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山姥
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あれは僕が小学5年生のころ。 当時、悪がきで悪戯ばかりだった僕と、友人のKは、しょっちゅう怒られてばかりでした。夏休みのある日、こっぴどく叱られたKは、僕に家出を持ちかけてきました。 そんな楽しそうなこと、僕に異論があるはずもありません。僕たちは、遠足用の大きなリュックにお菓子やジュース、マンガ本などガキの考えうる大切なものを詰め込み、夕食が終わってから、近所の公園で落ち合いました。 確か、午後8時ごろだったと思います。とはいっても、そこは浅はかなガキんちょ。 行く当てもあろうはずがありません。「どうする?」話し合いの結果、畑の中の小屋に決まりました。 僕の住んでいるとこは、長野の片田舎なので、集落から出ると、周りは田畑、野原が広がっています。畑の中には、農作業の器具や、藁束などが置かれた小屋が点在していました。 その中の、人の来なさそうなぼろ小屋に潜り込みました。中には、使わなくなったような手押しの耕運機?があり、後は、ベッドに良さそうな藁の山があるだけでした。 僕たちは、持ってきた電池式のランタンをつけ、お菓子を食べたり、ジュースを飲んだり、お互いの持ってきたマンガを読んだりと、自由を満喫していました。どのくらい時間がたったでしょうか。 外で物音がしました。僕とKは飛び上がり、慌ててランタンの明かりを消しました。 探しに来た親か、小屋の持ち主かと思ったのです。二人で藁の中にもぐりこむと、息を潜めていました。 「ザリザリ・・・・ザリザリ・・・」何か、妙な音がしました。砂利の上を、何かを引きずるような音です。 「ザリザリ・・・ザリザリ・・・」音は、小屋の周りをまわっているようでした。「・・・なんだろ?」「・・・様子、見てみるか?」僕とKは、そおっと藁から出ると、ガラス窓の近くに寄ってみました。 「・・・・・!!」そこには、一人の老婆がいました。腰が曲がって、骨と皮だけのように痩せています。 髪の毛は、白髪の長い髪をぼさぼさに伸ばしていました。「・・・なんだよ、あれ!・・・」Kが小声で僕に聞きましたが、僕だってわかりません。 老婆は何か袋のようなものを引きずっていました。大きな麻袋のような感じで、口がしばってあり、長い紐の先を老婆が持っていました。 さっきからの音は、これを引きずる音のようでした。「・・・やばいよ、あれ。 山姥ってやつじゃねえの?」僕らは恐ろしくなり、ゆっくり窓から離れようとしました。ガシャーーーン!!その時、Kの馬鹿が立てかけてあった鍬だか鋤を倒しました。 僕は慌てて窓から外を覗くと、老婆がすごい勢いでこちらに向かって来ます!僕はKを引っ張って藁の山に飛び込みました。バタン!!僕らが藁に飛び込むのと、老婆が入り口のドアを開けるのと、ほとんど同時でした。 僕らは、口に手を当てて、悲鳴を上げるのをこらえました。「だあれえぞ・・・いるのかええ・・・」老婆はしゃがれた声でいいました。 妙に光る目を細くし、小屋の中を見回しています。「・・・何もせんからあ、出ておいでえ・・・」僕は、藁の隙間から、老婆の行動を凝視していました。 僕は、老婆の引きずる麻袋に目を止めました。何か、もぞもぞ動いています。 と、中からズボっと何かが飛び出ました。(・・・・・!)僕は目を疑いました。 それは、どうみても人間の手でした。それも、子どものようです。 「おとなしくはいっとれ!」老婆はそれに気付くと、足で袋を蹴り上げ、手を掴んで袋の中に突っ込みました。それを見た僕たちは、もう生きた心地がしませんでした。 「ここかあ・・・」老婆は立てかけてあった、フォークの大きいような農具を手に、僕たちの隠れている藁山に寄ってきました。そして、それをザクッザクッ!と山に突き立て始めたのです。 僕らは、半泣きになりながら、フォークから身を避けていました。大きな藁の山でなければ、今ごろ串刺しです。 藁が崩れる動きに合わせ、僕とKは一番奥の壁際まで潜っていきました。さすがにここまではフォークは届きません。 どのくらい、耐えたでしょうか・・・。「ん~、気のせいかあ・・・」老婆は、フォークを投げ捨てると、また麻袋を担ぎ、小屋から出て行きました。 「ザリザリ・・・・ザリザリ・・・・」音が遠ざかっていきました。僕とKは、音がしなくなってからも、しばらく藁の中で動けませんでした。 「・・・行った・・・かな?」Kが、ようやく話し掛けてきました。「多分・・・」しかし、まだ藁から出る気にはなれずに、そこでボーっとしていました。 ふと気が付くと、背中の壁から空気が入ってきます。(だから息苦しくなかったのか・・・)僕は壁に5センチほどの穴が開いてるのを発見しました。 外の様子を伺おうと、顔を近づけた瞬間。「うまそうな・・・子だああ・・・・!!」老婆の声とともに、しわくちゃの手が突っ込まれました!!僕は顔をがっしりと掴まれ、穴の方に引っ張られました。 「うわああ!!!」あまりの血生臭さと恐怖に、僕は気を失ってしまいました。気が付くと、そこは近所の消防団の詰め所でした。 僕とKは、例の小屋で気を失っているのを親からの要請で出動した地元の消防団によって発見されたそうです。こっぴどく怒られながらも、僕とKは安心して泣いてしまいました。 昨晩の出来事を両方の親に話すと、夢だといってまた叱られましたが、そんなわけがありません。だって、僕の顔にはいまだに、老婆の指の跡が痣のようにくっきり残っているのですから。
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