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犬鳴き峠
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当時学生だった私は、 Aという友達とよく放課後に残っては、 下らないダベリを繰り返してました。 部活なんか入ってなかったので。 まぁ、私もAも恐い話が好きなほうで、 よく恐い話を仕入れてきては楽しんでいました。 たまに女子も入ってきてキャーキャー言いながら、 放課後の夕暮れの時を過ごしたものです。 やがて受験を控えた最後の夏休みを迎える事になりました。 私とAはいつものように雑談してましたが、 なんとなく夏休みと受験の鬱さから、 何かイベントを起こそうという話になり、 犬鳴き峠に夜行ってみる、という事になりました。 犬鳴き峠というのは、 九州では非常に有名な心霊スポットで、 危険だから立ち寄ってはいけない・・・と、 大人なら誰もが言うくらいのヤバイところです。 (現在は封鎖されてます) そこのトンネルをくぐると、 必ず何かが起きます。 正直、私は 妙な高揚感を覚えましたが、 同時にビビってました。 ですが、 若かったせいもあって恐いなんて言えません。 まして親友のAにそんな姿は見せれなかった。 夕暮れのくっきりしたシルエットの中で、 Aの顔は真っ黒にみえた。 田舎学生でしたので、 私たちは免許なんて持ってませんでした。 ですので、 ローカル線に乗って現地の駅に集合でした。 それからひたすら徒歩です。 途中バスが出てるとの話でした。 そして夏休みに入り、けだるい暑さの中で、 その決行の日が近づくにつれ、 私は何をしても気持ちが落ち着かなくなりました。 それから何度も電話でAと話しをしましたが、 悔しいことにAは全然平気のようでした。 一度話の流れで、 私が行くのをやめようっか?と言ったとき、 Aのバカにした笑いが耳に響きました。 それ以来、 当日まで電話はしませんでした。 私は恐いとかよりも、 恐がる姿を見せてたまるか! という決意で固まりました。 そして、その日が来ました。 先日から振り始めた雨は、 朝になっても止んでいませんでした。 私は待ち合わせの夕刻まで、 ベッドでごろごろしていました。 やがて時間がくると、 Aに中止にしようと言いたくて 何度も受話器を握りましたが、 言えずに出かけました。 「なんでこんなバツゲームみたいなこと…」 私は始めていく場所だったので、 駅員に聞いたりしながら、 なんとか現地の駅まで辿りつきました。 すでに薄暗くなっています。 雨は霧雨になり、 傘をさしているのですが、 体中がじっとりと濡れてきます。 待ち合わせの駅に着いたのは、 約束の時間より30分以上も早い時刻でした。 人気のない駅でした。 駅員も古い駅舎にはいって、 背中を見せたままです。 私は夏とはいえ雨に濡れてたので震えました。 正直恐かったのだと思います。 やがて約束の時間になりました。 しかしAは来ません。 私は次の電車で来るだろうと思い待ちました。 しかしAは来ません。 「あの野郎…」 正直、私は嬉しかったです。 帰れると思いました。 しかし、すっぽかされた怒りは、 若かったせいもあって強かったです。 「あいつ、どついたろうか」 そのとき、 後ろから声がかかりました。 怒り顔のAでした。 「おまえ!いつまで待たせんだよ! 現地集合だっていっただろう??」 「え??現地の駅だったぞ?」 「…お前、俺はずっと峠の麓におったとぞ?」 「すまん」 Aは独りで待たされたせいもあってか、 凄くいらついていました。 そして、 早く行こうと先を歩き出しました。 私は慌ててついていきました。 Aはすでに一度通っただけあって、 私を案内してくれました。 しかし、 Aもさすがに恐いらしく無口でした。 顔も青ざめて見えました。 やがて私たちは峠にさしかかりました。 しかしそこからは急に砂利道になってました。 私は薄暗い中、 Aに必死についていきましたが、 その先に鉄柵が張られていることに気付きました。 私たちは、 若さのせいにばかりするのはあれですが、 鉄柵に掛かった鍵を、 砂利道でひろった大き目の石をつかって壊しました。 Aは体力がないので私の役目でした。 時間はかかりましたが、 なんとか鍵は壊れました。 相当古い鍵だったようです。 そこからは、 両側から草が繁る砂利道の、 しろっぽく浮かび上がる真中を、 ひたすら上っていきました。 雨のせいか、 日はすぐに暮れました。 私たちは懐中電灯をともして上りました。 三十分くらい上ると、 そこに闇をさらに黒くぬりつぶしたようなトンネルが見えました。 中は真っ暗です。 見たこともない暗さでした。 私は背筋が ゾゾゾゾゾゾ…と寒くなりました。 「こ…これかよ……」 Aも震える声で言いました。 「さっきここで待ってた時は、 まだここまで暗くなかったけど…」 私たちは身をよせあって中を覗きました。 まるで地獄につながっているかのようです。 昼間なら向こう側の出口の明るさも見えたでしょうが、 なにせ夜になっているので、 本当に永遠につづくトンネルのようでした。 「こ、ここを抜けると何かが起こるのか…」 Aは余計無口になったまま、 いつのまにか私の服を握り締めています。 「お…おまえ先にいけよ……」 Aは震える声で私に言いました。 「ば、ばか…押すなよ」 雨のせいで虫の声もない山の夜です。 私たちの懐中電灯の明かりだけが灯っていました。 しかし、その明かりも闇にとけこんでいます。 私はもう駄目でした。 恐いなんてもんじゃありません。 正直泣きそうでした。 私はAに言いました。 「ごめん。俺、無理。もう帰ろう」 しかし、Aは手を離しません。 「ば、ばか!ここまで来て帰れるかよ」 私はAに押され、 少し前に進みました。 「無理だって!俺、堪えれないよ」 「お前が来ないから、 ずっとここで待たされた身にもなれよ」 「んなこと言ったって!俺は帰る!」 「だめだ」 Aは私の服が破けるくらいひっぱって、 トンネルに入っていきます。 私は必死でふんばりました。 「やめいって!」 「いいから来いよ!はやく!」 Aはどんどん私をトンネルの奥にひっぱります。 私はさすがに切れて、 Aを振りまわす気持ちでひっぱり返しました。 私のほうがAよりも体力があるからです。 しかし、 Aの力はいつもより強く、 私はふりほどけませんでした。 「大丈夫だって、そんな恐いことないよ。 一緒に行こうよ」 ……その時、 私はあることに気付きました。 「お前、ここで待ってたんだよな?」 「……」 「ここに来る途中・・鉄柵の鍵かかってたじゃないか・・・」 「……」 「だいたい、 俺が待ち合わせ場所に着たのは30分も早かったのに、 ずっと待ってたって・・・ いつから待ってたんだよ?」 そのとき、 私をトンネルの奥にひっぱっているのが、 Aだけではない事に気付きました。 後ろから、横から、 たくさんの手が私をトンネルにひっぱっているのです。 悲鳴が喉から出ない私に、 Aが振りむいて言いました。 「早く死のうよ」 後日談 私は気を失ってたらしく、 地元の人が山菜をとりに来た際、 見つけられたそうです。 私はひどい熱で、 数日寝こみました。 病院で、Aがその日、 恐くて約束をすっぽかしていた事を知りました。 それ以来、 Aとは口を聞くことはありませんでした。
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