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本当にあった怖い話
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それでは本当にあった怖い話をします。 ただ、今からする話がオカルトの類であるかどうか曖昧な内容でもあるので、 そのあたりの判断についてはこれを読んだ皆様にゆだねます。 これは登山仲間から聞いた話で、 実際に体験したのはその登山仲間の兄弟なので、 本当にあったといっても又聞きではありますが…… ロッククライミング好きのその人(仮にAさん)が友人を連れて 2人で沢登りに行ったときの体験談です。 沢登りというのは要するに滝をロッククライミングする、 夏にやると非常に涼しく爽快、かつ高難易度なものなんですが、 Aさんはかなりクライミング歴もあり、 連れの友人もそれなりの腕前だったので、 その日、2人はヒーコラ言いながらも沢登りを楽しんで、 無事に大目的の滝も登り切ったんですが…… クライミングをしない人には意外かもしれないですが、 クライミングというのは同じ崖を登るよりも降るほうが遥かに危険で、 普通、崖を登ったら同じ場所を降りるのではなく、 崖を迂回してゆるやかな道を歩いて降りるものなので、 Aさん達も普通に滝を迂回して元来た場所に戻ろうとしました。 それじゃあ沢登りのポイント近くまで乗ってきた車に戻ろうか~と、 沢の横を沿うようにやぶをかきわけて 山道(本当に道がある訳じゃないですが)を降り始めたのですが、 そこで問題が発生。 降り道の途中を、 崖崩れの起きた痕が横切るように走っていて、 明らかにそこを突っ切るのは危なそうな状態になっていたのです。 これはちょっと引き返そうかとAさん達は道を変えて、 水音の聞こえない場所まで沢から離れてしまうと遭難の危険もあるし、 沢の反対側から降りられないかとか、 落石や滑落の危険性も、 遭難の危険性も低そうな道を探してみたものの見つからず、 けれどあまり時間をかけていると 山の中で日が暮れてしまうからそれは避けたいし、 さんざん周囲を歩き回った末に、 こうなったら崖崩れポイントを降りるしかないか? と、また最初に降りようとしていた道に戻ってきたところで…… それは起きました。 なんと、山の中・やぶの中で 現地人とおぼしき男女2人組に出くわしたのです。 Aさんがその2人組を現地人と判断したのは 服装がとても山登り系のものではない、 街着だったからで、 山の近くに住んでいる人は普段着で平気で山を歩いたりするので 今回もそれだと思った訳です。 「こんにちは~! この近くにお住いの方ですか~?」 Aさんはとにかく明るく声をかけたそうです。 山登りを長年続けていると 山道で人と会ったら挨拶するのが習慣になっていますし、 あと、現地人からしたら 山の中で突如大荷物を背負った人間と遭遇なんて、 不審者と出会ったも同然なので、 愛想良くしないと逃げられたりしますので。 とりあえず声をかけて、 道をたずねようと考えての行動でした。 しかし、Aさん渾身の笑顔対応にも 現地人2人組の反応はどうもぱっとしない。 というか、 その2人組の雰囲気がめっっっちゃ暗かったのだそうです。 山の斜面の下側から 男の人が先頭を歩いて登ってきたところを鉢合わせた形だったそうですが、 2人共ずっとうつむいたままノロノロと歩いていて、 普段なら声をかけるのもはばかられるくらい、 明らかに暗い雰囲気だったとか。 けれど、Aさんとしても ようやく道をたずねられるチャンスだったのですから、 この機を逃すまいと食らいついて、 「僕ら山登りにきて道に迷っちゃって! 車道にはどっちに行けばいいでしょう?」 なんて、にこやかに言葉を続けた訳です。 それに対して、 相手の男の人がブツブツ何かをつぶやいたそうですが、 それが全然聞き取れない。 ただ、スッと、 男の人が岩陰の先に曲がって続いていそうな小道(いわゆる獣道)を 指さしたんだそうです。 「あ~そっちですか~! ありがとうございます!」 「……」 そしてその2人組が、 そのまま指さした小道に向かって うつむいたままノロノロと進んでいく。 まあ現地人がふらりと立ち寄れるのなら車道も結構近いだろうし、 良かった良かったとAさん達は安心しながら、 2人組を先に通して、 少し離れてその後ろをついていこうと考えたのですね。 もうその時はすっかり安堵感に包まれていたそうです。 ちょっと気になったことと言えば、 2人組がAさん達とすれ違う瞬間。 後ろを歩いていた女の人が、 それまでずっと無言だったのですが、 Aさん達の前を横切って小道に向かう瞬間、 「……フフ」 と、これまためっっっちゃ陰鬱なトーンで笑っていたのだそうです。 うん?と気にはなったけれど、 その時は安全に山から出られる~って気持ちのほうが強くて、 深くは考えなかったのだとか。 そうこうしているうちに 現地人2人組が岩陰を曲がっていったので、 それじゃあ自分達も行きますかと、 ワンテンポ遅れてAさん達も小道に向かい…… ここでさすがにスルーもできないほどの異変が。 Aさん達も岩陰を曲がってみたところ、 すでに先ほどの2人組の姿が見えない。 見通しのよい場所ではないといえ、 あのノロノロペースで歩いていた2人組が こんなに早く見えない距離まで進めるものか? 疑問に思いながらも、 Aさん達は小道を進んだそうです。 自分達のペースのほうが明らかに早いし、 いずれ2人組に追いつくに違いないと、 自分に言い聞かせるように獣道を進み…… ほどなく、 Aさん達は無事に車道に出られたそうです。 いや~良かったとAさん達はほっとしながらも、 やはり気になるのはあの2人組。 結局、Aさん達が車道に出るまでに 再び会うことはありませんでした。 獣道は急な斜面を縫うように通っていたので、 途中どこかで上へ登ることも 下へ降ることもできなかったはずなのに。 車道を歩いて 自分達の車を停めてある場所へ向かう道すがら、 あの2人組はなんだったのだろうと話し合っていたAさん達。 ふと、そこでAさんの連れが言ったそうです。 「そういえばあの人達、どこから来たんだろう?」 よくよく考えてみると、 Aさん達が2人組と会った場所。 2人組は山の下側から登ってきていましたが、 そちら側には登山ベテラン&山装備の自分達をもってして “通過するのは最終手段にしよう” と引き返した『崖崩れポイント』しか歩けそうなコースはなかったはず。 あの普段着で、 あの足取りの2人組が、そこを登れたのか――? 「あれ、なんだったんだろう?」 その日のAさん達の沢登りは、 いつもより一層冷ややかな納涼となったそうです。 ――と、ここで幕を下ろせば 普通の怪談話で終わらせられた話ですが、 この話にはもう少しだけ続きがあります。 このAさんというのが超常現象などが好きな性格の人で、 好きだからこそ不思議体験をした時にはそれを適当に扱ったりなどせず、 それが本当に超常現象の類だったのかと、 まじめに考察する人だったんです。 それで、沢登りの体験について 帰宅してからも各出来事の時系列を整理して、 移動距離とか状況とかを考慮して、 最終的にひとつの予測を導き出しまして…… それが、 『あの2人組は車道から獣道を通って沢に向かっていたが、 崖崩れポイントに阻まれて仕方なくUターンしてきたところを、 ちょうど沢の反対側から戻ってきた自分達と遭遇した』説。 つまり…… あの負のオーラ全開だった超陰鬱2人組は夜逃げかなにかで山に入り、 沢で入水自殺しようとしていたのではなかろうかと。 道がなくて戻ろうとしたところをAさん達と出くわしてしまい、 もう仕方ないや、場所なんて選んでられないやと、 岩陰を曲がったところで 崖下に投身自殺したのではないかと。 山の崖からの滑落というのは、 真後ろを歩いている同行者が落ちても振り返るまで 前の人間がまったく気づかないなんて話もよくあることで、 もし2人組が声を出さずに飛び降りていたら、 多分、気づけずにそこを通過していただろう、と。 その話を聞いて、 山登り仲間がAさんに聞いたそうです。 「それって、山の名前と日付と、 あと事故・事件あたりのキーワードで ネット検索すればその予測に対する答えが出るんじゃない?」 それに対して、 Aさんは物凄く苦笑いしながら、 「いやあ、オカルトとかそういうのは好きだけどさ……」 ためらった末に、 こう言ったそうです。 「正直、さすがに調べるのが怖い」
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