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置いていく
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ほんのりと言えば、 俺が大学生のとき週末だけバイトしてた某ファミレス店での話をしてもいいか。 24時間営業のその店では、 従業員同士の“霊がでる”系の噂もなく、 霊感があるという常連のお客さんと、 霊感ありのマネージャーからたまに私生活での怖い体験談を聞くことがあったんで、 その2人に面白半分に聞いてみても、 「この店で幽霊を見たことがない」 という、 オカルト好きの自分には非常に残念な店だった。 ちょうど今くらいの季節だった。 深夜の人手が足りないというので、 1度だけ土曜の夜7時~深夜3時までシフトに入ったことがあったんだよね。 夜0時を過ぎたころ、 俺と同じ大学生くらいの男5人がワイワイと入店してきた。 カウンター席に近い奥まったところに案内して、 メニューとお冷を運んだ。 席につくなりそいつらは、 「マジやばかったなあそこ」 「もう行かないほうがいい」 「誰だよ肝試ししよっつったの」 などと興奮気味に話してた。 あーこいつら心霊スポット行ってきたなってピンときたけど、 詳しく聞かせろとも言えないので、 「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」 と言ってその場を離れた。 しかしこいつらは声がデカかった。 客も少なく暇だった俺は、 カウンターの中で掃除するふりして聞き耳を立てた。 「A遅くない?ちゃんと車ついてきてた?」 「大丈夫っしょ」 「まさか事故ってないよなメールしてみる?」 間もなくして細身でメガネの“A”らしき男が入店してきた。 「おせーよ!」 「どしたん?」 「心配したわ」 先に来てたやつらが笑いながら言ったが、 Aは憔悴しきっていて無表情だった。 俺は水とメニューを運んだ。 席につくとAは 「お前ら・・・ほんとふざけんなよ・・・シャレならん先に行くとか」 と言った。 他のやつらは 「ごめんって、正直待ってる余裕なかったわ」 とゲラゲラ笑った。 A「笑い事じゃない!笑い事じゃないんだよ・・・」 他「なに、なに?(笑)」 俺「ご注文は・・・」 注文が決まったら呼ぶ、と言って追い払われたので カウンターの定位置へ。 俺はまた聞き耳を立てた。 他「ちょ、なんかあった? マジ顔すんなって、車2台あったからいいじゃん、 こっち5人しか乗れんし」 A「ついてきたぞ」 他「???おまえ?うんわかっ・・・」 A「ヤバイのがついてきたっつってんだよっ!」 Aは完全に怒ってたし、 先に来てた一同に沈黙が走ってた。 何か面白いことになってきた、 こいつらAを置き去りにして逃げ帰ったんだ。 俺はますます仕事がはかどらず、 呼ばれないのをいいことにカウンターに入り浸りだった。 A「どーすんの、どーすんだよ、 俺、車に乗せてきたかもしんない・・・」 Aは震えていた。 他「乗せてきたって、建物の中で見た人影?」 A「憑いてる気がする・・・俺に」 他「(爆笑)真面目に言ってんのちょっと、よし写メ撮ろ、写メ!」(パシャ) それまでおちゃらけていた奴らが写メを見て叫んだ 他「マジじゃねーか!やばいやばいやばい、写っとる!」「どれどれどれ」 A「もうやだ・・・」 するとその中の1人がAに背中を向けさせ、 簡易的なお祓いみたいなのを始めたんだ。 思えばそいつだけ終始、妙に冷静だった。 お祓いしながら 「これ効くから、大丈夫。ここ置いてこ、な?」 と言って。 “置いていく”って店にかよ。 そのとき俺は正直バカにしてたし、 このあとAがどうなるのか期待でいっぱいだった。 俺は注文を取りに行くついでに、 我慢しきれず聞いてしまった。 俺「あの、皆さんどちらに行かれたんですか?」 他「ああ・・・○○って知ってます?あそこ行ったんすよ」 ○○とは、俺の住むところでも有名な最強心霊スポットだった。 あまりにもヤバイんで、 オカルト好きでも二の足を踏むような場所だ。 俺はせっかくなんで、 写メも見せてもらえませんかとお願いした。 「見ないほうがいいと思うけど」 そう言いながら、もう消すからと見せてもらった。 マジだった。 Aと後ろの窓の間にはソファの背もたれほどの隙間しかないが、 肩越しに浮浪者のような女がはっきり写ってた。 他「シャレにならないことになっちゃって(笑)」 俺は霊感もないし体験もなかったので、 不思議なことって本当にあるんだなと、 目の前で見届けたことに感激しながら注文をとった。 怖いから朝までいると言ったそいつらは、 A徐々に落ちつきを取り戻すころには 心霊スポットの話をしなくなっていて、 朝方何事もなかったように帰っていったそうだ。 一週間後に霊感のある常連さんが来てたんだけど、 俺を呼んでこう言った。 「お店の雰囲気、変わったよね~・・・ 君の好きなお化け、ここ(店)いるよ。気をつけて(笑)」 俺は愛想笑いしながら、 例のお祓い大学生の言い放った『置いていく』という言葉を思い出してた。 というもの、店では頻繁に怪奇現象が起きるようになってた。 写メに写ってた女を思わせる証言も多かった。 店長は霊を信じないと強がりながら、 お守りの数珠を手首に欠かさずつけていたが、 それが弾けるように数珠が切れることが何度もあったよ。 その辺の怪奇現象については割とすごかったんだが、 いろいろありすぎて長くなるので今回はやめとく。 ちなみに俺は、 大学生たちの件を他の従業員や客に話したことはなかったな。 他のバイトや従業員、果てはお客さんまでもが、 その店で昼夜を問わず霊を目撃したり、 怪現象を体験するようになってたのに対し、 俺だけは店が潰れて辞めるまでに、 何にも見えないし感じなかったことは今でも納得がいかない。
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