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サーバの調子
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ある程度IT関係に詳しい人は居ると思うんだが、 IT業界に勤めてる人も居るかな? 居たらその中にはきっと分かってくれる人も居ると思うんだが、 オカルト的な物とは縁がないように思われるような、 デジタルな仕事をやってるこの業界なんだけど、 実は意外とそういう話有るんだよね。 個人が信じる信じないはさておいて、 重要なサーバに御札が貼ってあったり。 人事を尽くして天命を待つ、と言うのか、 安全祈願的なお守りの意味合いが強いんだけどね。 俺はそんな業界に10年ちょっと勤めてるんだが、 ちょっと前に転職(業界は一緒だけどね)した。 この話は転職前の会社で、 転職する少し前に起きたの話だ。 俺が居た会社はそこそこ規模の大きいソフトウェア会社で、 でかいメーカーの子会社だった。 自社で仕事をする事が多く、 必然的に自社内に社内用のサーバを立てて、 管理なり試験なりに使ってた。 俺の部署で部署用のサーバを管理してたのは、 I子という俺より2年後輩の子だった。 で、このI子に関して 結構オカルト的な話があったんだよね。 「I子が体調を崩すと、あるサーバの調子が悪くなる」 風邪で休んだ時は妙にレスポンスが遅く、 インフルエンザで休んだ時は原因不明のフリーズを繰り返して、 日に2回は強制終了を余儀なくされていた。 サーバといっても あくまで社内向けの物で質はピンキリ。 件のサーバは元々は別の部署で使ってたものの転用で、 寿命も近かろうということもあったので、 多少の問題くらいは 「まあこんなものだろう」 で、皆そんなに問題にせずに使ってた。 普段はそれなりに快調に動いてたしね。 で、この話はまあ酒の席なんかで そこそこ話題になったりしてた。 マシンの管理って言っても 実際マシンはサーバルームに据え置かれてて、 メンテらしいメンテも毎日やるわけでなし、 I子が休んだ事でサーバの調子が悪くなるってのは、 不可解としか言いようが無かったからだ。 とは言えそれでI子が気味悪がられる事も無かったし、 「そういうこともあるのか。不思議だな」 くらいにしか皆捉えてなかったと思う。 そのサーバ使う作業がある日の前日には、 I子に 「体調崩さないでくれよ」 とか冗談交じりに話してたりしてたくらいだし。 そんなある日、 I子が体調を崩して会社を休み、 案の定そのサーバの調子は最悪だった。 昼休みが終わって 午後の業務が始まった直後くらいに応答不能になり、 遂には強制終了後に 綺麗に立ち上がらないような状態にまでなってしまった。 ハード関係はあまり詳しい奴が居ない部署だったんで、 「とりあえず良く分からんが置いておこう、 I子の事もあるしね」 なんて話して、 I子が復帰後にまだ駄目なようなら ハード故障として専門の業者なりに頼もうか、 という事になった。 偶然だけど直前にフルバックアップも取っていたし、 その日はそのサーバを使う急ぎの作業も無かったから、 特に焦りも無かった。 その日は特に何事も無く業務が終わったんだが、 次の日出社すると近くの席に座ってた上司が 深刻そうな顔をしてる。 何事かと尋ねると、 「昨日遅くにI子の親御さんから連絡があって、 I子が亡くなったそうだ」 と。 I子の実家はI子の住んでた部屋から割と近かったため、 夜に体調を崩したI子の見舞いに行ったところ、 I子が部屋の中で倒れてるのを見つけ、 病院に連絡したが手遅れだった…というような内容は、 その後通夜に参列した上司から聞いた。 原因は何やらはっきりせず、 「恐らく心筋梗塞だろう」 というような話だった。 不健康な生活を余儀なくされがちなこの業界では、 その中でも特に不健康な人間が倒れる事態はままあり、 それなりに聞く話ではあった。 当然というか、 労災についての話もあったんだが、 I子は体調を崩しがちな子だった事もあり、 残業はそんなに多くはなく、 揉めるような話にはならなかったらしい。 そして例のサーバはと言うと、 結局I子が死んだあの日にフリーズした後、 立ち上がる事は無かった。 ハードを扱う業者に見てもらったところ、 「こりゃ寿命ですね。HDDが逝ってます」 と。 他にも色々ガタが来てるらしく、 また、HDDを取り替えてまで使い続けるには ちょっと古すぎる事もあって、 サーバは廃棄となった。 この話はこれまでの経緯を知ってる人間には 当然のようにI子の死と関連付けられ、 部署内では 「I子の後を追ったのかな」 みたいな空気になってた。 ただ、最近考えるんだよね。 『死因がはっきりしないI子』と『寿命に達したマシン』 「後を追った」と言うが、 本当はどっちが先だったのかな、とか、 「後を追った」なら美談のうちかもしれないけど、 「連れて行かれた」だとしたら…とか。
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