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無数の手形
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これは俺の先輩の友達の話。 その先輩は、去年の夏に 大○水峠って言う地元じゃ結構有名な心霊スポットに 車で深夜に三人で行ったらしい。 その三人を仮にA.B.Cとしよう (Aは俺の先輩の友達) その峠がある道は昼でも車の通りが少なく、 その日の夜なんて対向車線を走れるぐらいの少なさだったらしい。 その三人は全然幽霊なんて信じない人で 道中酒なんか飲みながらわーわーやりながら走ってたらしいんだ。 んでガヤガヤやってるうちに 峠のすぐそこまで来たんだ。 「遠くから来たんだし、 どうせならゆっくり通ってこうや」 運転役のBがそう言って ゆっくり車を走らせた。 そしてついに峠の看板が遠くに見え始めた頃、 後部座席にAと一緒に座っていたCが 「おい。あそこ人いねーか?」 と看板近くのガードレールの向こうの草むらを指差しながら言った。 暗くてよく見えないが 確かに1.5mほどある黒っぽい?何かがそこにあるのがわかる。 確かに人のような形にも見えるが、 こんな夜中、しかも山奥の峠に人がいるわけがない。 なのでAは 「標識だろ。何ビビってんのよ」 なんて言ってCを冷やかした。 「とりあえず近づいてみるか」 そう言ってBは 車をガードレールすれすれにしながら 車をより一層ノロノロと走らせた。 そしてその黒い何かに5メートルほど近づいたときに それが一体何であるかがわかり、三人は絶句した。 そこには確かに髪の長い女が立っていた。 しかしそいつの顔は赤黒く、 目がなく真っ黒な穴が二個、 ポッカリと空いていた。 そして口を顎が外れるんじゃないかというぐらい大きく開けていて、 その開けた口が小刻みに上下に動いている。 そして車の窓を閉めているにもかかわらず、 「ゴヒュッ‥‥ゴッ‥‥ゴヒュ‥‥」 という呼吸音らしき音が はっきりと聞こえてきたという。 Aたちはしばらく動けずに ただじっとそいつを見つめていた。 いや恐怖で顔が動かせなかったのだ。 その時間はほんの十数秒だったが Aには何分にも感じられたという。 どれくらい経った時だろうか。 Bがアクセルを全開にして 全速力で車を発進させた。 その時もAはそいつから目を離せずにいた。 そしてそいつは 確かに猛スピードで去っていく車を目で追いかけていたという。 そしてそいつが見えなくなり 体が動かせるようになった瞬間、 全部の窓から 「ズダダダダダダダダダダダダダダダンッッ!!!!」 というものすごい音がした。 見ると無数の手が窓を叩きまくり、 無数の手形が魔度を埋め尽くし始めている。 「うああああああああああああ!」 BやAが発狂したように叫ぶ。 車の中はもう阿鼻叫喚だった。 「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!」 Aさんはただただ必死に 恐怖をこらえながら経を唱えたという。 「助けてくれー!」 「すいませんすいませんすいません!」 色々な叫びや嗚咽が車内に飛び交い始めてから どれくらい経っただろうか。 ふと気付くともう窓を叩く音は聞こえなかったが、 まだCは 「すいませんすいませんすいません!」 と言い続けている。 「おい!Cおい!もう大丈夫だ!終わってる!」 AはCを揺さぶりながら言った。 するとCは正気を取り戻したらしく 「あ、俺達生きてるよな!良かったああ!」 と泣きながら安堵の表情を見せた。 「なんだったんだよあれ‥」 運転しながらBが 「あれ、絶対この世のものじゃねえ、 あんなやつがこの世にいるわけがねえ!」 と歯を食いしばりながら言った。 「とりあえず何処かで一旦落ち着こう。 近くにガソリンスタンドがあるみたいだからそこに行く」 そう言ってBは運転にまた戻った。 数分すると遠くに明かりが見えてきた。 ガソリンスタンドだ。 良かった!人がいるんだな! そう思うとAたちは自然に涙が出てきた。 そしてガソリンスタンドに入り三人は休憩した。 「もうこんなこと絶対にやめよう。」 Bが言った。 「すいませんでした。 もう許してくださいって謝ろう」 Aがそう言うと見んな頷いて謝った。 そして気分が落着いて改めて窓を見ると 無数の手形ががびっしりと残っている。 「これ気味悪いから落としてもらおう」 Bがそう言って店員を呼びに行った。 しばらくすると雑巾とバケツを持った若い店員さんが来て、 車を見るなり、 「うわあ、一体どうしたんですか! すごい手形の量ですねえ。」 とびっくりしながら言った。 「はい、その、いたずらで手形をね……。」 Bが苦笑いをしながら言った。 「はーッ。ずいぶん頑張りましたねー! こっちもやりがいがありますよー」 なんて笑いながら店員さんは雑巾をバケツに入れて、 絞ると早速窓を拭き始めた。 すると急に 「なーんだお客さん、 早く言ってくださいよ〜! 意地悪だな〜!」 と店員さんが笑いながら言ってきた。 「はい?何が意地悪なんですか?」 全く身に覚えのないことに Bは困惑して聞き返した。 「え、だってお客さんがやったんじゃ無いんですか?これ?」 あまりにもBが困惑した顔で聞き返すので、 店員さんも困惑した表情で聞き返した。 「え?だってこの手形、内側から付いてますよね? それ、お客さんがやったんじゃ無いんですか?」 「あれからもう一年の話だなあ」 先輩はそう言いながら俺にこの話をしてくれた。 「そういやあいつあの話ししてから 全然連絡が取れねーんだよな…… 大丈夫かな…」 先輩はどこか遠くを見ながらそう言った。
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