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熱を出して寝込んだ
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以前、上京して間もない頃、 熱を出して寝込んだ。 只の風邪だと思っていたけど、 どうやら何かが違う。 起き上がれない。 ちょっとでも動くと体中が痛い・・・。 二日もろくに飲まず食わずで朦朧とした意識の中、 玄関からガチャガチャと音が聞こえた。 カギを開けて誰かが入ってきたようだ。 母親だった。 「あなた熱あるのね?どうしたの?」 「風邪ひいたみたい」 「食べてないのね?」 「うん」 「病院に行きましょう」 「でも・・・どうして?」 そうだ、何の前触れも連絡も無く 母親が来るなんて・・・? ああ、でも電話が鳴っていて 取れないときもあったしな・・・。 なんていうことを考えていたら、 「あのね・・・」 母は何だか寂しそうな顔をしていた。 その言葉の後を聞かないうちに、 私はまた意識が混濁してきてしまって、 最期までしっかりと聞きとれなかった。 次に気がついた時は病院のベッドの上だった。 「気がついたか?」 声をかけたのは父だった。 「あれ?どうしたの?」 「お前、肺炎で死にかけてたんだぞ」 「え?そうなの?」 「一週間もこんな状態だったんだ」 「そっか・・・お母さんは?」 「お母さんは・・・今風邪ひいて寝てるんだ」 「そっか、大丈夫なの?」 「心配しなくていいから休め」 「うん」 そして私は眠りについた。 夢の中では母親が、 私の為に薬を作ってくれている。 母特製の卵酒だ。 「あなたは昔からよく風邪を引いて・・・」 湯気の向こうで笑ってる。 「お母さん・・・」 自分の声にびっくりして、 ふと目を覚ますと妹がいた。 涙をうっすら浮かべている。 「どしたん?お父さんは?」 「あのね・・・姉ちゃん。 姉ちゃんがこんなんやから黙ってたんやけどね」 「ん?何?」 「お母さん、死んでしまったんよ。交通事故で」 「?????」 何?お母さんが?何で?どうして? 聞きたいことは山ほどあるのに声にならない。 「・・・いつ」 ようやく振り絞って出した言葉がそれだけだった。 私がここにこうして生きているのは母のお陰です。 父に聞きました。 自分が苦しんでいる時に、 既に亡くなっていた母は父の夢枕に立ち、 私が非常に危険であると伝えたそうです。 全然連絡が取れなくて不安だった父は、ハッと目覚めて、 まず警察に電話をして 様子を見に行ってもらったらしいのです。 実家から東京は1000キロはあるので・・・。 それで警察が訪ねたところ、 応答もないので不動産屋にカギを開けてもらい、 中に倒れていた私を救急車で運んだ・・・ とこういうわけでした。 父はお葬式やら何やらが色々とあったので、 妹が上京して世話をしてくれたらしいのです。 「お母さんがこんなことになって・・・ 姉ちゃんまでって・・・」 という妹の言葉の後に、父が言いました。 「いや、お母さんは お前を連れて行くようなことはせんってわっておったよ。 だから、お前が絶対に助かるって信じておった」 私はその言葉を聞いた途端に泣きました。 オイオイオイオイ泣きました。 みっともないくらい泣きました。 お母さん、私を助けてくれたの? お母さん、お母さんだって もっと苦しかったんじゃないの? お母さん、お母さん、 もっともっといっぱい親孝行したかったよ。 何で? 何で私を一緒に連れて行ってくれなかったの? そうすればこんなに辛い思いなんかしなくて済んだのに。 お母さん、もう会えないんだね・・・。 もう泣かないって決めたのに 涙ってどうして流れるんだろうね。 止まらないよ。 でも、私はちゃんと生きて、お母さんのような母親になるよ。 自分の子供を絶対に守ってみせるよ。 お母さん、お母さん・・・。 ありがとう。
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