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ウサギの墓
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小学校の頃の話。 自分は飼育委員をしていた。 学校には鶏とウサギと亀がいて、 それらのえさやりや小屋の掃除、 死体の始末をするのが仕事だった。 繁殖期になると ウサギはたくさん子供を生み、 九割くらいは死んだ。 それを腐る前に、 スコップや割り箸で小屋から出して埋めていた。 えさやりや掃除は 先生の見張りがあるからみんなちゃんとやるのだけど、 死体の始末はなぜかほとんど自分がやっていた。 子ウサギの目にたかるアリとかみたら、 そりゃ誰も触りたくないだろう、と思う。 繁殖期も過ぎたある日、 クラスの女の子の様子がおかしくなった。 その子とはそんなに仲良くなくて、 人だかりができてから様子がおかしいことに気づいた。 人の肩越しに覗き込んで、驚いた。 人だかりの真ん中にいたのは、 でっかいウサギだった。 と思ったら、ウサギはいなくなっていて、 ウサギがいた場所に女の子がうずくまっていた。 次の授業は体育の時間で、 着替えなくちゃいけなかったんだけど、 声をかけても反応しない。 おなか痛いの?とか心配されてたけど、 体調不良じゃないんだろうな、と思った。 先生が来て、 その子は保健室に連れて行かれた。 放課後、ウサギを埋めていた場所を調べてみた。 掘り返されていて、 「ウサギのお墓」と書いた板や握りこぶし大の墓石、 墓の目印の枝(死体の数が多すぎて板が足りなかった)、 供え物としておいた枯れたクローバーとシロツメクサの花が ばらばらに散らばっていた。 たまに野犬が入ってくるので、 それの仕業かと思ったが、 掘り返された穴の側面は平らだった。 たぶん小型のスコップを使ったりしないと、 こういうふうにはならない、と思った。 おりしもクラスでは 「こっくりさん」がはやっていた。 やったことはなかったが。 その頃から自分はオカルト好きで、 こっくりさんの正体が 狐や狸といった動物霊だといわれていることは知っていた。 なんか関係あんのかな、 と墓を直しながら考えていると、 女の子が二人歩いてきた。 同じクラスの、 体育の時間の前に様子がおかしくなった子と 仲のいい子たちだった。 ウサギの墓は人のこないところに作っていたから (踏まれたらかわいそうだと思って)、 なんとなく予想はついた。 その二人を仮に永田さんと関原さんとする。 永田「なにしてんのっ?!」 自分「ウサギのお墓なおしてる」 永田「なんでっ?!くぁせふじこ」 自分「お墓、掘り返したん、永田さん?」 永田「関係ないやんそんなん!」 関原「うん、そう」 永田「せっちゃん?!?!」 関原「お墓の前で嘘ついたらあかんと思う」 永田さんはそんなこと言ったって、とか こいつ関係ない、とか言ってたけど、 関原さんがじっと黙っているので静かになった。 永田さんの足元には何匹か子ウサギがいた。 瞬きするたびにあちこち移動しているので、 幽霊みたいなものだとわかった。 丸まっててかわいかったけど、 何となく戸惑ってるようだった。 寝てるところを起こされたような。 自分「こっくりさんで使ったん?」 永田「うるさいわ!あんたには関係ないっ!」 関原「うん。こっくりさん、紙に鳥居さん描くやろ? あそこに骨置いてやってん」 自分「ふうん。うまくいったん?」 関原「きてくれたけど、帰ってくれへんかった。 おかえりくださいって言ったけど、いいえって」 自分「どうやって終ったん?」 関原「そのまま。いいえってなってたけど、 みかちゃんピアノがあるって言って、 (十円玉から)指はなしちゃった」 みかちゃんとは その日様子がおかしくなった子のことだ。 自分「永田さん、なんでそんなことしたん?」 永田「あたしのせいなん?!」 自分「なにが」 永田「みかちゃんおかしくなったん! せっちゃんはあたしがもってきた骨が悪いって!」 自分「そうなん?」 関原「なんか、みかちゃん、ウサギに見えたから……」 永田「意味わからへんっ!」 自分「ああ……あれ関原さんにも見えてたんや。濃い灰色の」 関原「うん、それ。ほかにも見た人いたで。 うち一人やったら、見間違いかなって思うけど……」 永田さん涙目。 関原「どうしたらいいんかな」 自分「とりあえず骨返してもらえへん? なんかかわいそうやし」 関原「うん。なっちゃん」 永田さんは半泣きで ランドセルからスーパーのビニール袋を出した。 ウサギのものらしき頭蓋骨が入っていた。 自分「たぶん、板の下を掘ったから こんなきれいな骨なんやろうけど(板の下のが一番古かった)、 新しいお墓掘ってたら虫とかいっぱい出てきたと思うで。 もうやめときや」 関原「虫出て来ぃひんくても、 お墓は掘ったらあかんやろ」 自分「それはそうやけど」 そうでも言わないと 永田さん言うこと聞きそうになかったし。 ともかく、骨を受け取り、 もどして土をかぶせた。 関原「○○(自分)さん、ごめんな」 永田「ごめんなさい」 自分「うちは別に……。 ウサギに謝った方がいいんちゃうかな」 三人で手を合わせた。 永田さんは泣いていた。 自分がたちあがると、 二人ともそれにならった。 関原さんは不安そうな顔をしていた。 関原「みかちゃん、大丈夫かな」 自分「大丈夫やといいなあ」 関原「ウサギ、こんで帰ってくれるかな。 お線香とかあげたほうがいい?」 自分「したいならやったほうがいいんちゃう?」 関原「なっちゃん家近いし、 家からお線香とってきてくれへん?」 永田「分かった……」 自分「うち、花摘んでくるわ」 関原「じゃあうち、お水汲んでくる」 永田さんは校門のほうへ、 関原さんは歯磨き用のコップを給食袋からとりだすと、 校舎の方へ走っていった。 永田さんの周りにいた子ウサギは、 何匹か彼女についていき、 何匹かはいつの間にか消えていた。 自分は体育館裏に行き、 ねじれ草や露草を集めた。 墓のところに戻ってくると、 関原さんは水を備えていた。 自分「関原さん。あのな、永田さんの足元……」 関原「うん、あれでうち、 あの骨がウサギのやったんやってわかってん。 なっちゃんは狐の骨、っていってたけど」 永田さんが子ウサギを連れて戻ってきた。 本人につれている自覚はないみたいだったが。 関原さんは永田さんからライターと線香を受け取り、 火をつけた。 振って火を消すと、煙が上がる。 関原さんは永田さんに淡々と説明した。 墓石がウサギを返す場所につながっている扉であること、 水は、それを霊にわかるように示し 入りやすくしている役割であること、 線香の煙は霊を導くための道で、 同時に自分たちを霊と分けてくれるものであること、 花は慰めのためのはなむけであること。 もっと簡単な表現だったが。 三人でもう一度手を合わせた。 目を開けると、 子ウサギはいなくなっていた。 そのときは。 翌日、みかちゃんは無事に登校してきた。 ウサギも見えなかった。 それから関原さんとはなんとなく仲良くなった。 あのあともたまに永田さんのそばに ウサギを見ることがあったのだが、 結局言わずじまいだった。
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