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心霊スポットの取材
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1991
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長編5分
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二十五歳の夏、勤めていた編集プロダクションをクビになり、幡ヶ谷のアパートで悶々としていた。 なにしろクーラーがないので暑くて暑くて、なおさら苛ついた。で、その編集プロダクションをクビになったときの話をします。 長文お付き合い願います。この編集プロダクションという会社(仕事)は大手出版社から依頼を請ければ、なんでもやる。 本、雑誌、企画物のページ。内容に至ってはファッションからプロレス、グルメなど幅広くやる。 で、ある月刊誌から「これから暑くなるし、そろそろ」ということで心霊スポットの企画8ページが回ってきた。私もそのうちの2ページをうけもった。 雑誌を作る側に居た分、このテの話の大部分が「やらせ」だということも知っていたし、自分なりには「テキト-にウソでも書いとけばいいか」程度の気持ちだった。幸い実家が横浜だったので心霊スポットには事欠かない。 有名なところだとKトンネルとか、廃墟病院とか昔よく行った。ただ、出尽くしている。 そこで、自分が卒業した中学の裏にお化け屋敷があったのを思い出した。「じゃあ、あれにするか」と、取材を兼ねて実家へと帰ることにした。 このお化け屋敷、当時雑誌でも何回か取り上げられたことがあり、学校周辺ではちょっと有名だった。住んでいた一家が惨殺され、その後、庭で女性の首吊り死体が発見されるなど、取材対象としてはなかなかの代物だ。 私の通ったH中学校のグラウンドから50メートル位登ったところにあり、体育の時間に「鎌を持った人が見ていた」とか、下校時に廃屋を覗いたら「白い着物の女が正座していた」とか話題に事欠かない。ただ、首吊りは知っていたが、一家惨殺は本当かどうか定かではなかった。 で、私は幽霊を全く信じていないが、中学高校と同じ学校に行った同級生のYは自称霊感があるらしく、昔、肝試しに行ったときここで幽霊を見た。「あそこに何かいるよな、いるよな」と廃屋の2階の窓を指差し同意を求められたが、私には何も見えなかった。 Yはその後グラウンドまで降りてきてうずくまった。彼曰く「ねじれた白い人影が、窓から出たり入ったりしていると」真っ青になって震えていた。 そこでYには悪いが、協力してもらい、彼のインタビューを交えたお手軽記事を書くことにした。自宅からYに電話をすると、予想に反して簡単に承諾を得られた。 夜9時にファミレスで待合わせをし、小一時間昔話をした。「卒業してから10年、こんな形でH中学校を訪れるとは思わなかった」と苦笑いのY、以外とサバサバしていた。 今考えるとこの辺りから変になりだしたのだが、車に乗り込むとYは妙なことを言い出した。「今日行くのやめないか」「何で」と私は聞き返した。 「いや、なんとなく・・・。それにもうあそこ何にもないよ」「はぁ?早く言ってよ」「だって、何にもないから俺行くんじゃねーか」私がやっていた雑誌取材は比較的こういうことが多かった。 「しょうがないとりあえず行って、有る事無い事書くしかないか」。H中の校舎脇に車を横付けすると、懐中電灯と小さい一眼レフを持って廃屋に向かった。 移動中Yは無言だった。廃屋はYの言う通り跡形も無く、その周辺は深く掘り返えされて大きな穴が空いていた。 その深さは10メートル位あり、工事用の吊り橋が掛かっていた。Yは私より少し下がった場所から黙ってその橋を見ていた。 Yの様子が気になったが、仕事だけ済まそうと三脚を用意した。周辺でシャッターを切りながら、Yに声をかけた。 「具合でも悪くなったか?」「あのさ・・・」「なに」Yは話し出した「さっきここに乗ってきた車、誰の」「会社のだけど、なんで」「いや、後で話す。それからあの橋には、近づかないでな・・・」とYは言った。 その顔は真っ青だった。Yは突然座り込んで、震えだした。 そして「吊り橋の方で誰か呼んでないか」とつぶやいた。「やめろよ」とちょっと怖くなり、辺りを見回した。 橋の上には誰もいない。さすがに気味が悪いので、わたろうとは思わなかったが、写真を撮っておこうと近づいた。 やっぱり誰もいない。ところが、撮影位置を考えていたら、なぜか橋に一歩踏み入ってしまった。 後悔した。その瞬間、急に空気が冷たくなり、にもかかわらず汗が吹きだし始めた。 なぜか解らないが、とにかく橋の下だけは見ないで置こうと思った。が、私の目の前、ちょうど吊り橋の真中くらいに、なにか得体の知れないものが座っているのに気が付いた。 「女がいる・・・」女はこっちをジーッとみていた。体の自由は効くのだが、吊り橋の上で動けなくなってしまった。 そのとき「戻って行い」とYが大声を出した。私はこの声で我に還り、Yの方を振り向き愕然とした。 座り込んでいるYの背後に女がいる。女は白い着物をきていて、Yの顔を見下ろすようににして立っていた。 Yはそれに気付いていない様子で、私は恐怖で全身の毛がさかだった。とにかく逃げることを考え、吊り橋から地面へとピョンと飛び移った。 その瞬間吊り橋のワイヤーがビーンという音とともに切れた。もしあのまま橋の上にいたら、おそらく転落していただろう。 私はもう恐怖で分けが解らなくなり、ただひたすら車まで走った。Yには悪かったが見捨てて走ってきてしまった。 後ろから「うわああああ」と雄叫びをあげながらYが追いかけて来た。その声でまた恐怖がこみ上げてきて、ひたすら走った。 私はYと汗だくで車に乗り込むと、直ぐに車を発進させた。そして学校から道路に出たところで2トントラックと正面衝突した。 幸い二人ともケガは無かったが、会社から借りてきた車は全損だった。翌日会社には出勤したが、さすがに原稿は書く気になれず、他の人に書いてもらった。 二日後に車を全損させたせいで、社長にクビを通告された。しばらく東京で仕事を探したが貯金も底をつき、実家に帰ることにした。 これと前後して不思議なことがあった。当時携帯が出始めた頃で、充電が切れているにも関わらず、呼び出しが鳴った。 直感的にYじゃないかと思い、コンビニからY宅に電話を入れた。Yの母親が出て、おとといから連絡がつかないとのこと。 その後、これに関係してか否かわからないが、四ヶ月後に、彼の田舎、山梨で無事見つかる。翌日幡ヶ谷のアパートを引き払い、実家に帰るとデスクから連絡が入った。 「お前のフィルムに変なものが写っているのだが」とのこと。内容は確認しなかったが「写真はそっちで始末してください」そそくさと電話を切った。
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