怖い話登録数18393話
恐怖感アップダークモード
(0件)
▼コンテンツには広告が含まれています
✕
根岸さんという青年が二階から飛び出した
お気に入り
1226
37
0
長編7分
コピー
「根岸さんという青年が二階から飛び出した」の朗読動画を探しています。YouTubeでこの話の朗読動画を見つけたらぜひ投稿していってください。
※YouTubeのURL必須
開始時間
00時間00分00秒
投稿する
根岸さんという青年は、最近、京都にあるおじの家の二階から飛び出した。 これは、たとえで言っているのではなくて、本当に根岸さんはその家の二階の窓から飛び降りて、その後、痛む足を引きずりながら市内の友人の下宿に転がりこんだのである。どうしてまた、彼はそんな危険な真似をしなければならなかったのか?それは以下の通りである。 ある日、親しく話す機会さえなかったおじが、突然電話をかけてきた。なんでも、大学で教授をしているそのおじが、突然海外にフィールドワークで出かけることになり、その間の家の管理を頼みたい、ということであった。 独身のおじの家には、たいして金目のものがあるわけではないが、研究用の資料が心配だと言うのである。現在東京に住む根岸さんは、京都の大学を出てから久しく訪れていない。 会ってみたい友人もいるし、滞在費がロハで、その上わずかながらギャラも出るというので、根岸さんは引き受けた。期間は未定だが、半年ほどかかる可能性もあるとのことだ。 おじは出かける前、根岸さんにしつこいくらいにこう言った。 「二階には、未整理の研究資料が散乱していてな。 まあ、いってみれば 二階全部がわしの書庫みたいなものだ。わしにとっては命より大切なものなんだ。 他人にはいじられたくない。たとえ、それが身内であってもな。 二階は足を踏み入れられるだけでも耐えられんのだ。 頼むぞ。 冗談で言ってるんじゃないんだ。」そういって、おじは根岸さんを睨みつけたという。 そして、初日の夜。ビデオもテレビもない家だが、根岸さんはソファーでくつろぎ、満ち足りた気分でいた。 が、その満ち足りた気持ちに水をさすものがあった。・・・・・話し声が、聞こえる。 ぼそぼそ、ヒソヒソと、誰かがそう遠くないところで会話しているのだ--押し殺した声で。声はどうやら、階段を伝わってくるようだ。 つまり---雨戸も締め切られ、真っ暗な二階から。「ほんとかよ・・・おい?」根岸さんは、わざと軽薄な口調でつぶやいた。 そして体を起こすと、階段を見上げた。つけっぱなしの照明も階段の途中までしか届いてはいない。 根岸さんは、耳をすましてみる。何も聞こえない。 今は、何も。京都に来て、一週間後。 根岸さんは、当初の満ち足りた気分が徐々にしぼんでいくのを感じた。旧友にあって馬鹿騒ぎをし、趣味の分野のショップをはしごするのは、なるほど楽しかった。 問題は家だ。宿がわりになっている、そして留守番を引き受けてもいるおじの家なのだ。 最初の数日は、それでもどうということはなかった。だが----。 夜ごと---いや、どうかすると昼間でも、二階から階段を伝わってくるのだ。………………人の声が。 もはや、耳のせいでは片付けられなかった。二人、あるいはそれ以上の人間が、ぼそりぼそりとしきりに何かを話している。 ザワザワ、ゾワゾワと多人数がしゃべっている、繁華街の雑踏の中で耳にするような音が聞こえてくることもあった。人声だけでは、ない。 ずるりずるりと足を引きずるみたいな音。あるいはぴょこたん、ぴょこたんと子供くらいの重さのものが、跳びはねているのではないかと思われる物音が、聞こえたりもした。 肝心の階段の下に行って上をうかがっても、何の気配もない。その時にかぎって寂として、耳が痛いくらいだ。 だが、他の部屋に行くと、やがてそれは始まる。過敏になってしかたのない神経を何とか休ませようとする、まさにその時にそれは始まるのだ。 風呂に入っているとき。ソファーで本を読んでいるとき。 あるいはこれから寝付こうとするとき。そしてある夕暮れ時、根岸さんはついに、二階に上がることを決意し、大型の懐中電灯を購入した。 (これなら、力まかせに殴れば、大の男でも殴り倒せるな・・・)根岸さんは、天井を見上げた。それから彼は、階段をのぼり始めた。 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし、ぎし、…………………ギシッ!手すりのところまでのぼると、そこからまず首をのばし、二階の廊下を見た。外はまだ明るいというのに、真っ暗だ。 誰かが、顔の前で白い手の平を、ひらひらと振っても気が付かずにいるに違いない。二階には、カギ状に折れ曲がった廊下と、その先の部屋しかないようだ。 拾い廊下は左右に本が乱雑に積まれ、天井に届くほどのその柱が、ずっと続いている。資料が散乱しているというおじの言葉は、この点で正しかった。 根岸さんは注意深く光を左右に向けた。とくに不審なものは、見当たらない。 床に厚く埃の層がたまっている。ここに人が立ち入った形跡はない。 (でも、書庫--なんだろ?おじは出入りしていたはずだが・・それとも?)角を曲がった廊下の突き当たりには、扉をはずされた部屋があった。やはり廊下同様ひどい埃だ。 (あの物音は、ここでしていたはずなんだ。二階には他の部屋なんてないんだからな。 廊下をのぞけば、他に部屋は一つも・・・)だが、人が入った形跡すらない。それでは、あの意味不明の会話は、どこから聞こえてきたというのだろう。 気負っていただけに、気持ちの張りが、ふにゃふにゃになってしまいそうだった。-----と。 根岸さんは、いきなり耳の中でカーンという鋭い音が聞こえたような気がした。それは、五感で感じ取れるものなどではなかった。 チリチリと、ジワジワと、とてつもなく嫌な気配がする。姿も何もない切迫感に似たものが、冷たく頭の後ろにはりついて、順番に髪の毛を一本一本逆立たせてゆくのだ………。 「何だって、いうんだ、よ」根岸さんは、意識して大きな声でそう口に出していた。心臓がドキドキする。 音がしない暗闇の中で、声は彼のものではなく、他の誰かが言ったように聞こえた。………………………ぺたん。 (アッ)今、何かが本当に聞こえたみたいな。自分の声などではない、何か別の。 ---空耳だろうか。ぺたん。 違う。本当に聞こえる。 廊下の向こう、階段をのぼりきったあたりから。ぺたん。 「--------------!」根岸さんは、その場に凍りついた。廊下の方に背を向けた姿勢のまま、もう動けない。 たとえなどではなく、彼の全身の毛が、ブワッと総毛立っていた。ぺたん。 あれは---足音ではないのか?素足が板敷きを踏む音。根岸さんが通って、埃がのぞかれたその足跡をなぞるようにして。 とてもゆっくりとだが、誰かが確実に廊下を歩いて、こちらに近づいてくる。玄関には時代遅れで、自分すら外すのにてこずるような、しっかりとした錠がおろされている。 二階に誰もいないことは、たった今、確認したばかりだ。そうなんだ。 それなのに---。異様な、足音だった。 妙にズレた間隔。忘れた頃に踏み出される、次の一歩。 いったいどうやったら、あんな歩き方ができるものか。いったいどんなものが、あんな歩き方をしているというのか。 ぺたん。それは、もうすぐ廊下の曲がり角にやってくる。 そうすれば姿が見える。根岸さんが、ほんの少し首を後ろに向けさえすれば。 だが、彼はそんなことはまっぴらだった。死んだ方がマシとさえ思うほど、あるまがまがしい確信が、爆発的に彼の中で膨らんでいたのだ。 (もしも、あれを見たら……見てしまったら。どうかなってしまう。 絶対にどうかなってしまう。俺は、どうかなってしまって、きっと、必ず)激しく震える手の動きにしたがって、前方を照らしたままの懐中電灯の光が本棚のガラスに反射する。 光を与えられてたガラスは、鏡の役割をはたして、根岸さんの背後にあるものを一瞬、映し出した。白っぽい--いや、ドロリとした灰色に近い、垂れて崩れたような形のもの。 それが、廊下の暗がりの角にちらり、と見えた。……………ぺたん!根岸さんは、何事かわめいていた。 ギャっと叫んだのかも知れなかった。体の自由は戻っていた。 そして彼は走り出した。どこへ?廊下とは正反対の、手近の窓の一つにである。 そこから外へ逃れるために---。……窓は開いた。 雨戸もだ。外はもう、闇がおりかけている。 降りるとすれば飛び降りるしかないのだが、危険極まりない。庭石があったら?いやコンクリートですら、ただですむかどうか。 けれども根岸さんの精神状態は、危険などにかまっている余裕はまったくなかった。彼は、サッシの上にあがると、できるだけ足を下にのばして先をさぐり、そうして手を放した。 ………ドサッ。運良く土の上に落ちることができ、一方の足をひねった程度ですんだ。 根岸さんは、足にかまう前に、背後を仰ぎ見た。スーーーッと音もなく、雨戸が閉まるところであった…………。 その後の根岸さんの行動は、すでに御存知のとおりだ。友人の下宿に転がりこんだ。 そして彼は、おじに国際電話をかけた。激怒するかと思ったおじは、意外にもため息をついただけであった。 根岸さんが東京に帰った後、これも意外なことであったが、当初の予定通りの謝礼金がおじから送られてきた。国際電話の折、根岸さんは一連の妖異のことを、やや感情的に--いや、ありていに言ってわれを忘れるくらい感情的になって、おじに訴えた。 あれは何であったのか?もし心当たりがあるのなら、ぜひ教えてくれ---と。だがおじは、そのことにはいっさい口を閉ざすのだった。 説明、弁解、謝罪、釈明、そのいずれもおじの口からは出なかった。ため息をついたときに、「一階にさえ、いてくれればな……」と、つぶやいただけであった。 根岸さんは、今日も夢を実現するべくフリーター生活を送り、彼のおじも京都の自宅でそれまで同様、一人で暮し続けている。たった一つ確実に言えることは、そんな両者にこの先、接点は二度とないということだけだ。
怖い話を読んでいると霊が寄ってくる?不安な方はこちらがおすすめ
感想や考察があればぜひコメントで教えてください ↓コメントする
この話は怖かったですか?
怖かった37
次はこちらの話なんていかがですか
続きを読む
※既読の話はオレンジ色の下線が灰色に変わります
ひっそりと話題になってる心霊系の本
会社を辞めてバイクにまたがり今日も会いにいく 日本一周心霊ノ旅
訳アリ心霊マンション 4巻【電子特典付き】 (バンチコミックス)
あかりとシロの心霊夜話 36巻
邪鬼の泪 浮雲心霊奇譚 (集英社文芸単行本)
心霊探偵八雲1 完全版 赤い瞳は知っている 心霊探偵八雲 完全版 (講談社文庫)
心霊リスクマネジメント事例集2: ビジネス専門の霊能者「霊視経営コンサルタント」が教える「心霊リスクマネジメント」の事例をまとめた続編|前作1巻とは異なる事例が満載でビジネス上の心霊リスクや霊的なリスクヘッジの事例を知りたい時に辞典や辞書としても活用できる便利な事例集|ビジネスに必要なリスクマネジメントの一つである心霊リスクを知れる専門書|心霊リスクをビジネスに活かすヒントが知れる一冊 ... (霊視経営出版)
前の話:【洒落怖】山奥の家
次の話:【洒落怖】ロフトにあるお札
怖い話 No.9452
【洒落怖】汁掛け飯
朗読 はこわけあみ 酔いどれホラーV
2147
33
短編2分
怖い話 No.21298
【洒落怖】人が膝を抱え座りこんでる
1183
12
怖い話 No.8178
【洒落怖】川を眺める男
1556
29
怖い話 No.1955
【洒落怖】部屋のインターホンが鳴った
1499
27
短編1分
怖い話 No.1561
【洒落怖】深夜の最終電車
1801
48
怖い話 No.9721
【洒落怖】白い日傘
1558
50
中編4分
怖い話 No.22507
【洒落怖】古き神降臨
1112
14
3
怖い話 No.7992
【洒落怖】外出先のシャワー
1160
怖い話 No.9807
【洒落怖】四谷怪談の劇
1375
41
中編3分
怖い話 No.8230
【洒落怖】現場写真
933
38
1
心霊サイト運営者
全国心霊マップ
ghostmap
プロフィール
Twitter
新着洒落怖
留守番電話
舞台学科による演劇
分譲現場
謎の会話
たけのこ掘り
かんのけ坂
4階のベランダから落ちた友人
林間学校で登山
自転車に乗っている夢
雄別炭鉱
運動会?
坪の内
新着コメント
袋叩き
ペイント
ばあちゃんの人形
呪いのエノキ人形
ラフレシアを求めて
読書家
拍子抜け
水泳部はほとんどが女子
自称犯人