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山道の信号
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友達の話。ある時、温泉好きの彼は地方で気ままなドライブ旅行をしていた。「夜の方がね、距離を稼げるし・・・・」人出も交通量も少ない夜の方が、ドライブは快適だ。ある峠に差し掛かった所で、彼は信号に引っ掛かった。人間とは変な生物で、街中では一つでも信号をやり過ごそうと黄色信号でアクセルを踏んだりするものだが、こんな人家の灯り一つ見えない山道の信号だと、却って律儀に停まってしまう。 「最近はこんな山奥でもLED信号なんだなぁ」見ているうちに変な事に気付いた。信号の所には横断歩道も脇道も無い。何の為に彼を停めているのか不明なのだ。第一、ここは山肌にへばりついた道で、右の崖も左の谷も四つん這いでも登れない様な急斜面。脇道など作り様も無い。あれっと思った瞬間、それが通り過ぎた。「ドドドドッとね、百鬼夜行が山肌を駆け下りてきた」ヘッドライトが照らす中を、物凄い勢いで異形の物の怪の集団が駆け下りてゆく。「月並過ぎて誰も信じてくれないんだけど、鬼やら牛頭馬頭やら火炎車やら」あまりに速くて何が何やら、確認できたのはそれだけだったが、「大半は水木しげるの漫画でも見た事も無い奴らだった」あっけにとられた彼が我に返った時には、集団は通り過ぎていた。ヘッドライトが届くか届かないかという距離に巫女さんが立っていた。美人だったそうだが、「綺麗というより端正過ぎて凄味ばかりが印象的な」巫女さんは彼に深々とお辞儀をした。と同時に、今までLED信号と思っていた赤い灯りがパッと散って、二、三回、ホタルのように瞬いて消えた。巫女さんも居なくなっていた。「その後はまさしく“下り最速”だったね」何故か一週間ぐらいはバカヅキで、いろいろ美味しい思いをしたそうだが、それも十日もすると元に戻ってしまったそうな。
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