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なんか長い毛がよく落ちてるんだよね
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長編8分
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大学のサークルの友人Aが、 「引っ越しをするので手伝ってくれ」 と言ってきた。 お礼に寿司をおごってくれるって言うのと、 Aには世話になっている事もあって、 俺は二つ返事で了解した。 引っ越し当日、 現場には俺とA、 そして同じくサークルの友人のBとCの男4人で、 引っ越し作業を片付けた。 Aの引っ越し先は、 2階建てアパートの1階の角部屋で、 玄関を入ると左に風呂とトイレ(風呂とトイレは別々)で、 右にキッチン。 正面に木枠にガラスがはまってるドアがあって、 10畳の部屋があるという間取りだった。 その日の夜は、4人で酒を飲んで、 寿司を食いながら適当にダベって、床にザコ寝して、 次の日の朝に、B、Cと一緒に電車で帰った。 その帰り道にCが、 「Aの部屋って、すぐ隣の建物が神社だったよな。 もしかして…出るんじゃねーの」 とか、 ふざけて言っていたのを覚えている。 まあ、覚えてるっていうか、 忘れられなくなったと言うのが正しいか… Aが引っ越して一週間くらい経った頃、 学食でAとBと飯を食っている時に、 BがAに 「新しい住まいはどーよ?結構いい部屋だったよなー」 と聞いた。 するとAは、 「うーん。 まあ部屋は広いし駅も近いし、 悪くはないんだけど…」 と、 何か言いたげな感じで言葉を濁したのが気になって、 俺は 「なに。なんか変な事でもあるんか?幽霊とか」 とか、冗談めかして言ったんだよ。 そしたらAが、 「いやー、なんか長い毛がよく落ちてるんだよね」 って言ってきたんで、 「どうせ女でも連れ込んでんだろコノヤロー」 とか、 「外でくっついてきてんだろ」 とか、 俺とBはあまり真剣に取り合わなかった。 (ちなみにAは、女を連れ込んではいないと言っていた) 自分以外の毛が落ちてたって、 普通そんな気にすることでもないからだ。 Aも 「まあそれ以外なんもないし、 やっぱたまたまかもな」 と思い直したようで、 その日はそれで、 Aの部屋の話は終わった。 それからしばらくAは普段通りだったが、 二週間くらいが過ぎてから、 妙に疲れているというか、 やつれてきてるように見えるようになった。 ちゃんと大学には来ているから、 病気って事もないだろうし、 何か悩みでもあって眠れないとか、 そういう事かもしれないってんで、 BとCと一緒にAを飲みに誘って、 話を聞いてみる事にした。 飲みながらAに 「何かあったのか」 と聞くと、Aが、 「言っても信じてもらえるかどうかわからないけど… 前にお前(俺の事)とBに、髪の毛が落ちてるって話したじゃん? んで、最初は外でくっついてるとか、 そんなだろうって思ってたんだけど、どうにもおかしいんだよ。 外でくっついてるなら、長さとかってまちまちだろ? でも落ちてる毛って、どうも同じような長さのものばっかなんだよ。 しかも、くっついてるとかなら、床に落ちてるのが普通なのに コップの中とかトイレとか風呂場とか、 とにかくどこにでも落ちてるんだぜ? それに、段々毛が落ちてる頻度っていうか、 量が増えてきてるんだよ。 それで、もうなんか気になって気になって、 家にいても怖くて落ち着かないんだ」 って話しだした。 俺とBは半信半疑というか、 そんな変な事をすぐ信じる事もできなくて、 「きっと偶然が重なって、 疑心暗鬼になってるんじゃないのか」 とか言ってたんだが、 Aは 「いや、そんなんじゃないんだよ。 マジでおかしいんだって」 って真顔で言い張る。 そしたらCが、 「それなら、これからAの家に行って見てみようぜ」 って、好奇心丸出しな感じで言い出してきた。 Aも 「そうだな、見てもらった方が早いわ」 って言うから、 4人で飲み屋を出てAの家に行った。 Aの家についた俺達は絶句した。 Aの言った通り、流し台、風呂場、トイレ、 部屋のそこらじゅうに毛が落ちている。 Aも 「…家を出る前はなかったんだぜ」 って言うからCがまた興味を持ったらしく、 「ちょっとこの毛を集めて、 長さとか色とか見てみようぜ」 って言い出した。 俺もこの時になって、 怖さ半分興味半分で、 「そうだな。同じ毛かどうかくらいわかるかも」 って、Bも促して4人で毛を集めることにした。 10分くらい経ってようやく、 目ぼしい所に落ちている毛を集める事ができた。 集めた毛は白い紙の上に置いて、 長さや色を適当にチェックしていった。 あからさまに違う長さや、 ちぢれた毛(あの毛だ)を取り除いていって、 残った毛をまとめる頃には、 何か部屋の空気が重いというか、 うすら寒いものになっていた気がした。 重苦しい雰囲気の中、Bが 「…同じだよな?」 と、全員の顔を見ながらつぶやいた。 確かに長さ、色、手触り等、素人判断ではあるが、 同じ人間の毛としか思えなかったので、 俺もAもCも同意せざるを得なかった。 Cが 「うわ…やばいんじゃねーこれ」 とか言い出したんで、 Aが弱気になってしまい、 「どうしよう、どうしたらいい?」 とかオロオロしだした。 俺は幽霊も見た事がないし、 今までそういう体験も無かったので、 幽霊が原因だとか、そういう風に結論づけずに、 あくまで物理的な原因が、 必ずどこかにあるんじゃないかと思い、 Aに 「そうそう幽霊とかって出ないだろうし、 こうして毛って言う物質がここにあるんだから、 絶対原因があるって」 と説得し、 Aをなだめることに終始した。 もう夜も遅いし、 後日ちゃんと調べてみようという事になり、 俺達は帰る事にした。 部屋のドアを開けて玄関に向かう途中に、 Bが 「おい…ちょっ…これ…」 と、 すごい顔で風呂場の中を指さしているので、 中を覗いて見ると、 一握りくらいの毛の束が、風呂場に落ちていた。 それを見た瞬間、 背筋に走った悪寒は今でも忘れられない。 4人全員が転がるように外に出て、 近くのファミレスに入った。 しばらくして落ち着いてきたので、 さっき見た毛について話が始まった。 確かに4人で部屋の中の毛を拾ったはず、 仮に取りこぼしがあったとしても、 あんな目に付く毛の束を見逃すはずがない。 と言うことは、 俺たちが拾って、 帰ろうと部屋を出るまでの間に落ちた、という事。 あの部屋には4人しかいなかったし、 外から人が入ってもすぐわかる。 Aは確定的な出来事を目にして、 すっかりびびってるし、 BもCも俺も、 恐怖と興奮で頭がいっぱいだった。 4人で髪の毛を集めたり、 長さを測ったりしてひっかき回したせいなのか、 次の日事態は急変する事になる。 朝になるまでファミレスで過ごし、 Aはまだあの家に帰りたくないと言うのでBの家に行き、 Cと俺は一旦家に帰り、土曜日で休みなので、 ひとまず寝てからまた集まろうという事になった。 夕方に目が覚めて、 しばらくするとBからメールが来て、 『19時にさっきのファミレスで集まろう』 という流れになった。 ファミレスで集まった俺達4人は、 どうするか話し合い、 とりあえずAの家の様子を見に行く事にした。 Aの家は前日飛び出したまま、 外から見ても電気が点けっぱなしなのがわかった。 Aが鍵を開け、ドアを開ける。 ドアが開くまでの瞬間は、 何か身体が浮いているような感じで 生きた心地がしなかった。 ドアを開けるとまず玄関に、 数本ではあるが毛が落ちていた。 もう誰も何も言わない。 風呂場を覗く、 昨日の毛の束があるが、 他は変わったところはなかったと思う。 トイレ、台所、廊下には毛があった。 昨日、 あれから誰も入っていないはず。 しかし毛は落ちている。 俺はもう内心 「夢とかドッキリとかじゃないか。 むしろそっちの方がいい」 とか、 恐怖と興奮で、 現実にいるのか夢にいるのか曖昧な感じだった。 とりあえず部屋の中以外はチェックしたので、 いよいよ部屋だと言う時に、 Aが「ヒュー」と、 空気が漏れたような声(悲鳴だったのかもしれない)を出した。 俺がAに 「どうした?」 と聞くと、 Aは引きつった顔で部屋を仕切るガラスつきのドア越しに、 部屋の中を指差している。 BとCと俺は、 視線を部屋の中に移した。 テーブルの上には昨日集めた毛の束がある。 別に何かいるわけでも何でもない。 俺は 「別に何もいないぞ?」 とAに言うと、Cが 「窓…」 とかすれた声で言った。 Aの部屋の窓は上半分が普通のガラス、 下半分が曇りガラスになっている。 上半分には何もない。 夜なので、 すぐそこの物干し竿だけしか見えない。 だが下半分。 曇りガラスの向こう側にいた、 座り込んでいる髪の長い女がいる。 上が白い長袖のようなものなので、 曇りガラス越しでも毛の長さがわかる。 もう直感的に、 「この毛はこの女のだ」 と思った。 今思えば、 生身の女だったのかもしれないが(それはそれで怖いが)、 はっきりと幽霊を見てしまった。 あの時、 全身の血が足の方に落ちていく感じがした。 4人全員が悲鳴をあげるでもなく、 震える足を引きずって、 静かに静かに部屋を出た。 その後Aは、 引っ越すまで俺達の家を泊まり歩いた。 俺達もあんなモノを見てしまったので、 Aを泊める事は暗黙の了解になっていた。 引っ越しの荷物をまとめるために、 数回あの部屋に行く機会があったので、 怖い話で見た 『コップの中に日本酒を入れて置いておく』 『盛り塩を部屋の4隅に置く』 等を、 だめもとでやってみたのだが、 次に部屋に訪れた時、 日本酒はかなり白く濁っており、 盛り塩はカチカチになっていた。 (これは湿気のせいかもしれないが) Aは引っ越した後、 何事もなく今では普通に生活している。 しかし、 部屋に落ちている毛は今でも気になるらしい。 結局、 あの部屋のとなりが神社だった事との関連や、 あの女が何だったのかは分からないままです。 まあ、分からない方がいいのかも…
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