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山で気分が高揚する
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先輩の話。一人で山を歩いていると突然、気分がどうしようもなく高揚したのだという。先輩はまず自分の歩くペースを乱さない人で、常に冷静な性格だったのだが、何故かその時は、全力で何処までも走りたくなったのだそうだ。「わはははははは!」と高笑いを響かせながら、普段は出さないような凄いスピードで山道を駆け出した。 自分でも不思議なことに、とても身体が軽く、急勾配の上り坂でもまったく駆ける速度が落ちない。そのままどんどんと、自分でも信じられない速度にまで加速していく。堪らない快感だったという。岩場を飛ぶように駆け上った時には、まるで天狗にでもなった気がした。岩に取り付いていた登山者が、目を丸くして先輩を見ていた。そんな感じで全力疾走しているうち、意識を失ったらしい。電球が切れるように、パッと意識が途切れたそうだ。気が付けば先輩は叢に倒れていて、誰かに介抱されていた。「やぁ目が覚めたね。身体は大丈夫かい?」身体の節々が痛かった。限界近い力で全力疾走したような感じ。礼を述べながら話をすると、世話してくれていたその人は、岩場で追い越した登山者だったとわかった。「驚いたよ、僕の頭の上をタッタッタって飛び越えていくんだから。どこかの修験者か山伏かと思ったよ」そう彼に言われた先輩は、「山を歩いていると、突然全力で走りたくなったんです。でも何故そんな気持ちになったのか、全然わからない。あんな飛ぶように走るのなんて、自分には絶対できない筈なんです」そんなことを訴えた。その人はニコリと笑って答えた。「山に呑まれたね。天狗にでも憑かれたかな。身体に無理させているだろうし、しばらく休んでから下りるとしよう」結局、下山するまで一緒に行動してもらったのだという。何度も礼を述べ、ペコペコと頭を下げてから別れたそうだ。「迷惑掛けちゃったけど、本当に助かったよ。あれ以来、薬とか栄養剤とか、そちらの装備にも気を使うようになった。山に呑まれた後で目が覚めた時、傷だらけだったり疲労困憊だったりしたら大変だしな」幸いにも先輩はその後、山に呑まれてはいないそうだ。
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