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検視小屋
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俺が友達の家に行った時に聞いた話。飲みに出ようと誘う俺を、半ば無理矢理ひき止めて聞かされた。その友達はマンションの5階に住んでいたのだが、ベランダから隣接する警察署の敷地を見下ろすことができた。裏側の職員駐車場みたいなとこで、隅に小さなコンクリの小屋があった。イナバ物置を一回り大きくした位の小さな小屋で、友達の部屋からほぼ正面の位置に観音開きのドアがある。ある日、友達がベランダで洗濯物を干していたら、紺色の作業服みたいなのを着た男(たぶん刑事)2人が、その建物にタンカを運び込もうとしていた。タンカには半透明のビニールに包まれた、何かが乗せられていた。それを見て友達はピンときたらしい。 そこは検視の為の小屋だった。ベランダからは角度があるため、小屋の奥までは見えなかったが、辛うじて、小屋の中央付近に置かれた金属製のベッドの脚だけが見えた。その友達は悪趣味な奴だったので、気持悪いとか思う前に、興味津々でそれからちょくちょく確認していたそうだ。死体が届いてないかどうかを。それまで気にも止めていなかったのに、意識して見だしたら結構見えるものらしく、洗濯物を干す際に結構な割合で、死体の搬入や、若い刑事が小屋の前で器具を洗う様子などを見ることができた。家族らしいのが来た時は、泣き声が聞こえたりしたそうだ。その日、友達がベランダで洗濯物を干しながら、いつものように検視小屋(正式名称は知らない)を確認したところ、ドアが開放されていた。それまでは、死体の出し入れの時以外はいつも閉じていたのに、その時はずっと開いていたそうだ。変だな?と思いながら友達が見ていたら、警察署から若い警察官が出て来て検視小屋に入っていった。しかし、その若い警察官はすぐに出てきたかと思うと、警察署の横の植え込みに走り寄り、ゲーゲーあげだした。検視小屋からデブの警察官が出てきて、吐いてる警察官に「しっかりせんか」みたいなこと怒鳴る。これはかなりのグロイ死体が来たんだなと思った友達は、ワクワクしながらそのまま見ていたらしい。しばらくして、若い警察官も持ち直したのか、また検視小屋に入っていった。友達は辛うじて見える入り口付近の床を見ていたが、小屋の奥から入口のほうに黄色い液体が流れてきたそうだ。赤なら血だろうけど、黄色って何だろ?と友達が思っていたら、いきなり青い足が見えた。ベッドの脚の横に、真っ青な足がダランと垂れた。警察官の白い手が伸びて、すぐに青い足を持ち上げたが、確かに見えたらしい。太くて、まるで力士みたいな足。ベッドからハミ出したんだなと思って、友達は死体見ちゃったよ!と興奮したそうだ。それから何日か後、夕暮れ時に友達が洗濯物を取り込んでいたら、検視小屋の横に人が立ってるいのに気が付いた。警察署の裏は建物の陰になっていて薄暗かったらしいが、凄く太った人が何もせず突っ立っている。こんな時間に誰だろうと思ってよく目を凝らしたら、最初は分からなかったが、どうも裸らしい。何で分からなかったかというと、全身が青と白と紫色のマダラ模様に染まっていたから。しかも、白い帽子を被っているように見えたのは、頭蓋骨が剥き出しになっていたからだ。何より印象的だったのが、太くて青い足。あの日見た足とそっくりな。友達はゲッと思ったらしいが、自称霊感の強い奴だから、特に慌てる事もなく放っておいた。その日から、度々その青い足の人を同じ場所で見かけるようになった。何回か見て気付いたらしいが、青い足の人を見た後は、必ず検視小屋に死体が運び込まれてくる。昼間でも夜でも、青い足の人が検視小屋の横にフラフラ立ち出したら、しばらくしてタンカが運び込まれる。運んできた警察官は、すぐ横に立つ青い足の人には気付かない。友達は、予知?それとも呪い?みたいな感じで、すっかり興奮して、しょっちゅうベランダの向こうを見るようになった。怖いとか思わないらしい。離れているし、まるでテレビの向こうのホラー映画を見る感覚なんだね。それも極めてリアルな。そこまで一気に話して、友達はニヤニヤしながら俺の顔を見た。そして、「どう?今から見てみる?いるかもしれないよ?」とベランダの方を指差す。悪趣味な奴と知ってたので、俺は無視して早く飲みに行こうと誘ったが、友達は俺がビビっていると思ったらしい。してやったりという顔で、「なんてね!実はそこの警察署、この春に建て替えしたんだけど、その時小屋も潰されたんだよ。だから見ようにも見えないから安心しろよ!」と笑った。俺はどうでもいいよと思いながら、「早く出よう」と催促した。なぜなら、友達には言わなかったけど、その部屋物凄く臭かったんだ。魚の内蔵が腐ったみたいな、それこそ吐いちゃうような臭いが充満してたよ。
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