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三頭山の小屋
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1991
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中編4分
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三頭山の件。こっちも友人連れの時の話。当時の自分は(今もだが)金もなくて、無人小屋や避難小屋を利用した山行をしてた。先述の御前山同様に奥多摩は近かったから、よく出掛けた山域の一つだったんだ。麓の数馬にバスで着いたのが14:00を過ぎた頃で、当時の地図に載っていた破線状の山道をコースに選んで出発した。何しろそこを使えば、小屋の近くに突き上げて到着出来ると思ったから。 周遊道路脇の滝の左岸を流れに沿って歩くと、突然視界が開けて、一つの炭焼き窯が目に入った。かすかに登る煙と人がいることに気付くのは、ほぼ同時だった。老人が一人、窯の近くに座って自分らを見てる・・・何だ!おまえらは!?と。会釈して道を登ると、いつしか踏み後から道が無くなったてしまい途方に。老人の元に戻り道を尋ねると、「そんな道はない」との返事。避難小屋に泊まる旨を伝えた瞬間、「あそこに泊まるのはよせ、絶対やめろ!」と語気強く言われたんだ。日没も迫り、何としても小屋に行きたかったので、別のコースを選び登ることにして出発。友人等と「何だ、今の表情は!?」なんて話しながらね。それから数時間後に目的の小屋に着いた時にゃ、日もとっぷり暮れて、夜の気配がすぐにそこまで迫ってた。今じゃ綺麗なログハウス調の小屋だが、当時の小屋は薄暗く“出て”もおかしくない感じだった。荷物を降ろして食事の準備に入ると、静かな室内には、ゴーッと言うストーブの力強い音だけが心地よく響き渡ってた。翌日のコース確認を済ませ、シュラフに身を入れたのはそれからあと。風が強く吹き出したのか、樹の枝でも当たるのだろう。時折コンコンと。数時間後、フッと人の気配に気付いて目覚めたのは午前1時過ぎ。自分達以外に誰かが小屋内の隅に居る!間違いない!誰かが就寝中に来た様子も音も一切無かったのに・・・一体誰だ。その内になんかブツブツ話すんだよ、この人影がね。でも耳を澄ますと、女の声だとすぐに分かった。ガサッとかサササーッと音がする。狭い範囲だが人影は動き回ってる。怖くて友人を起こすと、同時に声も人影もスーッと消えてしまった。実は彼も異変に気付いていたらしい。少なくとも自分よりも先に。朝になり、人影の場所に行った一人が大声で叫んだ。「何だコレ!!!」みんなが駆け寄った床には、女の髪か分からんが長い髪が束状に散らばっていたんだ。それも尋常な量じゃない、本当に多量に。即行で小屋を出たのは言うまでもない。数年後、あの炭焼き老人が気掛かりで再訪したところ、窯は崩れていて、周囲は荒涼とした風景に変わっていた。帰途、麓の店などで老人の事を尋ねて廻ったが、誰もが「そんな老人は村内に居ないよ」と言う。記憶を辿り人着を言っても、「地元の者じゃないよ」とね。更には、炭焼き窯や炭焼きの事実すら知らなかった。自分は驚いたね。狭い山村で誰も知らないなんて事が本当に有り得るのか?って。一体あの老人は、小屋泊まり、いや、行くことすら必死に止めたのか・・・。何かを知ってたんだろうな。今となっては解明出来ず残念だが。
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