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河童に連れて行かれる
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先日、亡くなった祖父の部屋を整理してたら、祖父の書いた自分史(下書きのような感じ)が出てきて、その最後の方に少し不思議な文章があったので紹介します。 ~前章までであらかた私の人生における大きな事件については書き尽くした。事業の失敗、娘の病死等、辛いことはいくつか経験したが、周囲の人々に助けられ、振り返ってみれば概ね良い人生だったと思っている。 ところで、私はひとつだけ不思議な体験をしたことがある。夢でも見ていたのだろうと一笑に付されるのが分かっているので、家族も含め殆ど他人に話したことは無いが。 折角なので最後にそれについて記しておく。子供の頃、私はよく○○川の河原で遊んでいた。 ある日、特にその頃仲の良かったK君と遊んでいた時のこと。K君が川の上流まで行ってみようという。 上流のほうはおよそ人の通るような場所ではなく、あまり気乗りはしなかったが、意気地が無いと思われるのも酌であり一緒に行くことにした。二人で、拾った棒切れを振り回すでもなくブラブラと振り乍ら歩いてゆく。 三十分ほど歩いただろうか。K君がウワと声を上げる。 驚いたような顔で前を見ている。その視線の先を見ると銀色の小屋のようなものがあり、驚くべきはその傍に銀色、というよりは濡れた灰色のような色をした珍妙な生き物が二匹いる。 人間のように二本足で、目がやたらと大きく黒い。向こうもこちらに気付いているようだ。 私は驚くと同時に何ともいえない恐怖を感じ、体が硬直してしまっていた。恐怖のためか歯の芯がガツンと痛んだ。 一体あれは何なのか。あれが昔河童と呼ばれていた川に棲む化け物か。 一瞬のうちに様々なことを考えた。しかしその恐怖の時間もすぐに終わった。 気がつくと小屋も河童のようなものも消えていたのだ。気がつくと、というのも変だが、他に形容しようが無い。 K君とともに驚いていた次の瞬間、目の前の珍妙なもの達は消え、不思議なことにまだまだ西の空高くにあったはずの太陽が沈みかけていたのだ。夢だったのか。 だが決して夢ではない。その証拠にK君も同じものを見ていた。 気がつくとK君は鼻血を出していた。鼻血を拭い乍ら、河童じゃ、河童じゃと震えている。 いつも私より大胆なK君が、私よりも怯えている。妙なのは「河童に連れて行かれる」などと口走っている。 私が見たのとは似て非なる光景を見たのか。何はともあれ、早く家に帰りたかった。 K君と共に、薄暗くなってきた河原をもと来た方向へ一目散に走った。それきり、その体験は家に帰って家族に話すでもなく、またK君との間でも自然とその話は禁忌のような雰囲気になり殆ど話すことは無かった。 しかしそれから数年して、K君が私に最近例の河童の夢をよく見ると言い出す。K君は豪胆な人物だったが、その話をする時は心底怯えているように見えた。 私は気の毒になって、二人で悪い夢を見たのだ。忘れようと言ったが、あれは夢じゃない。 俺は河童に印を付けられている、俺は河童に呪われて死ぬかもしれぬと震えている。そんなことは無い、と励ますがK君の恐怖は鎮まらないようだった。 その一ヵ月ほど後、K君は突如行方不明となり私の前から永遠に姿を消した。K君のお母さんの話では、いつものように夜布団に入っていたのに、朝起きると神隠しのように消えていた。 布団は水がかかったようにびしょびしょになっていたという。水と聞いて私は河童を連想した。 お母さんは河童のことは知っているのだろうか、と思ったが、そのことは尋ねなかった。私とK君が見たのが何であったのか、それとK君の失踪が関係あるのかはまったくもって謎である。 謎ではあるが、誰がなんと言おうと私とK君が不思議なものを見たこと、そしてK君が謎の失踪をとげたことは事実であり、謎であるままにここに記しておく。
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