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理系魂
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大学付きの工業高校に通っていた時の話。 その高校で電子回路の授業を受け持つ先生がいたんだが、 良い先生で、無駄に熱くてウザイやらいい人やらで、 まぁ愛憎半ばな対応される先生だった。 ここではI先生としてよう。 このI先生が結婚する事になって家を買ったわけですよ。 でまぁ、生徒の数人が引っ越しを手伝う事になったのね。 俺も友人に誘われて参加ですよ、 おごって貰える焼き肉目当てに。 でも当日になって引っ越し先の家に着いた瞬間、 全員ドン引きですよ。 ガチでドン引き。 二階建ての小さい庭付きの古い和風建築の家だったんだけど、 どう見ても幽霊屋敷。 人が住んでいないってのを差し引いて見ても幽霊屋敷。 だって窓という窓にお札貼ってるんだもん。 線の細い美人って感じの奥さんなんか、 家見た瞬間に泣きそうになってる。 訊いたら、 家選びは旦那に任せて見てなかったって。 あんた自分の住む家ぐらいは自分で確認しろよと。 でもI先生は一人元気、めっちゃ元気。 「俺はこういう古風な和風建築が大好きなんだ!」 って、OK分かったから黙れよ的な空気。 意気揚々と玄関の扉を開けて、 『お前等こいよ!』的なジェスチャー、マジうぜぇ。 中の雰囲気は外見に輪をかけて最悪で、 奥さん顔面ブルーレイ。 俺は奥さんの顔色が最悪になる瞬間をバッチリ確認。 壁一面に人間の顔みたいなシミが多数。 先生はハイテンションで、 「空気入れ替えるぞー」 って言いながら、 明らかに封印風に貼ってるお札を びりびり剥がしながら窓を開けまくる。 窓を開けても あんまり家の中が明るく感じられなかった。 顔面ブルーレイの奥さんに対して、 「ここは将来子供部屋にしよー」的な事を言ってる。 奥さん無言。 肝心の引っ越し作業自体は、 先生の友人と俺達生徒でつつがなく終了。 奥さんは、 キッチンが近代的なというよりも、 家の古さとは明らかに不釣り合いなシステムキッチンを見て、 多少顔色復活。 トイレ、風呂、キッチンは、 ちょっと前に改装されたそうだ。 不動産屋の涙ぐましい努力の跡。 報酬の焼き肉を食ってる時に、 奥さんが何度か唇を噛みながら 「大丈夫、大丈夫」 って呟いてるのを、 俺含めて生徒が数人確認。 で、引っ越しから一週間後。 先生が授業の中の雑談で、 奥さんが幽霊を見たとか笑いながら話す。 明らかにウケを取れるだろう的な感じで。 だが、 俺達が持ち帰った先生宅の写真を見て知っていたクラスメイトは 全員ドン引き。 行った俺達は全員あぁやっぱりと思う。 更に一週間後に先生が、 奥さんが実家に帰るとか言い出してると 授業中にぼやく。 全員あぁやっぱり的な空気。 先生の話を軽く纏めると、 夜中に廊下を歩く人の足音が、 夜中に目を覚ますと目の前に女やら男やら子供が、 風呂場の磨りガラスの向こうに人影が、 本棚の本と本の隙間から男がこちらを覗いてる、 廊下を千切れた腕がはっていた、 ガラス窓に張り付く女等々を、 全て奥さん一人が何度も目撃しているとの事。 「そんなわけないのにねー」 と先生。 その後に、 こういった事実錯誤や錯覚が 脳のどういった機能による物かを延々と説明。 更に一週間後に先生、 奥さんが引っ越ししないと離婚するとか言い出したけど、 俺はあの家が好きだと言い出す。 もちろん全員ドン引き。 あの家が好きで引っ越したくないから、 幽霊なんかいないというのを奥さんに証明してあげるんだ! 的な事を言い、 人手がいるから誰か手伝ってくれと言うが、 勿論全員がそんな家に行きたいと思うわけもなく 誰も手を挙げない。 見かねた友人が手を挙げたので、 仕方なく俺も手を挙げる。 友情って大事よ? で、当日ですよ当日。 引っ越しの時に見た先生の友人も来てる。 声をかけると 「君もこういうの好きなの?」 と訊かれる。 そんな訳ないだろうと答えると、 「こういうのって理系魂が震えない?」 って震えるかボケ。 先生、俺達を前に軽く演説、 「この家が呪われているというのなら、 呪われている物的証拠があるはずだ」 その時点でなんか違う。 涙目な奥さんを無視して、 「それを今日は探して壊します!」 と宣言。 奥さん相変わらず美人。 で、家捜し開始。 発見された物を覚えてる物だけ。 大量の球体関節の人形の右腕だけ、 十体くらいの頭のない仏像、 お札で塗り固められた球体の何か、 正気の人間が描いたとはとうてい思えない絵が数枚、 紐でガッチガチに縛られた上にお札が貼りまくっている小さい木箱、 多分ネズミの骨と思われる物が大量に入った壺、 妙な染みのある掛け軸。 他にも色々あったはずだが、 それらを家の天井裏や床下、 まだ使ってない部屋の押し入れ等から回収し、 庭に並べて先生が唸る。 「こんなにもガラクタを放置した物件を平気で売るなんて!」 先生憤る場所が違います。 でも少し納得いくぐらいに、 何か曰くありそうな物が大量に発見される。 しかし、ここでさすがのI先生も困る事に。 「捨てるの大変だなぁ」 あーそうですか。 ここで先生の友人が提案。 「古そうな物は知り合いの教授に要るかどうか訊いておく、 要らない時は大学で処分しとくよ」 との事。 先生の友人が携帯で更に友人を呼び出し、 車を持ってきて貰う。 ここで殆どの物が回収される。 庭先に残った物は、 ネズミの骨のような物がいっぱい入った壺と、絵。 先生おもむろに絵に火を付ける。 奥さんが涙目でこっちを見るが、 そんな目で見られても。 「壺はどうするかなー」 と言いながら壺を持とうとして、 先生壺を落として割る。 奥さんの顔が引きつって硬直するのを俺は目撃する。 友人を見ると 友人も顔が引きつっていた。 I先生は 「アチャー」 とか言いながら、 箒とちり取りで壺の破片と骨を集める。 集め終わると、 おもむろに家の中に戻り、 持ってきた四角いクッキーの空き缶に破片と骨を入れる。 「燃えない日でいいのかな?」 と先生の友人と相談する。 「これで良し!」 と宣言。 何が良しなのか理解できないまま終了。 帰りの電車で友人が、 「初めて幽霊見た」 と俺に告白。 友人いわく、 「壺を割った瞬間に、 庭中が黒いモヤみたいな人影でイッパイになって、 ゾロゾロと歩いて出て行った」 だそうだ。 後日、先生が嬉しそうに 「奥さんが実家に帰ると言わなくなった」 と俺達に報告してくれた。
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