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俺がまだ学生時代の話です。 友達のAは、凄く怖がりなヤツでした。夜に仲間で集まって遊ぶときなどは、よく怖い話などをしてAをからかって遊んでたものです。 で、ある日、学校も休みで暇だったので、Aの家にでも遊びにいこうかと思い、昼過ぎくらいにAの家に遊びにいったのです。2人ともレゲーが好きで、ファミコンやスーパーファミコンなどに熱中して「これ懐かしいなぁ~」とか言いつつ盛り上がってました。 んで、ふと気がつくともう午後7時過ぎてたんですよ。とりあえず飯でも食うかぁ~って事になって、弁当屋に飯を買いにいき、またAの家に戻ってきて、TV見ながら晩飯食ってました。 丁度その時、TVで心霊特集みたいなのやってたんですよ。怖がりのAは、「チャンネル変えようやぁ~」とか言ってたのですが、Aの怖がってる反応が面白く、また俺もオカルト番組好きだったので、無理矢理チャンネルそのままで見てました。 番組も終わりかけてた頃、ふと俺は、あるイタズラを思いつきました。ベタなイタズラですが「あっ!!お前の後ろに霊が見えるぞ!!」ってな感じで怖がらせようと思ったのです。 今思い返せば、その他愛のないイタズラが恐怖の始まりだったのです。俺は、頃合いを見計らって、Aの左肩の上の一点を凝視し始めたのです。 もちろん、いかにも「そこになにかいる!!」とAに思わせる為の芝居です。やがて、Aはそれに気付きました。 不思議そうな顔をして「何?何見てんの?」と聞いてきましたが、俺はそれに答えずに無言で、ただAの左肩の一点を見つめます。小刻みに震えてみたり、驚愕の表情を浮かべたりしながら。 我ながら、かなりの演技力だったと思います。それを見て、Aもかなり不安になったらしく、後ろを振り向こうとしました。 その時、「振り向くな!!」俺は叫びました。Aはかなりビビッて俺の顔を見ています。 もちろん、俺は心の中では「しめしめ」と思ってましたけど。「いいか、何があっても絶対振り向くなよ。 お前の左肩の上に、白目むいて大口を開けて、狂ったように笑ってる女がいるんだよ」と、俺が言ったあと、Aは暫く固まってました。しかし、いくら怖がりといっても、それを鵜呑みに信じるはずもなく、「・・・お前なぁ、また俺を怖がらせようとしてんだろ・・・」と、疑いの目を向けてきたのです。 俺はヤバいと思い、「馬鹿野郎!マジなんだよマジ!とにかくここから出るぞ!!」と焦って芝居を続けましたが、Aは完全に俺を疑っています。その時です。 「はははははははははははははははははははははは!!!!!!」と絶妙のタイミングで、女の狂ったような笑い声が聞こえたのです。俺も想像してなかった出来事にビビリましたが、何の事はない、つけっぱなしにしてたTVの、例の心霊特集の再現VTRの声だったのです。 しかし、Aは気が動転してるのか、俺の顔を見ながら震えています。「これはイケる!!」と思った俺は、「逃げるぞ!!」と叫び、玄関に走りました。 Aも必死の表情でそれに続きます。Aの家を飛び出して、100mくらい走ったでしょうか。 俺は突然止まり「あはははははははは!!」と笑い出しました。もうタネあかしをしようかなと思って。 (しかし、思い返してみると、俺も相当イヤなヤツですね・・・)Aは、きょとんとした表情です。「ゴメン、全部ウソ!!さっきの女の声もTVの声!!」そう言うと、流石にAも理解したらしく、怒りの表情で俺を睨んできます。 そして、Aの俺に対する小言が30分くらい続きました。そりゃ、怒って当然だと思います。 結局、Aを完全になだめるのに1時間くらいかかりました。「Aに昼飯を1週間おごる」という条件で・・・んで、それから3日くらいたった(もちろん昼飯は毎日おごりました)学校での昼休みの時、Aが真剣な表情で俺に聞いてきたのです。 「なぁ、この前の件、ホントに冗談だったんだよな?」俺は、こいつホントに怖がりなんだなぁと呆れつつも、「当たり前じゃん。全部俺の芝居だって。 アレか?まさか本物の幽霊でも見たのか?」と、からかいつつ聞くとAは、「ヤッパそうだよな。・・・イヤ、いいんだ。 気にせんでくれ」と沈んだ表情で言いました。俺はちょっとやりすぎたかなと罪悪感を感じていました。 その次の日からです。Aが学校にこなくなりました。 丁度インフルエンザが流行ってた時期だったので、風邪でも引いたのかなと思い、その時は別に気にしませんでした。しかし、それからさらに3日たってもAは学校に来ませんでした。 携帯にも出ません。流石に心配になり明日の学校帰りにでもAの家に行こう、と思いました。 その日の晩の事です。俺の携帯に着信が来ました。 Aからです。「おう、どうした?風邪でも引いたか?お陰でこっちは昼飯おごらずにすんだけどなーハハハ」と冗談混じりに言ったのですが、Aは無言です。 ちょっと心配になり「具合でも悪いんか?どーした?」と聞くと、かすれるような声でAが言いました。「・・・なぁ。 この前の事、ホントに冗談だったよな?俺を怖がらせる為のウソだったんだよな?」俺は、まだそんな事気にしてんのかこいつと思い、「だから、全部ウソだって!この前も聞いたけど、本物の幽霊でも見たのかよ!?」と聞くと、Aは暫く無言になり、こう呟きました。「見た」それを聞いて、俺も一瞬ビビッたんですが、もしかしたらAは、この前驚かされた仕返しを俺にしようと、ウソを言ってるんじゃないかとも思ったのです。 「またまた。今度は俺を怖がらせようとしてんだろ?それか、神経過敏になりすぎて幻覚でもみたんじゃねーの?それか悪夢とか」「・・・俺も最初はそう思ったよ。 だけど、あれから毎晩出るんだよ。最初は、夢の中だった。 白目むいて、アゴがはずれんばかりの大口開けながら狂ったように笑う女が。・・・最初は夢見るだけだったけど、ここ2~3日、いつも深夜に目が覚めるんだよ。 で、何か気配を感じて横を見ると、その女が隣に寝てんだよ・・・アッアッ!!アッアッ!!って狂ったように笑いながら!!もしかしたら、それも夢の一部かもしんないけど・・・お前、ホントに何も見てないんだよな!?俺もう、耐えられねーよ・・・」俺は暫くの間、何も言葉が出ませんでした。半分は、俺に仕返しをする為にウソを言ってるのだと思い、半分はあまりにも真剣にAが話しているので、本当の事ではないのかと・・・でも、あの女は俺が想像で作りだしたモノなので、実在するわけがないのです。 「・・・とりあえず、明日学校出て来いよ」そう言って、俺は電話を切りました。次の日、Aは学校に来ました。 思いのほか顔色も良く、沈んだ感じもないので、「あ~こいつやっぱり仕返しでウソついたんだなぁ~」と俺は思いました。Aは俺の姿を見つけると、笑いながら駆け寄って来ました。 「よう!」「よう、じゃねーよお前。やっぱり昨日の話はデタラメだったんだな?」そう俺が笑いながら言うと、Aは真剣な表情になり、こう言いました。 「いや、あれはウソじゃない。でも、俺はアイツにもう苦しめられなくてすむ。 やっと解放されたよ」「ハイハイ、もういいって。お前も大した役者だよな。 でも、解放されたって何だよ?」と俺が聞くと、Aがニヤリと笑いながらこう言いました。「次はパパの所へ行く。 そうあの女が言ってたから。んじゃ、気をつけろよな」そう言いながら、Aは教室に入っていきました。 「一本とられた」俺はそう思いました。Aの話だと、俺の想像が作り上げたバケモノが、Aの所へ現れ、次に創造主である俺の所へ現れる、と言う事なんでしょう。 「Aもなかなか、味な仕返しの仕方するじゃないか」と、俺は感心してしまいました。実際、俺は少しゾッとしてしまったのですから。 しかし、恐怖はこれだけでは終わらなかったのです。その日は飲み会があったので、俺が帰宅したのは深夜2時過ぎでした。 早く寝たかったので、速攻でベッドに倒れ込みました。その時、ふと昼間のAが言った言葉を思い出してしまいました。 「次はパパの所に行くから」いくら冗談だとはいえ気味が悪くなり、早く眠りにつこうと必死になりました。どうやら酒も入ってた事もあって、いつの間にか俺は寝ていた様です。 ふと喉の乾きで目が覚めると、時刻は午前5時半過ぎでした。当時は真冬だったので、明け方とはいえ外はまだ真っ暗です。 冷蔵庫のウーロン茶でも飲もうかと、ベッドから腰を上げた時、窓の外から奇妙な音が聞こえてきたのです。「アッアーッアッアッアッアーッ」皆さんは、「明け方のハトの鳴き声」を聞いたことがあるでしょうか?一定の間隔で「クックルークックルー」みたいな感じで鳴いてますよね?俺もハトの鳴き声は何度も聞いたことがあり、「あぁ~ハトかな~」と別に気にせずにいたんです。 そして、キッチンでウーロン茶を飲み、再びベッドに入り眠ろうとしました。すると、またあの音が聞こえてくるのです。 「アッアーッアッアッアッアーッ」と。一定の間隔で。 しかも、心なしかさっきより音が大きくなった様な感じがしました。うるさくて眠れないので、窓を開けてちょっとだけ大きな音でもたてて、ハトを追い払おうと思いました。 窓を開けると、すぐ目の前に小さな公園があります。言い遅れましたが、当時の俺の家は新築コーポの1階でした。 不思議な事に、窓を開けるとハトの声は止まりました。「人の気配を感じて逃げたのかな~」と思い、窓を閉めようとすると、公園の入り口の所に人影が見えたのです。 まぁ明け方ですから、ジーさんバーさんが散歩でもしてるのかなとその時は思いました。そして窓を閉めようとすると、またあの音が聞こえてきたのです。 「アッアーッアッアッアッアーッ」一定の間隔で。何度も何度も。 「うるせぇなぁ」と俺は思い、「ワッ!!」と大声を出しました。すると、またピタリと止まったのです。 今度こそビックリしてハトは逃げただろうと思いました。その時、俺の視界の中で何かが動いたのです。 あの人影でした。何か動きが奇妙なんです。 まるで「ケンケン」でもするみたいに、ヒョコヒョコ歩いてるんですよ。左にグラグラ、右にグラグラみたいな感じで、重心が定まってない様な動きでした。 俺は「何だ?酔っぱらいかなぁ~」と思い、目が合ったりしたらイヤだったので、すぐ窓を閉めました。そして、窓から背を向けた直後「アッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッ!!!」と窓のすぐ外であの音が聞こえたのです。 女の笑い声の様に聞こえました。流石に怖くなり、焦ったのですが、「明け方だった」というのが俺を強気にさせたんだと思います。 あれが深夜とかだったら、ベッドでブルブル震えてるだけだったでしょう。思いきって「ガラッ」と窓を強く開けました。 誰もいませんでした。念のため、「おい!誰かいるのか!?うるせーぞ!!」と叫び、再び窓を閉めました。 そして、ベッドに戻ろうとしたその時、俺は凍り付きました。ベッドに誰かいるのです。 真っ白なワンピースを着て、こちらに背を向けて座っている女が。幻覚だ、と思いました。 昼間、Aが仕返しに俺に怖い話をしたので、その思いが生み出した幻覚だと。「電気をつけたら消えるだろう」とふと何の根拠もなく思った俺は、部屋の電気をつけました。 消えないのです。蛍光灯に照らされたその女は、ソバージュがかった長髪の黒髪で、肩を震わせながらこちらに背を向けて、ベッドの上に座っていました。 「部屋を出ないとヤバい」と思った俺は、玄関に向かおうとしたのですが、情けないことに腰が抜けたのか、足に力が入りません。女の肩は、震え続けています。 やがて、「ヒャッ、ヒャッ」とまるで「しゃっくり」の様な声を女は出し始めました。俺は大声で叫ぼうとしたのですが、まったく声が出ませんでした。 ちゃんと呼吸が出来ていたのかさえ思い出せません。やがて「しゃっくり」の様な声は「アッアッアッアッアッ!!」とあの狂った笑い声に変わっていきました。 女が、ゆっくりとこちらに振り向こうとしています。上体を不自然な形に曲げながら。 「見たら死ぬ」直感でそう思ったのですが、瞼が閉じないのです。「多分、俺の想像した通りの顔があるのだろう」と、不思議にも俺は冷静に考えていました。 恐怖なんてもう通り越していたのだと思います。女の顔が、完全に俺の方を向きました。 血走った白目。不自然なまでに大きく開いた口。 アゴは、人間の状態でいうならば完全に外れている様子でした。「あぁ、だからこいつあんな変な笑い声しか出せないのか」と、自分でも意外なくらい冷静に感じました。 もう「殺される」と思ってましたから。女は、肩を震わせながら「アッアッアッアッアッ!!」と狂った笑い声を上げつつ、俺の方に近づいて来ます。 体を左右にヒョコヒョコ揺らしながら。そして、もうお互いの顔がくっつくすれすれの所まで近づいた女は、外れたアゴからヒューヒュー吐息を漏らしながら、ハッキリとこう言ったのです。 「わたしを作ってくれてありがとう」ここからは後日談ですが、あれ以来あの女は俺の前に現れてないですし、霊障みたいな事も起こってません。Aに話そうとしても、いつも話を濁されるというか反らされるみたいな感じで、もう話したくない様子でした。 Aも本当にあの女を見たのか、それとも作り話なのか、または俺の所だけに現れたのか、今となっては分かりません。Aとは今でも友達です。
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