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鳶のジイサン
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数年前、父方の曽祖父の三十三回忌が行われ、親戚が集まった際に聞いた話。曽祖父は鳶職で、地元の神社の祭礼を仕切ったり、地元では有名な人だった。そして、子供好きでも有名だった。小学校の設備が壊れたといえばお金を寄付したり、人手が足りないといえば若い衆を引き連れて駆けつける。 昭和54年10月。今も記録に残る、世界で最も低い中心気圧の台風が日本にやってきた時のこと。小中学校は臨時休校となり、地元の川は大氾濫。今も昔もそんな時に「川を見に行こう」という馬鹿ガキはいるもので、小学生3人が川に流された。うち2人はすぐに助けられたのだが、残る1人は行方不明。激しさを増し続ける豪雨と強風に「こりゃもう流されたんだろう」と、警察も消防も二次災害を恐れて捜索を諦めた頃、町内会の集会場に行方不明の子が1人で歩いてきた。「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら、全身ずぶ濡れになりながら。流されたと思っていた大人たちはビックリして、どうやって助かったんだと聞くと、「鳶の○○ジイサン(うちの曽祖父)に助けてもらった」と。子供の話によれば、グングン流されて、鼻まで川の水に沈んだ瞬間、川の中で鳶のジイサンがガッシリ抱えてくれて、「ナニをやっとるか、バッカモン!」と叱りながら、岸まで泳いで助けてくれた、と。子供が岸で泣いていると、「この道を真っすぐ行けば帰れるから。早く帰りなさい!早くしないと拳骨だぞ!」そして、鳶のジイサンは、子供と反対方向に歩いて行った、と。数日後、その子どもと両親とが我が家へ挨拶に来たのだが……我が家はびっくり仰天、曾祖母は「絶対にうちの父ちゃんじゃない」と。しかし、子供の言う特徴の老鳶職人といえば、ここいらあたりでは御宅の親方に違いないと言い張る。曾祖母「絶対に違う。だって、うちの父ちゃんは、台風が来る2日前から入院しているんだから」台風の当日も曾祖母は病院にずっと付き添っていて、「あの日、父ちゃんはずっと眠っていて、病室から一歩も出なかった」(癌で投薬していて、意識がなかった)親子が首を傾げながら帰っていった後、曾祖母が念のため、柳行李に仕舞っていた曽祖父の鳶半纏を確かめると……自慢の鳶半纏がぐっしょり濡れている。「まさか」と裏口の下駄箱に入れてある地下足袋を見ると、これまたぐっしょり……その1年後に、曽祖父は意識が戻らぬまま、寝たきりで亡くなったのだが、町内のあちこちで曽祖父を見た人がいた。迷子を交番のすぐそばまで送り届けたり、野良犬に追いかけられた子供を助けたり……その度に、親が「御宅の親方に、うちの子が世話になって……」と礼に来るのだが、やっぱり曽祖父は病室で寝たきり。曽祖父が亡くなった時、住職さんがこんな話をしてくれたのだと言う。「(曽祖父)さんは、年の離れた弟と妹を空襲で亡くしてたからねえ。子供を見ると、弟や妹を思い出して、大事にしていたんじゃないかねえ」葬儀が終わっても、七十七日法要が終わるまで、曽祖父らしき老鳶職人を見た人は何人もいた。その中には、痴漢に襲われそうになったところを助けてもらったという女子小学生もいた。その女子小学生は、曽祖父の遺影を見て、はっきりと「絶対にこの人です。間違いありません!」と言い切った。七十七日法要の時、なぜか、地元警察署の署長も来た。そして、曽祖父の遺影の前で、「この町の治安は私達がしっかりと守ります。ですから、安らかにお眠りください」とはっきりと声にしてから、手を合わせた。その後、曽祖父の姿を見たという人はなくなった、という。実は、俺は三十三回忌法要まで、曽祖父の遺影をちゃんと見たことなかったんだが、俺も曽祖父らしき人…というか霊?に、子供の頃に会っていることを思い出した。小学2年生の時、そろばん塾の後、どうしても観たいテレビがあったので、チャリンコを飛ばして、一時停止を止まらず飛び出したら、ふっ飛ばされた。次の瞬間、トラックが俺の目の前を走っていった。俺が「いてて」と起き上がったら、鳶のジイサン。そのジイサンは夕暮れの中で、すごく大きな声で「なにをやってるか、バカモン!死んだらどうする!」と怒鳴った。俺はとにかく驚いて「ごめんなさい!」と大きな声で謝ったら、次の瞬間、鳶のジイサンはいなかった。腕と足を擦りむいて、ズボンも破れたのだが、正直に言うと怒られると思って親にも黙っていた。あの時の鳶のジイサンは、間違いなくうちの曽祖父だった。
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