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最高のダチ
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俺の友達でFNってイニシャルのやつがいた。 Fでわかるだろうけど。 もち、外人よ。 もっとも日本暮らしだけどね。 そいつと俺はオタ仲間。 ロボットアニメが好きでさ。 ガレキにもプラモにも手を出してた。 マクロスのデストロイドのデドスト(死蔵品)荒らしして。 大量のデストロイドをくみ上げて、 製造元におくりつけたりしたよ。 製造元から感謝状もらったりした。 1980年代の製品が、 こんなに見事になってきて感激したって。 ボードゲーム用のアメ産のフィギュアも一緒に集めてたぜ。 特に熱くなってたのがHeavyGear! あれさ。小さくても結構自由度があるんだ。 ボディやらなにやらを入れ替えて、 自分だけのかっこいGearを組む。 こういうのが好きな二人だから、 もちろんACシリーズ全網羅よ。 最高のダチだった。 何から何まで趣味が同じだった。 オーバードブーストとオービットがACにはいってきたとき。 二人とも一晩かけて趣味機体を組んでみせあいっこしたら、 デカールを除いて、カラーリングも、パーツ選びも、 全部おんなじだった。 双子でさ。 よく、以心伝心っていうのか。 そういうのあるじゃない。 他人のはずなのにさ、 俺たちの間ではよくそういうことがあった。 四年くらい前なんかさ。 Win95じゃないと動かない(互換モードとか意味なす) HeavyGearのPCゲーム入手して。 二人で金ためて、 わざわざWin95ののってる中古PC買った。 そのFNなんだが去年自殺した。 理由なんだが、 かなり複雑怪奇きわまるように聞こえると思う。 ご両親は単なる会社員だと言っていたんだ。 ところが、それが全て嘘だった。 日本にも進出している、 海外の大手骨董ブローキング会社の買い付け係。 これがご夫妻の、日本における趣味兼仕事。 そして本当の顔はといえばな、 骨董にかける保険なんかも手がける、 海外の保険会社グループの総帥一族。 CEOは使用人にやらせて、 表舞台にたってないだけってレベルの人たちだった。 変に贅沢をさせて傲慢に育てたりしないように、 厳しかったと聞いたよ。 わがままに育てては本人が後で困るから、 大人になってから明かすっていう教育方針だったらしい。 自殺する一月前くらいに電話が入った。 真夜中だった。 アメ語なまりの日本語でFNのお父さんが、 『すぐにカム。今ハイヤーおくた』っていうんだ。 いってみたらご両親が、 「ウェルカム。ノブ。すぐイテクレ」 あせりながら、 俺をFNの部屋に案内しようとする。 大切にしていたコレクションが ケースからぶちまけられて散乱してた。 ダイキャスト製のフィギュアは無事だったけど、 プラモはかなり破損もおおかった。 二人でつくったガレキのヘルマイネとか、 もう頭部が割れちゃってた。 なにがこのヲタダチを こんなにまで追い詰めたのかって思った。 壁に穴はあいてるし、 一緒に買ったPCも叩き壊されてた。 椅子をふりあげてがんがん壁を殴ってる最中だった。 「F!そいつで俺をHitしてみろ!」 こういったら振り返った。 血走った目で俺を見た後、 三十秒ぐらい俺を凝視してから、 ようやく落ち着いてくれた。 落ち着いた後に話をきいた。 「ファザーがね、六十億ドルくらい資産があるんだって。 それを守る為にね、家を継げっていうんだ」 はあ?良い話じゃないって最初は思った。 プラモいくつ買えるんだろうってかんじだった。 正直何に怒ってるのかちんぷんかんぷん。 でも、話をきいていくとだんだんわかってきた。 「そんな幼稚な玩具は捨てて、でかい夢を持て。 等身大だってつくれるんだぞ、金さえあれば。 もちろんおまえががんばって、それをつくるだけ稼いだ後ならだ。 広場に等身大のロボットを建ててみたらどうだ。 おまえの好きな犬面のロボットだって金があれば建つ」 みたいなことを言われたらしい。 ところがFNにとっては、 これが究極の鬼門だったわけだ。 俺も正直腹が立った。 何?それじゃ俺たちの愉しんだものが全部ゴミだっつの? バイトして買った大事な戦利品なんだよ。 ゴミなわけないだろ。 FNにとってもそうだったみたいだ。 だから共感できたよ。悔しかった。 他人残した金で何万個買ったって、絶対積むわ。 FNはおちついたあと、 壊れたコレクションを見てさめざめとないた。 俺はもう大丈夫だろうと思った。 「いままでの交遊関係は清算しろ。 ノブには特に一杯お金をあげて説得するから安心しなさい。 今後は金になる付き合い方をおぼえなさい。 これから大人の社交を教えてやる」 これはご両親から直接きいた、 自殺前に彼らが言った言葉の要約。 二人は俺がFNに悪い影響を与えてると思ったらしい。 それがきっかけで口論したあと、 部屋にFNが引きこもって、 夕食時に呼びにいったらもう死んでいたそうだ。 FNの遺書にはこうあった。 『ノブ。一番大切なおまえに。 二番目からの大切なものを全て譲る』 ご両親には最初めっちゃ恨まれた。 俺みたいなヲタ友がいたからいけなかったんだって。 でも、数年して、 ばったり墓参りで出くわしたら、家に呼ばれてな。 アルバムを見せてもらったよ。 懐かしいFNの顔がそこにあった。 ワンフェスで有名原型師のYさんの横に立ってる写真とかさ。 プロのモデラーの人に気に入られて、 その自宅兼仕事場に御邪魔したとき、 作業風景を取らせて貰った写真とかさ。 大事に大事に飾られてんの。 ご両親と一緒の写真もちょっとあったんだけど、 そっちではぜんぜん笑ってない。 「最近、やっとアルバムを見て気付いたヨ。 わたし、長く嘘いった。 Fは気付いていたんだな。 家の中に嘘つきばかり、きっとつらかった。 だから、外に、大切なもの探しにいった。 それを奪おうとした。馬鹿だった。 わたしたち、Fを殺したんだね」 それは違う。 あの時俺は、 それなりに愉しむプランの原型を思いついていたんだ。 今なら思うよ。 いくら他人の金だって、 千個あって千人でつくれば楽しいじゃん。 俺たちが愉しんでるようなことを、 世界中の子供に布教するなんて夢も描けた。 FNならきっと拍手したよ。 グダイディアっていったはずだ。 あいつ、結構優しいやつだったから。 新しい夢を見れたはずなんだ。 あいつらしい。良い夢になったと思う。 言えばよかった。 思いつけばよかった。 家族より俺を信用してくれてたんなら。 俺がこういえば、あいつもきっと。 俺が、FNを見殺しにしたんだ。 ご両親は俺がFNに似てるからって理由で、 俺を養子に欲しがってる。 けど俺は何度も断ってる。 ここのところは毎日きてくれてる。 ドアをどんどんと叩く音もする。 FNは俺に大事なものをくれるっていったんだぜ? 大事じゃなかったものを貰うわけにはいかないだろ。 資産家の息子なんて立場きっと嫌ってた。 それに俺は、 一番大事なときに勇気づけてやれなかったんだ。 だからご両親の家には、 コレクションは置き去りのままだ。 扉越しに出てくるんだっていう声が毎日聞こえる。 もう半年も仕事にいってない。 大家さんは、 俺がFNっていう親友を失ってから 変になってることを気遣ってくれてるから、 家賃を滞納しても待ってくれているし、 ガス代も、電気代も、インターネットの利用料も支払ってくれてる。 でももう一月も水しか飲んでない。 部屋の隅でFNがプラモを組んでいる。 俺はこの部屋から出るわけにはいかない。 やっと幸せが戻ってきたんだ。 FNは死んだんだぜ? すごいだろ? 死んでも俺のところにきてくれてるんだよ。 毎日、夜だけしかこないんだけどな。 また、プラモを組み立てられるんだ。 FNが死んでから、俺も荒れてさ。 PSもPS2も叩き壊しちゃったけど、 壊れたプラモならいくらでもあるんだ。 FNはそいつを直してくれるんだよ。 ヘヴィーギアの組み換えだけだって、 まだまだ遊べる。 塗装済みのやつを並べたジオラマも、 土台割れてるけど、 地割れだとおもえばかっこいいし。 こんなことってあるんだな。 大事だと思ってくれたら、 死後にも一緒にいてくれるんだ。 FNと一緒に愉しんでると、 またいつもの連中がきた。 俺を呼ぶ声。 もうドアをあけちゃうよという大家さんの声。 うっとうしいなと思っていると。 「F!?」 「なんじゃあら!?」 外にいるみんなが何かに驚いた。 俺は不思議と気にならなかった。 壊れたパーツを手でぎゅうぎゅうおしつけてるFNを手伝った。 接着剤をつけてやってたんだ。 「俺なら、ノブを閉じ込めない」 後ろから、 わずかに英語鈍りの入った声が聞こえたんだ。 俺はFNの補修を手伝ってるはずなのに。 「大体さあ。 俺がコレクションねだらないわけないだろ」 そう言われてみるとそうだ。 あいつがきたなら、 真っ先にコレクションをとってこいと言うはずだ。 だいたい、あいつなら、 そもそもコレクションのある場所で化けてでる。 FNは後ろにいる。 まちがいない。 じゃあ、これはなんだ? 頭がしゃっきりとしてきた。 FNだとおもってたものは、 そもそも髪が金髪じゃない。 黒かった。 全身から一気に力が抜けた。 そいつが顔を持ち上げた。 無邪気にわらってる。 全然知らない子。 「ボーイ。道連れが欲しいなら俺にしとけ」 後ろからFNがすっとあらわれた。 俺とぼやけたFNを交互にみたあと、 FNが伸ばした手を子供が掴んだ。 ずるんって。 子供と一緒にFNが畳に飲み込まれた。 俺は電気をつけた。 荒れ果てた部屋があるだけだった。 補修したとおもっていたプラモは、 皆もっと酷く壊れていた。 俺の両手は傷だらけで、 真新しい傷跡に、 プラスチックの破片が突き刺さってた。 扉をあけたら、 みんなぎょっとしてた。 FNのお父さんが俺をみてぎゅっと抱きしめた。 「FNが来た気がする」 「ノブ、酷い顔だ」 「救急車呼んだほういい?」 大家さんとFのオヤジさんの顔をみながら 俺は意識を失った。 外人夫婦のところに養子にいった、 俺の兄貴から聞いた話。 いや、嘘はよくないな。ごめんな。 まだ、完全にわりきれてないんだ。 他人事にしたほうが楽なんだ。 したいって思ってるんだよ。 あれが本当のことだったとしたら。 俺は結局FNに何もかももらったことになる。 返しようもない。 それがとてもつらい。
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