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深夜のドライブ
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3月半ばの話 高校の卒業式も終わり、 大学の入学式までまだ数週間あり 暇だった俺と友人のひろしが 俺の家でだらだらとマンガを読んでいると、 同じく友人のなおきから 「車でどっかドライブいかね?」 と電話があった。 話によると、 なおきの兄貴が長期出張に行く事になったらしく、 その間車を借りれる事になったので、 どこか遠くへ深夜のドライブに行こうということらしい。 俺たち2人はひたすら暇だったので 二つ返事でドライブに行く事にした。 ただし、俺達は免許を取ってから 機会があればあちこちにドライブへ行きまくっていたので、 地元の周辺はほぼ行きつくしており、 暫らく考えた末に 「ひとまず高速に乗ってから、 どこか適当な知らない場所で降りて そこから下道を進もう」 という事になった。 1時間半ほど高速を進んだ辺りだろうか、 山の中の人気の無いインターチェンジが見えてきたので、 そこを降りる事にした。 高速を降りると、 予想に反してかなり整備された道だった。 人家や店が無いだけで街灯も多く、 俺達は雑談をしながら暫らくその山道を進んでいると、 運転をしていたなおきが 「あの横道入ってみないか?」 と提案してきた。 その横道は今まで走ってきた道とは違いかなり狭く、 街灯も何もなく少し不気味な感じがしたが、 単調な広い道に飽きてきていた俺達はその道を進む事にした。 横道は予想以上に狭く、 所々に木の枝が道まで突き出している場所などもあり、3人で 「なんかこえーな…」 などと話しながら進んでいたのだが、 ふいに後部座席にいたひろしが 「…あ、あれは」 と何かを見つけたらしく 止まってくれと言い出した。 助手席にいた俺と、 運転していたなおきは何も見ていなかったため、 車を路肩に止めた後でひろしに聞いてみると、 一瞬だが林の中に女の人らしい人影を見たという。 俺はひろしが俺となおきを脅かそうとしているのだと思い、 「またまた~w」 と茶化すように聞いたのだが、 ひろしは大真面目に 「いや、マジだって、 とりあえずちょっと引き返してみてくれよ」 と真顔で言い出した。 俺となおきは 「まあのせられてやるか」的なノリで車を引き返し、 ひろしが女の人を見たという場所まで戻ると、 さっき通った時は気付かなかったのだが、 その場所には舗装されていない下り坂の横道があり、 その先には真っ暗な林道が続いていた。 なおきが 「お前が女の人見たのってここか?」 と聞くと、ひろしは 「道があったのは気付かなかった、 でも女の人は間違いなく見た。 ほら、その先にちょっと大きい石あるだろ?あの辺り」 と言うので、 半信半疑のまま林道を下り、 その場所まで行く事にした。 石というか岩の辺りまで来ると、 その場所は少し開けており、 車を止めて降りてみたが周囲には誰もいない。 俺はひろしに 「誰もいねーじゃん」 と、 はいはいそろそろネタばらしよろしく的に聞くと、 ひろしはちょっとキレ気味に 「マジで見たんだって!」 と言い出した。 仕方なく俺となおきは 岩の辺りを車のライトで照らしたりしていると、 岩の裏側の下のほうに何かが見えた。 最初になおきがそれに気付き、 俺達は岩の裏側へと回り込んだ。 そこで俺達は背筋に寒い物を感じた。 岩の裏側に回ってみると、 さっきまで気付かなかったのだが、 女物のブーツの片足だけが落ちていた。 俺が 「…もしかして自殺?」 と独り言のように呟くと、 なおきが 「近くに車とかなかったぞ、 どうやってこんなとこまで来るんだよ、 置き去りにされたとかか?」 などとあーだこうだ話していたのだが、 ふと気付くとひろしが全く会話に入ってこない事に気が付いた。 俺がひろしに 「お前はどう思う?」 と聞いたのだが、 ひろしは林の中の一点を凝視していて全く返事をしない。 なおきが 「ひろし?」 と聞くと、 ひろしは真っ青な顔で林の中を指差した。 その方向を見てみると、 背の低い木の枝や草が折り重なっていて良く見えないが、 7~8mくらい先に明らかに人がいる。 更に良く見てみると、 女の人のようだ。 年は10代後半から20代前半くらい、 服装も普通で何もおかしなところは無い。 強いて言えば、 髪の毛が結構長いのだが、 それが顔にかかっていて表情は全く読み取れない。 なおきが 「なんだ。やっぱ置き去りにされたんじゃね? 可哀想だから家まで送ってやるか」 と林の中に足を踏み入れようとすると、 ひろしが 「やめろ!」 と突然大きな声を出した。 なおきはそれを意に介さず女の人を呼んだりしていたのだが、 俺はその女の人がおかしい事に気が付いた。 髪の毛が前に垂れ下がっているから顔が見えないのかと思ったが そうではなかった。 首が180度逆を向いていた。 俺がその事に気付いたとき、 その女がなおきの呼び声に答えるかのように振り向いた。 正確には「背中をこちらに向けた」 暗くて目は見えないが、 その女の口元は微笑むように笑っている。 流石になおきも女の異常な姿に気付いたらしく、 3人とも暫らく黙ってしまった。 というより動けなかった。 沈黙していたのは10秒もなかったと思う。 突然ひろしが俺となおきの手を掴んで 車の方へ走り出した。 ひろしに引っ張られ走る俺は、 何となく後ろを振り向いた。 するとその女が微笑んだまま 後ろ歩きで草や木の枝をかき分けながら こちらへ向かってくるのが見えた。 車に大急ぎで乗り込み、俺が 「おい、追ってきてるぞ!」 と2人に言いながら岩の方を見たのだが、 その女が見えない。 俺は 「あれ?追ってきてないのか?」 と少し安心していると、 必死でエンジンをかけていたなおきが突然 「うわあああああああ!」 と叫び声を上げた。 なおきのほうを見ると、 運転席側の窓にマニキュアをした 「真っ白い手の甲」が見えていて、 それがゆらゆらと揺れている。 ひろしとおれはなおきに 「早く車動かせよ、洒落になんねーよ!」 とせかし、 なおきは物凄い勢いで車をバックさせて 元来た道へ戻り始めた。 林道から舗装されたさっきの道に戻り、 俺とひろしが林道の方を見てみたが、 あの女は追って来ていない。 少し落ち着いた俺達3人は それからほぼ無言だった。 俺は何かあの女の話をすると現れそうで怖かったのだが、 なおきとひろしも同じ心境だったのだと思う。 先ほど降りたインターチェンジから高速にのり、 そこで俺は「とにかく明るいところにいたい」と、 途中にあった結構大きいドライブインに入る事を2人に提案して、 2人ともその方が良いと同意してくれた。 ドライブインに入ると、時間はもう3時頃、 人気は殆どなく駐車場に仮眠中のトラックが数台止まっているだけだったが、 俺達は明るいところにこれたためホッとして急に緊張の糸が切れた。 自販機で暖かい飲み物を買い、 ドライブイン内のベンチでみんな無言で各々に飲み物を飲んでいると、 自販機のある通路の方から 「ふふ…」 と女の人が笑う声が聞こえてきた。 3人とも声に一瞬「ビクッ」としたが、 まさかな…と3人で「気のせいである事」を確認するために 自販機のある通路へと向かった。 そこには「あの女」がいた。 体が正面を向いていたため顔は見えない。 本来後頭部がある後ろ側から、 「ふふふ」とさっきの笑い声が聞こえてくる。 俺達はパニックになり半狂乱で車に乗り込むと、 そのまま猛スピードで車を飛ばし地元へ帰った。 その後俺達は各自進学し、 俺は地元とは別の場所で一人暮らしを始めた。 あれ以来、実害は無いが 時々「あの女」が視界の端に見える時がある。 ひろしとなおきとは今でもよく連絡を取り合うが、 2人ともあの日の事は一切口に出さないため、 2人にも同じ物がみえているのかはわからない。 俺は「あの女」が視界の端に見えるたびに 気のせいだと思うようにしている。
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