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可愛いらしい女の子
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板金屋をやっている。 地域外からの仕事も来るのだが、 ある神社の小社の修理を頼まれた。 郊外の住宅地にある神社の小社の、 屋根の銅板葺きを変える仕事だ。 籠山と昔は呼ばれていた地域で、 今は町村の統廃合で市に併合された。 起伏が多い畑ばかりの台地の上にあり、 見下ろせば武蔵野を廻る一級河川が流れている。 神社の境内には様々な小社があり、 宮司に聞くとこのうち持ち込まれた三嶋社は、 神仏分離の時に弁天社から三嶋社に変えられたそうだ。 小社は魂抜きをされた後に土台から外して、 車に載せて作業場に運び込んだのだが、 最初にそれの前から異な物を目撃した。 人気のない境内の本殿に近づいた時、 拝殿の階段の下の浜床に、 非常に長い白っぽいアオダイショウらしい蛇が横たわっていた。 そいつが口をパクンパクン動かしている。 仕事と思うから この程度の小さな事ではあれこれ考えないのだが、 社務所に顔を出して 作業日程について伝えたい事を話している時から、 背中に何かの刺さる視線を感じていた。 晴れていたと思った空は、 社務所から立ち戻るといつの間にか雲が広がり、 降られでもしたら面倒なので早速小社を取り外す事となった。 個人商店は厳しいもので、 1人工分でも節約したいので運び出しまで手伝って貰い ハイエースに載せた。 境内を後にする時、 また後ろに視線を感じたので振り返ると、 何時からいたのか、 可愛いらしい女の子が自分の後をついて来るではないか。 オヤ、何だこりゃとニヤけながら 石段を降りきって振り返ると、 女の子は石段の上で立ち止まって、 こちらを寂しげな目でジッと見つめていた。 神社の関係者の娘だろう。 そう思い、 そのまま帰って自宅の作業場に小社を置いた。 まず、 古びて緑青に染まった銅板の数を数え、 銅を切り出さないとならない。 その一枚を外した時だった。 例の白蛇がニョロニョロと、 社の何処からか這い出して来たのだ。 魂消たとも。 居間に後退りしてピシャンとガラス戸を閉めると、 裏から表に回り込んで作業場の引き戸をガッと開けた。 いない、蛇がいない。 作業場にはトタンやステンレスのロールが立てかけてある。 その隙間に入ったか。 なんちゅー事だ。 出てきてくれないと困る。 探しながらきっと神様の蛇だろうとは思っていた。 「退かされるのが嫌だったのかなあ」 呟きながらとうとう見つからずじまい。 神様の蛇ならバルサンも焚けない。 作業場では周りをチラチラ気にしながら、 仕事に取り掛かった。 その夜、夢を見た。 明晰夢という奴だろうか。 真っ青な空の下、広い河原に居た。 女の子が向こうからやって来た。 確かに境内で見た、あの娘だった。 目の前に来ると、 女の子は真剣な口調で話し出した。 「この社を直した頃、汝は命を取られる宿命にある。 その折に疫神を避ける知恵を授ける。 社の屋根のすべて剥がしてみよ…」 それから目が覚めた。 自分は板金屋だ、 五日後の納期までに仕事を済ませよう。 ただそれだけでいい。 そして翌週の月曜の午後、 葺き替えた小社を運び込むと神社へ車を走らせた。 高速入り口に差し掛かる頃から、 吹きつける様な強い風が出てきた。 「なんだ、突風かなこれは」 高速の出口を出てすぐに、 これは竜巻?と見えた。 先ゆく車が路側帯に停まってゆく。 黒黒とした煙のような天に向かう柱。 車がガタガタと揺すられる。 高架下まで来て、 他の車両の後ろに停めると表に出た。 砂やら石が猛烈な礫のように飛んで来る。 頭を上げてられない。 俺はその時、 夢の中で言われた事を思い出した。 懐から古びた小刀を取り出し、 それを自分の頭の上に立てるように構えた 『きぃ…た…し…りぁぃーーーーあぁーーーー!』 風の中で何かが叫んだような気がした。 やがて風は弱まり、 竜巻らしい突風が過ぎ去ったようだった。 道に散らばる白い翅。 少し離れた先に、 白い鳥のような物が落ちている。 立ち上がってそれを確認に行った。 被り物をした男が、 白い翅の下から血を流して蹲っていた。 何だろうか、 この見たことも無い変態は。 巻き添えを喰らった気の触れたホームレスだろうか? 確認後、 車に戻ろうと歩きだした時、 夢で女の子が言った言葉が脳裏に蘇ってきた。 「この疫神は大勢の犠牲者の魂魄を食らう狙いなり。 汝は社の屋根に隠したる小刀にて、 危急の時に之を頭に翳せよ。 されば命救われん、此は汝のみ命救うに非ず」 再び車に立ち戻ると、 ハイエースのリアハッチを開けた。 小社の修理箇所は少しもダメージはなく、 風の去った空から強い夕日が、 仕上がった銅板を一層眩しく輝かせていた。
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