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友人の相談
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帰省をした時の話。 工業系の営業もどきな仕事をしている友人S。 ある時、 飲んでいた時に己に相談を持ち掛けた。 「会社の事務所で子供が煩いんだよな…」 「会社で子供…会社の人の子供さん?」 「んん?どうだろ? 話を聞くとそうじゃないかな、ってことらしいんだけど」 「わかんないのか?」 「ああ、小学校が終わるだろ? その下校くらいの時間に事務所に来て、 オレの机の隣とかに居たりするんだけど、 他の人に確認する間もなく別のトコに行っちゃうからさ」 「別の…ソイツ等も煩いだろうに?」 「うん。営業1課とかの事務所の方とかに行ってる時があって、 いいのかなぁと思う時があるけど。 営業1課って海外とかのハードな奴等だから神経ボロボロだし、余裕無いし」 「へぇ。そしたら怒鳴られたりするだろうから、 子供もすぐに行かなくなるんじゃ?」 「いや、気付かれないからな」 「…煩いんじゃなかったのか?」 「あぁ、うん。オレは煩いよ。 直ぐ横で覗き込まれたり笑われたり、 ふざけてどんっ!って腰にぶつかったりするし。 こっちは急ぎの書類を上げてるのにな(溜息)」 「…営業1課の奴等にはしないのか?」 「いや、してるよ」 「…なんで気付かないんだ?」 「いやぁ…その子供に気付いてるの、 オレともう一人、ちょっと話を聞いたその人くらいだもん」 己は運ばれてきたほっけ焼きを解体しつつ、 Sに頷いた。 「成る程…」 「S君よ。 それは己に相談しても仕方が無い、って言わんか?」 霊感ゼロを自負している己は、 とりあえず確認する前に言った。 話の途中からしきりに顔の左側を気にしているSは、 左目を擦りながら、 「あ、いや。んで、相談はこれから」 「…ほう?」 流石、慣れている人間は違う。 ここまでは状況説明か。 「その子供がさ、ちょっと前から、 オレが気付いてるのに気付いたみたいなんだよね」 「…他人の不幸ながら、マズイな」 「んで、遊ぼうって言う機会を、 何となく狙ってる気がするんだわ。 っていうか、そのもう一人の人に聞いたら、 明らかに声を掛けようといろいろ伺ってるらしいし」 その人の席は向かいらしい。 つまり、子供の様子は丸見え。 「…お前は気付かなかったのか?」 「何となく嫌な予感がしたから、 その子供が近づいてきそうな感覚がしたら、 席を立って別の所に行ってた」 「追いかけてまでは来ないのか」 「うん。何だか一定の決まった所でしか動けないみたいでさ。 事務所の受付のとこと、オレの居る事務所、 それから繋がった営業1課の事務所…ぐらいだったかな」 「…何かいわれがあるんだろうな。多分」 「そうだろうね。 でも、一々聞いて回る訳にもいかんし」 「そうか。 しかし、お前の机を他の部屋に移動できる訳でもないだろうしな。 話し掛けられるのは時間の問題か」 「…イキナリ相談したい所をさっくりと切り捨てないでくれ…」 「しかし、その机で仕事してる以上、 離れられん事もあるだろう?」 「ある」 「やっぱり、時間の問題だ」 「…だから、相談してるんじゃないか」 「…この際だから、 話し掛けられてしまうのは仕方ないとして、 その後の対処…目にゴミでも?」 Sはしつこく左目をごしごしと擦っていた。 「あ、いや、すまん。 なんか左の視界にちらちらゴミが浮いてるような気がするんだ」 己はその時、 珍しく霊感というか囁きじみたものを感じて、 Sに聞いた。 「…子供が覗き込んでくるのって、 お前の左後ろからじゃないか?」 「…あっ」 左目を擦っていたSが、 呆然とその手を止めた。 「確かに、いつも見てるのは左目…ってか左の視界」 己も話している時に何故かその子供が、 Sの向かって右側(つまりSの左後方)から覗き込んでいるイメージで 話を進めていた。 「…まあ、オレのはきっと、 Sが左目をさっきから気にしてるからだろう。 暗示みたいな感じでな」 「…ゴミみたいなのって…」 「…左目、気を付けろよ」 「…だから、相談してるのに…」 「だから、何で己に相談かね? まだDとかのが霊感あるだろ?」 共通の友人でSほどではないが、 霊感があるらしいDという友人が居た。 彼の方が適任だろう。 「いや、その…まあ、Dにも相談するけどさ」 「己に相談しても好転しないと思うが… アドバイスとしては、 話し掛けられても無視するのが良いじゃ?ぐらいしか。 そういうのって大体、下手に相手をすると纏わりつかれて…という…」 「やっぱ、そう思うか?」 Sは憂鬱そうな顔でうめくように言った。 「てか、霊感無い人間にはそれくらいしか言えんだろう?」 「…まあ、いいや。 おっちゃん(己の仲間内の呼ばれ方)に話ができたし…」 この時のSの言葉は、 普段会わない己に怪談話のネタとしてこの話題を振れたので、 まあいいやと思っているのだろう、 という程度にしか考えたなかった。 帰省も終わり、 関東に戻ってある程度時間が過ぎた。 Sの話はすっかり忘れていた。 メールをチェックしていると、 Sからのメールが届いていた。 工場へ行った時にガス漏れ(というか噴出)事故があり、 それに巻き込まれて左目をやられた…という話だった。 その内容を見た時に、 一瞬ほっとした感覚があった。 不謹慎だとは思わなかった。 取りあえずメールでは、 『死ななくて良かったな』 と励ましの返信を出して、 次の帰郷の時に、また飲みながら話をした。 「…そう言えば、めでたく左目を」 「ああ、うん」 その時はもう完治していて、 眼帯も何もしていなかったSが曖昧に笑った。 「失明しなくて良かったなぁ」 「っていうか、死ななくて良かったよ」 言うにしても大袈裟だな、 と思って話を詳しく聞くと、 そのガスというのがかなりケミカルな劇薬で、 (工場においてあるような物なので当たり前と言えば当たり前) 目の粘膜から吸収された量だけでも 致死量に成る可能性もあったのだと。 「へぇ…それで良く失明しなかったな?」 「いやあ、運が良かったのか…」 Sは曖昧に酒を飲むと己を見て笑った。 「…おっちゃんに話をしたから、 耐性が出来てたんじゃないかと」 「…どういうことで?」 「ガスを浴びちまう時、 一瞬子供の声がしたんだよ。 小さい女の子の笑い声。 反射的にそっちを振り返ろうとしたんだけど、 おっちゃんと話したの思い出して、 振り返るの堪えたんだわ」 Sは自分の左後ろに手を翳すと、 「そしたら、そっちから“ぶわっ”ってな具合にガスが」 「…振り返ってたら、直撃?」 「うん。多分。 いやあ、洒落にならん感じだった。 脂汗でまくりだったし」 このSの感想を聞いた時、 失明しかけたとのSのメールを見て、 不謹慎にもほっとした訳が解ったような気がした。 その時出した返信通りの心持ちだったのだ。 「死ななくて良かったな」 と。 その後Sに話を聞くと、 その子供は相変わらず居るらしいが、 もうSには構わなくなったとの事。 それからもSは時折、 自分がやばそうな体験をすると己に話をする。 大体、話の内容が中々に深刻なので、 笑って怖い話が聞けるからいいやと構えてられない。 Sよ。 霊感がある人間が、 霊感ゼロの人間に霊障の相談をするな。 前例があるだけに、 こっちは怖くて仕方が無いぞ。
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