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夢囲い
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どうしてこんな人生になったんだろうか? 部屋に散乱するゴミ、 虚ろな精神、長年引きこもっている自分。 常に現実にはない妄想を描き 空っぽな心を満たしていく。 もし、希望に溢れていた未知数の少年時代に戻れたら… 俺は記憶の片隅から【夢囲い】の話を思い出した。 話はこうだ。 近所の古本屋の政治、経済の棚に 時たま【黒い本】が出現するらしい その黒い本を枕の下に挟んで眠ると、 自分が幸せだった時代の空間に戻れるというもの 誰が流した噂かどうかわからないが 高校の時に流行った覚えがある。 かなり鬱な精神の俺は 正常な判断ができなくだんだんと信じて行き、 もしかして本当の話なのかと考え始めた。 久しぶりに外の空気を吸った。 空の天気がまぶしい。 俺は古本屋に向かった。 無口な小汚ないベレー帽を被った 白髪、白髭の店主が座っており 店のなかは狭く、本棚と本棚の感覚は狭く、 本棚に入りきれなかった本は まるでゴミに出す新聞紙のようにあちこちに積まれていた。 よく高校の時にここの古本屋にはよく立ち寄った。 店主はもう忘れていると思うが 俺は半ばすがるような気持ちで 政治、経済の棚を見た。 あった。 そこには何も記されていない黒い本があった。 手にとり、中身を見ようとしたが 何故かやめることにした。 俺はその本を店主の前に置いた。 無口な彼が口を開いた。 昔、よくここで本を買ったが 一度も話したことがない 「あんさん…見つけなさったか」 「あんさんがしようとすることは止めはしないが よく考えた方がいい」 彼はそう言い、 俺はうなずくだけだった。 俺は家に帰り、 早速その本を枕に敷き目を閉じた。 数分後 何か、夏の臭いがする。 虫たちのせせらぐ音も聞こえる。 そして華やかなざわめきも 俺は目を開けた。 もうゆめの中なのか? 変な不安感がある。 自分の部屋の扉を開けたら 何か起こるような気がする。 異様な空間のざわめきが俺の体を刺激する。 俺は恐る恐るドアを開けた。 「◯◯、そんなところにいたの? 速くしないとおいていくよ」 若い母親だった。 最近、俺のせいで心労がたたってげっそりとやせこけた母が 水を得たかのように若々しく元気だった。 そしてふと、外に耳をやると 花火の音や人々のはしゃぐ声が聞こえる。 あ、これから祭りにいくのかと思った。 そして俺は子供の姿になっていた。 後ろに目をやると、 今出てきたところは祖父の部屋だった。 祖父が亡くなったとき、 俺が部屋を譲り受けたんだ。 着物を来た母親に連れられて一階に降りた。 そこには若かりしときの父と 亡くなった祖父がいた。 みんな笑顔だった。 そしてこの瞬間、思い出した。 ここは小三の時に 家族みんなで近所に祭りに行くときだ。 外を出ると美しい夕焼けに染まっていた。 空気にも温かく包まれて 天国にきたかのようだった。 俺は大好きな祖父の手を取って 屋台が並ぶ道まで歩いた。 途中で俺が、 テストで100点取った話が出た。 小学校の三年のテストなんか簡単にできる。 それに祖父は 「さすがわしの孫じゃ、 末は博士か大臣かだな」 とありきたりな台詞を楽しそうに言った。 両親も同じようなことをいっていた。 胸がいたかった。 糞大学出て引きこもっている姿を 祖父に見せたらどう思うかな? 俺に期待していた祖父や、 両親の姿を見て泣きそうだった。 でも、そんな心の痛みも 家族の笑顔や屋台の賑やかさが消えていく 屋台が並ぶ通りは人がたくさん行き通い、 ごった返している。 途中でクラスの友達にあったり(明日ポケモンしようぜとか)、 綿菓子買ったり、 当て物屋で絶対当たらないPSを狙ってくじを引いたりした。 「あー◯◯君だ」 幼なじみの初恋の女の子とばったりあった。 この子は家庭の事情で 小学六年の頃に引っ越してどこかに行ったんだ。 そして話の流れで一緒に金魚すくいをすることになって 向かい合って紙を潜らせた。 とっくに夜になり、 屋台の光が幻想的に世界を照らす 着物姿の彼女にも光が淡く照らして、 俺と目があった。 時が止まったような気がした。 恐らくこの空間は永遠に続くんだろうと 直感的に感じた。 もう現世を見たくない。 この世界が偽りか、真かどうでもよかった。 体と精神がこの世界に半分溶けて混ざったような気がした。 その時、何を言ったか分からなかったが 祖父が激しい口調で怒っている声が俺の頭に響いた。 回りには聞こえてないようだ。 ふと、祖父を見ると 鬼の形相で俺を睨み付けていた。 その瞬間、 ふと我に帰ったかというか。 自分を包む空間がまがい物のように感じられ、 不安と恐怖が支配した。 ここにいては行けないと思い 咄嗟に走り出した。 ごった返している人を掻き分け 無我夢中で走った。 二階のドアだ。 あそこが現実とこの世界との狭間にあると思った俺は 自分の家を目指し走った。 屋台が並ぶ通りと家の間の道は うっすらとぼやけていた。 後ろを振り向いた俺が見たのは、 暗闇の中にぽつんと祭りの屋台通りの光があって 来た道が消えていた。 俺は必死に走った。 家の前に着き、 ドアノブに手をかけようとしたとき 鍵がかかっていたらどうしようと脳裏に浮かんだが 無事に開いた。 祭りに行くとき 最後に家を出たのは祖父だった。 俺はそのまま階段をかけあがり 二階のドアを開けた。 次の瞬間、 俺はゴミだらけの引きこもり部屋で 天井から縄を足らして首をつっていた。 俺はびっくりして、 どうにかして首を縄からはずして 一命をとりとめた。 ドタバタしたので、 一階にいる母親がきてドアをあけた。 母親は目の前にある現状を認識し 俺を抱き締めて泣いた。 このときに現実に帰ってきたと感じた。 俺はあの出来事から、 不思議と生きる力が蘇り 前向きに人生を歩んでいこうと考えるようになった。 後に出来たオカルト好きな知人にこの事を話すと それは【狭間の書】というらしい。 人間が生と死の中間の位置にきた時に現れると言う黒き書 文字どおり、 あの世への扉を開いて 人を惑わす玄関口であるらしい。 そして先にあの世にいった祖父が 助けてくれたそうなのだ。 そもそも、良く考えたら 黒い本の噂は高校のときにはなかった。 黒い本は、 他人の記憶に干渉して 自然と認識させるようにするという。 努力のかいがあってか、 就職が決まり祖父の墓参りにいった。 心なしか祖父が笑ってるように感じた。
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