怖い話登録数18393話
恐怖感アップダークモード
(0件)
▼コンテンツには広告が含まれています
✕
虚ろな男の声
お気に入り
1366
54
2
0
中編4分
コピー
「虚ろな男の声」の朗読動画を探しています。YouTubeでこの話の朗読動画を見つけたらぜひ投稿していってください。
※YouTubeのURL必須
開始時間
00時間00分00秒
投稿する
先日私と登山仲間の先輩とが、 北アルプス穂高連邦での山行中に経験した話です。 その日は穂高連邦の北に位置する槍ヶ岳から稜線を伝って 奥穂高岳へ抜ける縦走ルートを計画していました。 ルート上には南岳と北穂高岳を結ぶ、 大キレットと呼ばれるV字状に切れ込んだ岩稜帯があります。 痩せた岩稜が連続するこのルートは、 一般登山道としては屈指の難易度を誇り、 毎年滑落による死者が絶えません。 当日の朝こそ太陽が顔を覗かせていましたが、 南岳に達するころには濃霧に覆われ、 雨も滴り始めました。 予報より3時間も早い雨です。 私達は文句を垂れながら雨具を纏い、 互いの身体をザイルで結びました。 キレットは岩肌に梯子や鎖が取り付く厳しい下りで始まり、 一気に200m程下るとキレットの最下部、 コルまでアップダウンが続きます。 足を踏み入れて1時間もしない内に雨風は強まり、 私達の身体を容赦無く撃ち始めました。 ここで引き返す選択肢もありましたが、 体力は十分であるし、 今日中にはキレットを越えておきたい。 霧の中にぼんやりと浮かぶ岩山は 私達を阻むように佇んでいましたが、 私達はそれへ足を向けました。 岩肌に取り付くようにして岩山を登り始めると、 頭上から微かに男の声が聞こえてきました。 登山シーズンは過ぎているし、 このような天候です。 私達以外にも先を急ぐ者、 物好きがいるんだなと考えながらも、 私は久々の山行者との出会いに心を踊らせていました。 山頂に近づく頃にははっきりと男の声が聞こえましたが、 山頂で見た光景は拍子抜けするものでした。 人影は無く、 切り立った細い尾根が伸びているのみ。 今私達が通ってきたルートは 人一人がやっと通れる細いものであり、 すれ違う事は出来ません。 また、尾根は 僅かばかりの足掛かりを残して鋭角に切り立ち、 下方は霧に吸い込まれています。 「あれ、さっき男の人の声聞こえましたよね?」 「お前も?俺も聞こえた。」 「落ちた...なんて事はないですよね。」 「まさか。 さっきも聞こえたし、 落ちるような音も声もしなかっただろ...」 先輩の表情は 不安と疑問が入り混じったようなものでした。 「空耳だろ。早く行くぞ」 空耳とは思えませんでしたが、 反論しようとは思いませんでした。 足を滑らせれば即ち死を意味する岩崖の、 僅かな足場を頼りに尾根を通過していると、 下方から風が吹き上げ 「おおおおおお」 山と共鳴したのか気味の悪い音が響きました。 風の音とはいえ、 幾千もの、この世の者では無い者の叫びに聞こえた私は 鳥肌が抑えられませんでした。 「集中しろよ。風で煽られる。 絶対に身体を山側から離すな。」 それを察してか、 先輩がかけてくれた激励の言葉が 心強く感じました。 キレットに足を踏み入れて2時間、 最下部のコルを通過し、 北穂高岳への登りの難所に差し掛かりました。 壁のようなその登りは、 ピンが打たれる以前は 高度なクライミング技術が必要であったと見て取れます。 先輩が先行し、 私は下で確保を行います。 先輩が登り切った後、 降りてきた確保のザイルを装着し ピンに手をかけました。 中程まで登った時、 耳元で虚ろな男の声が囁きました。 「おい」 私は全身の血が凍りつきました。 次の瞬間、 何者かに右足を捕まれ、 私は足を滑らせました。 「おい!大丈夫か?!」 確保のザイルが無ければ 命は無かったでしょう。 先輩の声に答えようとしたところ 「助けてくれ」 耳元で声が響き、 私は身震いしました。 虚ろで生気のないあの声を忘れる事は出来ません。 今でも想像すると鳥肌が抑えられません。 その日は奥穂高岳を諦め、 北穂高岳の山小屋に宿泊する事にしました。 そこで出会った山のベテラン、 50代の紳士にこの話をしたところ、 彼も同じ様な経験をした事があるといいます。 人の居ない筈の場所で声が聞こえたり、 山小屋で女に足を捕まれる悪夢を見たが、 仲間も全く同じ夢を見ていたなど。 山の経験が長いと 少なからずそういった不思議な経験をするらしく、 明日は山を降りたほうが良いとの忠告を頂き、 私達はそれに従いました。 朝の内は雨が残り、 濃い霧が立ち込めていましたが、 下まで降りてくると 晴れ間も見えるようになりました。 私達は下山の前に遭難者を慰霊する穂高神社奥宮へ足を運び、 今命が有ることの感謝と、遭難者の冥福を祈りました。 無事に帰宅した翌朝、 先輩からの電話が鳴りました。 「おい今のテレビのニュース見たか?!」 「何かあったんですか?」 ニュースは私達が2日前に通った道、 北穂高岳の北側で早朝に 男性が滑落し死亡したことを伝えていました。 北アルプスの犠牲者の中には 「連れて行かれた」方も居るのではないでしょうか。 現実的ではないと分かっていても、 あのような経験をした後では そう思わざるを得ないのです。
怖い話を読んでいると霊が寄ってくる?不安な方はこちらがおすすめ
2人が登録しています
感想や考察があればぜひコメントで教えてください ↓コメントする
この話は怖かったですか?
怖かった54
次はこちらの話なんていかがですか
続きを読む
※既読の話はオレンジ色の下線が灰色に変わります
漫画売れ筋
私の日常。
Get Backers 奪還屋【極!単行本シリーズ】1巻
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 13 (ドラゴンコミックスエイジ)
BLUE GIANT MOMENTUM(3) (ビッグコミックススペシャル)
ぼっち・ざ・ろっく! 7巻 (まんがタイムKRコミックス)
ドカ食いダイスキ! もちづきさん 1 (ヤングアニマルコミックス)
前の話:【洒落怖】手はベッドの下に潜り込んだ
次の話:【洒落怖】顔らしきもの
怖い話 No.1444
【洒落怖】座椅子
1557
22
短編2分
怖い話 No.1299
【洒落怖】申す
1380
44
中編3分
怖い話 No.10062
【洒落怖】小汚い店
1011
50
怖い話 No.287
【洒落怖】最後のお化け
1381
24
1
短編1分
怖い話 No.9820
【洒落怖】117
964
23
怖い話 No.8338
【洒落怖】夢日記って知ってる?
2034
43
怖い話 No.1664
【洒落怖】変化する遺影
1834
39
怖い話 No.22978
【洒落怖】両親が離婚した
684
15
長編5分
怖い話 No.8953
【洒落怖】ドライブインのトイレ
2266
37
怖い話 No.1579
【洒落怖】私のお気に入りの部屋なんです
1601
49
心霊サイト運営者
全国心霊マップ
ghostmap
プロフィール
Twitter
新着洒落怖
留守番電話
舞台学科による演劇
分譲現場
謎の会話
たけのこ掘り
かんのけ坂
4階のベランダから落ちた友人
林間学校で登山
自転車に乗っている夢
雄別炭鉱
運動会?
坪の内
新着コメント
どうか呪わないで。 空き巣より
逆吸血鬼と存在しない町
一年に一度村を無人化
普通の彼女じゃない
あんた死ぬよ
降って沸いた心霊現象
好奇心
タヌキ
赤猫