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近所の子供を…
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携帯でメールをしながら歩いていると、右膝に何か当たった。 と思った次の瞬間、右側の地下通路への階段を子供が転げ落ちていくのが見えた。スタントマンのように横向きに回転しながら、だんだんと加速して転がっていく、2歳くらいの男の子。 転落していくその間もずっとおれの顔を泣き顔で見続けている。おれは妙に現実感がなく、それを観察していた。 一番下まで落ちた子供は2,3度回転してうつ伏せで止まった。そのままぴくりとも動かない。 やっとヤバイと気付いたおれは、他に人の目がないのを確認すると急いでその場を離れた。そして3日経った。 試験休みで昼まで寝ていて、飯を食うために降りていくと、母親が喪服にアイロンを当てていた。「今日お母さん、遠藤さん家のお通夜出ていろいろ手伝いするから。 おでん作ったから夜はお父さんとそれ食べて」「うん・・・」おれがまだ眠くてボーっとしていると、母は「かわいそうに、拓海くんまだ2歳になって間もないのに・・・」と喪服を広げながら言った近所の子供だった。知りたくなくても情報は次々入ってきた。 遠藤さん夫婦の、結婚して6年目に待ち望んでやっと授かった一人息子だったこと。夫婦はどちらも一人っ子で、どちらの両親にとっても初孫で、みんなが溺愛していたこと。 1ヶ月前に2歳の誕生日を向かえ、まだ乗れない三輪車をプレゼントにもらったこと。その三輪車がお棺の横に置かれ、遺影も誕生日のケーキを前にしての写真だったこと。 意識不明のまま入院していたその子が死ぬ間際に「まま、こわい」と言ったこと。・・・・・聞けば聞くほど鬱になったが、おれは自分のせいではないと自分に言い聞かせた。 おれにぶつからなくても転げ落ちていたかもしれないじゃないか。ちょろちょろしてるガキが悪い。 目を離した親が悪い。おれは悪くない。 おれのせいじゃない。休みが終わり、学校へ行った。 階段を下りるとき、何かが膝の裏を押してガクッとなった。よろめいたが特になにもない。 うしろにも誰もいない。何も思わず、少しだけ慎重に階段を下りた。 そして帰り道の駅の階段を下りる時。また何かがおれの脚を押した。 後ろを見てもなにもない。・・・・だが何かの感触があったのは確かだった。 1mにも満たない大きさの何かが、おれに体当たりしたような感触だ。体中の血が冷えた。 動悸がして、おれは焦って早足で駅を出た。早く帰ろう。 駅からつながっている歩道橋を降りて自転車に乗って、5分もすればもう家だ。歩道橋を歩き出したおれは、前から歩いてきた女の人と目があった。 30歳前後のショートカットの女性。なぜか目を見開いて立ちすくんで俺を凝視している。 その時。『まま!!このひと!!!』真後ろから大音響で子供の甲高い声が響き渡った。 おれは度肝を抜かれ、ここに居た全員が今のを聞いてしまった!と思いあわててその場から逃げ出そうと、階段へ走った。足がもつれる。 そこへまた何かが脚にぶつかってきた。おれは階段から転落した。 気がついたら病院だった。死なずにすんだ・・・・医者から説明を受け、母にむいてもらったりんごを食い、一人になって横になろうとした時、入り口のドアのすりガラスに小さい人影が映っているのが見えた。 ぼんやりと見える男の子の影。ぺたっと手のひらがガラスに押し付けられた。 おれは頭を抱えて目をつぶった。しばらくして目を開けると消えていた。 ・・・・・遠藤 拓海くんだ。おれを許さないつもりだ。 あれから下りの階段に近づくたび、後ろから精一杯の幼い力でおれを押している感触がある。だからおれは出来るだけ階段は使わない。 だんだんと、押す力が強くなっている。もし長い階段を下りなくてはいけなくなったら、今度こそ命がないかもしれない。
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