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倉庫会社の休憩室
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3年ほど前の事です。当時、私は倉庫会社の配送担当をしていました。その日は仕事が終わってから仲間と一緒に飲みに行き、その後2軒3軒と飲み歩くうちに、気が付くと終電は無くなっていました。翌日は早朝から積み込みと配送があったので、私は会社に泊まることにしました。倉庫の横にある事務所の2階に休憩室があり、早番や遅番のドライバーは、そこで仮眠を取ることが良くありました。ただ、深夜には「出る」という噂があって、そこで夜を明かす人はほとんどいませんでした。 その噂のことは知っていたのですが、生まれてこの方、怪異などとは縁がなく、まるっきり心霊音痴だった私は、かなり酔っていたせいもあって、あまり深く考えることもなく、休憩室の畳の上で横になるとすぐに眠ってしまいました。どれぐらい眠っていたのか、私は電話の音で目が覚めました。ピリリリリッピリリリリッ事務所の電話が鳴っています。こんな夜中に誰だろう?そう思いながらも、起きるのが面倒臭かったので放っておきました。しかし、電話は執拗に鳴り続けました。ピリリリリッピリリリリッボリュームが最大に設定してあるせいか、物凄くうるさい。いい加減うんざりして、身を起こそうとした時、ドンドンドンッ!1階にある事務所の入り口のドアが叩かれる音がしました。不審に思って、動作を止め耳を澄ますと、今度はドアを引っ掻くような音がします。ガリ…ガリ…ガリ…ガリ…何だか怖くなって、私は畳の上に半身を起こしたまま息を潜めていました。ピリ……と、不意に鳴り続けていた電話の呼び出し音が止みました。同時に、ドアの物音もしなくなりました。すると今度は、ぼそぼそと人の声がします。ドアの外で誰かが喋っているようですが、話の内容はわかりません。何が起きているのか全くわかりませんでしたが、ひどく嫌な予感がしたので、私は耳だけに神経を集中して、物音を立てないようにジッとしていました。話し声は断続的に、ぼそり、ぼそり、と聞こえてきます。複数の男の声のように思えました。やがて、女の声が加わるとすぐに声は止み、周囲には静けさが戻ってきました。何が何だか良くわからないまま、しばらくは様子を伺っていましたが、そのうち張りつめていた気が緩んだのか、いつしか私は眠ってしまいました。次の日、私は早朝に目を覚まし、倉庫側のドアから倉庫に入り、一人で積み込み作業をしていました。すると、事務所の入り口の辺りに人が集まっているのが見えました。作業の手を止めて行ってみると、昨日物音がしていたドアに引っ掻いたような傷が残っています。「空き巣狙いなんじゃないのか?」私の話を聞いた部長がそう言って、一応警察に連絡することになりました。夕方、配送を終えて事務所へ戻ると、私の顔を見た部長が「警察へ行ってくれ」と言い出しました。「今日、近所で倉庫荒らしが捕まったらしいんだが、その関連で昨日の話が聞きたいそうだ」私は部長の車で警察に行くことになりました。警察署では、簡単な事情聴取を受け、捕まった倉庫荒らしの話を聞きました。警察によると、犯人は中国人の窃盗団だということでした。彼らは、狙いを付けた倉庫会社に電話を入れて不在確認をし、そのうえで、電話が鳴りっぱなしであれば、多少の物音を立てても気にすることなく、工具でドアをこじ開けて中に侵入し、金品を奪ってトンズラする、という手口で倉庫を荒らしていたそうです。「万が一の時に備えて、奴ら拳銃も持っていたんです」取り調べの警官がそう言うのを聞いて、あの日侵入してきた窃盗団に見つかっていたら、と思うとゾッとしました。続けて、警官が気になることを聞いてきました。「昨夜、あなたは電話には出なかったとおっしゃいましたが、本当ですか?」私が「はい」と答えると、警官はしばらく考え込むような素振りを見せてから、こう語り始めました。「…あいつら、あなたの会社へかけた電話に誰かが出たと、そう言ってるんですよ。だから、ドアをこじ開けるのを止めて、様子を伺っていたらしいんですが…その時、そこで何があったのか、誰も話そうとしないんです」警官はちょっと困ったような顔で言いました。「捕まった時にはあいつら、あなたの会社の近くに止めた車の中で、ブルブル震えていたんですよ。大の男が4人揃って。どう考えてもおかしいでしょう」「男が4人…ですか」「ええ、一網打尽って訳でして。それについては、私らもホッとしておるんですがね…」それで、私は昨日の事を思い出しました。電話が切れた後、ドアの外にいたのは凶器を持った中国人の男達だった。するとあの時、声がふっつりと止む直前に聞こえた女の声。あれは誰の声だったんでしょう?
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