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霊園
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これは俺が5年前に体験した、 世にも奇妙な話だ。 ある夏の日、 俺は友人である男Aの車に、 女Bと女Cを乗せドライブしていた。 時計はすでに0時を回っていた。 その日は雨がしとしとと降り続けており、 じめじめして生暖かい日だった。 A「どうせなら、肝試ししようぜ! なんか天気も気持ち悪いし。ははは」 そんなAの突拍子もない提案に、 他のみんなは嫌な表情を浮かべた。 なかでも一番嫌がっていたのは、 カエルとお化けが大の苦手だった俺である。 俺「いやいやいや。いいって! 帰って酒でも飲もうぜー」 そんな怖がる私を見て、 Aはますます面白がり、 いよいよ皆を説得にかかった。 A「わかったわかった。 んでも、どうせ帰り道だし、 ○○霊園にちょっとだけ寄ってこうよ。いいっしょ? 寄るだけ寄るだけ。すぐ帰るから。 そしたら飲もうぜ!パーっと!はは」 そんなノリノリのAの様子を見て、 後部座席に座る女性陣も俺も、 渋々ながら承諾してしまった。 雨は依然シトシトと、 フロントガラスにこびり付いてくる。 A「おっ、もうすぐだな!」 強がるかのように、 車内はたわいもない話で盛り上がっていた中、 そのAの言葉に3人は少し顔をこわばらせながら、 今から向かううっそうとした森に目を向けた。 ○○霊園は、国道から細い道へと入り、 400メートルほど森の中を進んだところにあった。 A「暗ぇーー!こえーー!ははは」 B「マジ怖いマジ怖い。やめようよ、やっぱり」 車は国道から、 その細い道へと進入した。 周りは木々がうっそうと生い茂り、 もちろん街灯など一つもなく、暗闇そのものだった。 車のライトだけを頼りに、 舗装されていないその道を、 ガタガタと車体を揺らしながら奥へと進む。 C「いやー!チョー怖い、マジ怖い。 つーか細くてユーターンできないじゃん!」 A「余裕余裕! どっかでターンできるって。 つーかマジ暗いな~」 後ろを振り返ると、 すでに国道は見えなくなっていた。 幾分目が慣れてきたものの、 そのことがかえって恐怖心をあおった。 あれだけ乗り気だったAも さすがに少し怖くなったのか、 CDのボリュームを上げた。 A「おっ!あそこにターンできそうな場所があるぞ!どうする?」 中間地点ぐらいなのだろうか。 道幅がやや広いところがあった。 そのAの言葉には、 すでに引き返したいという意思がこもっていたようにも思える。 俺「もういいって。帰ろうぜ!マジ勘弁だよ」 B「早くユーターン!」 A「ははは。おまえらビビリだなー。んじゃ帰っか」 C「マジもう無理。 つーかAもビビってんでしょ! 早く帰ろうよ!!」 そんなCの言葉に、 強がりのAは急に車のエンジンを停めた。 辺りは一瞬にして暗闇に閉ざされた。 今まで車内に大音量で流れていたCDも止まった。 ただ雨の音だけがシトシトと聞こえてくる。 俺「うわっ!」 B「きゃぁーー」 C「きゃあー!」 A「はっはは。やべー、マジでこえーな。 やべーやべー。ん?あれ…」 俺「マジ殺すぞA!! 早くエンジン付けろボケェ!」 B「なんなの、早くつけてよ!もう最悪―!」 A「あれ?あれ?つかねー。 なんだよ!つかねーよ!」 俺「おい、マジでふざけんなよ! 怖えーから早くつけろって!マジ殺すぞ!」 A「マジだって!つかねーんだって! お前やってみろよ!」 発狂してAを殴ってしまいそうな衝動を抑えながら、 車のキーへと手を伸ばした。 ガチャ、キンキンキンキーン キンキンキンキンキーン 俺「おい、なんだよ!マジかよ!」 キンキンキンキーン キンキンキンキンキーン スターターの金属音だけがむなしく鳴り響き、 エンジンはかからなかった。 俺「マジかよ! おまえ、余計なことすっからだろ! マジで殺すおまえー」 A「悪ぃって。つーか何でだろ? ちょっと見てくるわ。ちっ、最悪だよ!」 Aはボンネットを開け、 雨の中、車の外へと飛び出していった。 後ろの二人も大分怖がっているようで、 不安そうな表情を浮かべながら震えているようだ。 すると、後ろに座っていたBが突然、 B「ちょっと!マジ、あれ何? ちょっとあそこ見て見て、早く!」 Bの指差した方を見てみる。 車の左前方の森の中に、 何やら光っているものが見える。 俺「あっ!何だよ、あれ!」 後ろの二人はすでに発狂している。 俺も気絶しそうなほど怖かった。 その光がだんだんと近づいてくる。 なにやらライトのようにも見える。 なにか危険を感じた俺は、 Aを車内に戻すべくドアを開けようとした。 その瞬間その光の正体は、 突然車の目の前に現れた。 中年の男性のようだ。 つなぎのような服を着ていて、 手には懐中電灯を持っている。 こんな雨の日に傘も差していない。 Aはびっくりして車内に飛び戻ってきた。 A「なにあいつ?なんなの、あいつ? やべーよ、マジでやべーよ!」 その男は、 しきりに大声で何かを叫んでいるようだ。 幾分強くなった雨脚のせいでよく聞き取れなかったが、 確かに険しい表情で怒鳴り声を発している。 ドンドンドンドン 男は運転席の窓を強く叩いた。 もう何がなんだかわからない。 頭の中が真っ白だ。 ドンドンドンドンドンドンドンドン 「あ…」 ドンドンドンドンドンドンドンドン 「あけろ…」 ようやく聞き取れた男の言葉に、 Aは無意識にドアを開けてしまった。 A「すいませんすいません! エンジンがかからなくて、すいません…」 男はあいかわらず何かを言っている。 「こ…おま…だな…どけ…」 男はグイとAを車の外へと引っ張り出して、 運転席へと座った。 キンキンキンキン…ブルンブルンブルルルルル… 突然エンジンがかかった。 Aを運転席に戻したその男は、 ものすごい大きな声で叫んだ。 「ここはお前達が来る場所じゃないんだ!」 混乱して、 その後どうしたのかよく覚えていないが、 気付くと4人はコンビニにいた。 俺「マジ怖かった…」 A「やばかったなー、あいつ何者なんだよ…」 後ろの女の子二人は、 声を出して泣いている。 A「落ち着いて、 とりあえず便所でも行くか?」 そのコンビニのトイレは、 外に設置してあった。 車を降りた4人は、 フラフラな足取りで便所へと向かう。 そこで俺は、 ふとあることに気付いた。 俺「おいっ! A、おまえ、なんで血ついてんの?」 A「え?嘘!あっ…」 Aの右手は血で赤く染まっていた。 女の子二人は気を失ったのか、 その場に崩れ落ちた。 A「なんで…なんだよ、この血…」 俺とAは急いで便所にある洗面所で、 その手についた血を洗い流した。 A「気持ちわりーよ。なんだよ、この血…」 ジャブジャブ 俺「んでも、怪我はしてねーみたいだな」 A「そうだな。あっ!ま…まさか…」 俺「えっ…」 Aがジーンズの右ポケットから取り出した車の鍵は、 血で真っ赤に染まっていた。 なにやら毛のようなものも付いている!? ぎゃぁーーーーーー!!! その日は朝になるまで、 俺の部屋で4人で呆然としていた。 外はまだ雨が降り続いていた…
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