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追い抜くバイク
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まず最初に、 私には「霊感」という物が全く無く、 またそういった類の物も信じてはおりませんでした。 「見える」という友人から霊の話を聞いていても、 自分に見えないと存在が分からないし、 また友人が私を怖がらせようとしているだけだと思っていました。 しかしそんな私の考えを 根底から覆す事件が起きてしまったのです 十年程前の話でしょうか… 当時私の仕事は忙しく、 休みがほとんど取れない毎日を過ごしていました。 そんなある日、 偶然にも平日の休みが貰えたのです、 私の胸は躍りました。 「久しぶりに車でゆっくりドライブができるぞ」 私は早速友人を誘おうと考えましたが、 今日は平日です 何人かに連絡しましたが やはり友人達は仕事で都合が付きませんでした。 私は悩みました。 そしてしばらく考えた結果、 どうせ一人で行くならカーブがきつい事で有名な あの「六甲山ハイウェイ」に行きたいなと考えました。 もちろん誰かを乗せて走るなら安全運転を心掛けますが、 一人で走るのなら少し勾配の急なコースで 走り屋気分を味わってみたいと思ったのです。 そう考えた私はいても立ってもいられなくなり、 すぐ準備をして六甲山ハイウェイに向かいました。 一時間程走り、 六甲山ハイウェイに到着しました。 平日だからなのかあまり車は通ってはいません 初めて走るコースだったので私は少し安心し、 六甲山を走り始めました。 想像以上の急カーブが私を待ち受けます。 私はその一つ一つをゆっくりと曲がりながら ドライブを楽しんでおりました。 窓から差すぽかぽかとした陽気、 心地良い風。 私は 「ああ、来て良かったなあ」 と思いました。 しかしそんな私の思いをかき消すかの如く、 けたたましいエンジン音で 後ろから一台のバイクが近付いて来ました。 そのバイクは私の車の後ろに付け、 ブンブンと煽り始めました そして蛇行を繰り返します。 私は左端に寄り速度を落とし、 彼が追い越してくれる事を期待しました。 すると彼は追い越す事無く 一層激しく煽り始めたのです! 私は 「これは厄介な奴に目をつけられたな…」 と思いました。 どうしようか迷っていると彼は私の車に横付けし、 ヘルメットのシールドを上げて 「邪魔じゃい!ボケェ!」 と怒鳴り、 私を追い越し急加速して カーブの向こうへと消えて行きました。 私は少しブルーになりましたが、 気を取り直してまた走り始めました。 しかし五分程走った時 後ろからけたたましいエンジンが近付いて来たかと思うと 私の車の後ろに付けて煽り、蛇行を繰り返します。 しかもそのバイクはさっきのバイクではありませんか! 私は焦りました… 六甲はそんな一瞬で走り抜けてしまえる程 短いコースでは無い筈です。 彼はさっきと同じように私の車に横付けし、 「邪魔じゃい!ボケェ!」 と怒鳴って 私を追い越して行きました。 私は冷静に考えました… どこかに抜け道があり、 そこを通って来て私に嫌がらせをしているのか? そんなわけの分からない事も考えました。 その時、 「ブォォォー!!」 まただ、またやって来たのです! ミラーに目をやると それは確かにさっきの彼です! 私は混乱しました… そして彼は三度同じ事を繰り返し、 「邪魔じゃい!ボケェ!」 と言い私を追い越しました。 私はもう何が何だか分からなくなり 完全にパニック状態でした。 この辺には抜け道等は見当たらないのです! そして私は今追い越して行った彼の方に目をやりました しかし今回は何か様子がおかしい…… さっきとは何かが違う……!! 私は血の気が引きました… 誰かが後ろに乗っているのです 後ろに乗っていたのはなんと白髪の老人でした。 老人は不気味な笑みを浮かべています それがこの世の存在でない事は即座に分かりました。 「まずい!!」 私は心の中で叫びました そして彼のバイクはさっきとは違い、 カーブを曲がる事なくガードレールを飛び越えて 谷底へと真っ逆さまに落ちていったのです… 私は車を停め警察に連絡しました。 既に日は暮れかかっています 私はショックでした。 信じていなかった霊の存在が本当だった事、 そして一人の命が奪われてしまった事。 見てしまったのです 彼がガードレールを飛び越えて谷底に落ちる瞬間、 老人は宙に浮き上がり恍惚の表情で山へと消えて行く所を。 私は生まれて初めて恐怖に震えていました… その日警察が谷を捜索し、 遺体を発見しました。 もう分かっていましたが 発見された遺体はバイクの彼一人の物だけでした 警察に事情聴取で色々と聞かれましたが、 老人の事は話しませんでした 私は十年経った今でも 一人で山を走るのが怖いです。 あの老人の顔が脳裏に焼き付いて離れないのです…! なぜあのバイクが六甲山を一瞬で走り抜けられたのか なぜ三回目で「あれ」が乗っていたのか そしてなぜ彼だったのか。 それは分かりません しかし私は今、これだけは断言出来ます。 あれは、あの老人は間違い無く 「死神」だったのだと。
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