのかもしれないとも言っていた。 そして、 すぐに祓いましょう と言って念仏を唱えてくれた。 なんとなくだが、 体が軽くなった気がした。 元々それほど強い念があるわけではないから これで大丈夫だと言われた。 うれしくて私はそこで泣き崩れた。 問題はBの方で、 ちょっとやっかいらしかった。 結局Bはそのお寺で数ヶ月過ごすことになる。 ちなみに、 二人とも有料だった(苦笑) 最後に私が見た能面について。 住職さんにも良くわからないが、 憑いているわけではない。 もしかすると妖怪とか、 その地の神様の類ではないかと言っていた。 住職さん曰く、 その能面が神主の姿の時に語っていた話(霊の通り道とか)は 信憑性がある気がするとのこと。 どんな理由にせよ、 その能面はその地域にずっと昔からいるのではないか。 祠で祭られた何かの変化した姿なのか、 上流の水神様に関連した何かなのか、 わからないけれど、 間違いないのは関わらない方が良いということ。 もしかすると、 その地域のお年寄りで 知ってる人がいるかもしれないとも言ってた。 数日後、 私とAはBを残して東京に戻った。 その後私の周りで霊的なことは起こっていない。 AとBとは今でも仲の良い友達でいる。 BはC寺から帰ってくるとき、 そこで作った彼女を連れて帰ってきた。 結局Bは数年後 その人と結婚して今は2児の父だ。 Aの女関係はよくわからない。 とりあえず独身。 私も独身(苦笑) でも、 健康で問題なく生活できていることに感謝している。 後日談 ここからはB談 夜ベッドに腰掛けていたら、 足にひんやりした感覚があって 気づいたら濡れていたことがあった。 夜洗面所で手を洗っていたら、 鏡に子供がうつった気がして 驚いて後ろを振り返ったが誰もいなかった。 子供の笑い声が聞こえて 辺りを探しても 誰もいないことが何度かあった。 男の子の顔が崩れて 自分にまとわりついてくるような夢を見た。 お寺にお祓いに行ったけど 変化がなかった。 気にしたら負けだと思って、 気づかない振りでごまかして数日たつうちに、 Aから電話が来て 私達に合流することになったそうだ。 ここからはC寺の住職さん談 Bに憑いていたのは 小さな男の子の霊だったらしい。 私に憑いていた女よりも古くて強い霊で、 簡単には祓えそうもない。 しばらくお寺で生活して Bと霊とのつながりが薄れるのを待つしかないと言っていた。 結果的にBはその寺にとどまることになり、 今も年に1回通っている。 質問にもあったけど、 神主、能面、女の霊、男の子の霊のつながりは 私にもよくわからないんだ。 あったことをそのまま書いたから、 小説なら水があったこととかも 後々の布石になるのだろうけど、 そんな気の利いたことはなかった。 ただ、あの後D(Bの仲間)が いろいろ調べてわかったことを付け加えて、 最後に私なりの解釈を書いておくことにする。 D達から聞いてわかったこと 私達がキャンプをした次の日の朝、 町の職員は確かに洞窟の板の張替えをしたらしい。 ただ、その場に神主は呼んでいないとのこと。 町の職員が板を張り替えるのは数年に1度で、 洞窟は中に不法投棄されたガラス片などが落ちているため 危険だからだそうだ。 御札が貼ってあるかどうかは把握してないらしい。 私とAが訪問した神主宅はやはり存在してなくて、 そこは数年前から空き家だった。 川の上流には 確かに治水工事の安全を祈願した祠があった。 島にあった洞窟は 治水工事以前からずっとあるものらしい。 昔から漁の安全を祈願する場所として使われていたらしいが、 戦後にはすでにふさがれていたそうだ。 お年寄りの中には洞窟の存在を知っている人はいたが、 何であるのか、何で塞がれているのか 知っている人はいなかった。 名刺はC寺で焼いてもらった。 電話番号がつながるかとか気になったけど、 それよりももうこれ以上関わりたくないという気持ちが強かった覚えがある。 最後にわたしなりの解釈 C寺の住職さんの言っていたことも含めてだけど、 元々神主さんは存在していなくて、 能面のような姿の霊的な何かが 神主の姿で私達の前に現れたのだと思う。 バカじゃないの? と言われたとき私が感じたのは “強烈な悪意”で、 意味もないのにがんばって無駄だったね~ って感じだった。 私のことを精神的に追い詰めて楽しんでいたのか、 もしかしたらそれで私が死ぬことを望んでいたようにも感じる。 タイミング良く(?) 私とBに霊が憑いた理由はわからないけれど、 もしかすると能面に支配されるような状態の霊が多数いて、 その中から女と子供を擦り付けられたような感じなのかもしれない。 C寺の住職さんも、 私と女の霊との繋がりは憑かれるというには あまりに弱いものだと言っていた。 能面は島に祭られていた何かの変化した姿だと私は思っている。 後から考えると、 霊道の話をしていた時に 島の祠を封じたことを不満げに話したような気もする。 あそこまで手のこんだしかけをしてまで、 私達にいたずら(?)をした理由はわからない。 世の中には触れちゃいけないものがあるし、 交通事故にあうように、 突然向こうからやってくることもある。 そういうことだと思う。
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