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深夜の侵入者
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スーパーマーケットの夜間警備をやっていた頃の話です。 時間についてはそれどころじゃなかったので覚えていません。 それほど恐ろしかったです。 その日は先輩二人と警備室で休憩をしていました。 本当は先輩は三人なのですが、 一人がインフルエンザで病欠したので、 先輩二人と僕一人で夜間警備をしました。 そのうち一人、 Aさんは仮眠をとっていました。 僕が監視カメラの映像を見ていると、 二階の衣服売り場の天井のダクトが外れ、 何者かが侵入する映像が映りました。 見回りから帰ってきたばかりで、 ラーメンを食べてるもう一人、 Bさんに、ちょっと見てきますと言って無線機を持ち、 二階へと向かいました。 今まで深夜の侵入と言えば、 学生のイタズラか丸腰のドロボウくらいで、 取り押さえする時の持ち物は懐中電灯と特殊警棒で十分でした。 なのでその日も僕は懐中電灯と特殊警棒のみで 不審者を探しに行きました。 そのスーパーはちょっと大きめで、 しま〇らとかマツ〇ヨとかが入ってるもので、 二階建てでした。 エスカレーターは止まっているので、 非常階段から二階に上がり、中に入ると、 酷い有様でした。 片っ端から衣服のハンガーが倒され、 シャッターが破壊されていました。 「ひっでぇな……」 なんてありがちなセリフを呟きながら、 無線にて先輩にありのままの現状を伝え、 不審者をカメラで探すよう頼みました。 「誰だ!出てこい!」 何度も問いかけながら 僕はライトを持って二階を隅々まで探しました。 しかし、不審者の気配はありません。 一階に行ったか。 非常階段から行こうかと思いましたが、 犯人を見逃さぬよう 店内のエスカレーター脇の階段を通りました。 案の定エスカレーターの通行禁止の柵がなぎ倒され、 本の棚がひっくり返されていました。 店内の惨状に呆然としていると、 魚類売り場の方からバタンという音が。 それとほぼ同時に 無線に先輩達からの慌ただしい声が聞こえてきました。 『まずいぞ。奴は泥棒じゃねえ。 何が目的だ?』 「どうしました?」 『さっきから両腕振り回したり四つん這いになったりで 明らかに挙動不審だ。 ちょっとヤバイ奴かも知れん。 今奴は厨房(肉や魚をさばくところです)に入ってった。 警察にも電話入れたからちょっと先行っててくれ。 俺も後から行く。 くれぐれも気をつけろよ』 「分かりました」 いわゆるマジキチというやつだろう。 僕は小走りで厨房へと向かいました。 ライトを構え、 ゆっくりと厨房のドアを開けました。 「誰だ!バレないとでも思ったか! 警察が来るぞ!」 返事はありません。 あちこち探しましたが、 本当にいません。 確かにここにいるはずが。 すると無線がけたたましくなりました。 『おわっ…………おい、聞こえるか!? 返事してくれ! ……オッオッオッ』 「どうしました!?」 『オッオッオッ………… ドアを叩いてるのはお前か!?』 「違います。 僕は厨房です!」 『……笑えない冗談はやめろ!』 「だから冗談じゃありませんて!」 僕は厨房から出て、 近場の監視カメラに手を振りました。 『オッオッオッ…… マジかよ……奴が… オッオッオッ…俺達の…… オッオッオッ…… 警備員室のドアを叩いてる……?』 「なんですって?」 僕は走って店内から警備員室の方へ走り、 少し遠くで観察しました。 確かに、暗くて良く見えませんが、 何者かが警備員室の前で荒ぶっています。 ドアを叩く音が響きます。 それと、 「オォッオォッオォッオォッオォッオォッ」 という低い声。 息継ぎするまもなく続きます。 さすがにそれをライトで照らす根性はありません。 『危険だ。君は何もしなくていい。 とりあえず待機しよう。 もう少しで警察が来る。 何とかして戻ってきてくれ』 「分かりました」 踵をかえし階段を駆け上がります。 瞬間、警備員室の前の音のパターンが一瞬変わった気がし、 嫌な予感がして二階の物陰に隠れました。 予感は当たり、 奴が僕の後を付けてきました。 「オォッオォッオォッオォッ」 非常灯の明かりに照らされ、 奴はパジャマ姿で、頭髪は皆無、 酷く痩せてるように見えましたが、 やたら脚が異様に太く見えました。 「オォッオッオッオ」 僕の姿を確認出来ず、 奴はまた下へと降りていきました。 「ダメですね。 気配を察知して付いてきます。 足の速さ的にも外ルートだと そっちに着くまでに僕が追いつかれます。」 『そうか……音で何とかならんか?』 仮眠をとっていたAさんでした。 「音ですか?」 『ゲームよくやるからね。 現実でも通用するかどうかは分からないけど』 「音……よく無線の音聞かれませんでしたね。 僕の声も」 『君の無線機をインカム外して大音量にして、 少し離れたところに置いてよ。 無線機置いたらなんか合図して。 1分後に大声出すよ。 それで引き付けてみよう。 奴が釣れたらこっちのドアまで来て。 5回叩いたら入れてあげる』 「策士ですね(笑)分かりました」 僕はちょうど店の中央、 文房具売り場の床に無線機を置き、 階段横のスペースに隠れました。 そこで近くの監視カメラにOKサインを出しました。 腕時計で1分を数えます。 「オォッオォッオォッ」 え? 奴が真正面のレジのところを 激しく腕を振り回して歩きます。 1分あれば、 奴は僕のところまで来れます。 息を殺しひたすら自分の存在を消そうとしますが、 奴は僕の前までやって来ました。 そして、 奴が僕の前で静止した直後、 『うわーーーっ!』 無線の声を聞きつけ、 奴は恐ろしい程早く方向転換し 文房具売り場へと走り出しました。 その時一瞬目が合いました。 黒目の面積がとても広くて恐ろしかった。 僕は猛ダッシュで警備員室へと走りました。 警備員室のドアは酷く凹んでいました。 遠くでバキッと音がします。 無線機の音が消えたので 壊されたのが分かります。 あの声も聞こえます。 「オッオッオッ」 声の主はこちらに向かっています。 急いで5回叩きました。 先輩は僕を引きずり込み、 またドアに鍵をかけました。 僕は泣いていました。 号泣でした。 その後警察が到着し、奴を探しましたが 既にどこかへ行っていました。 初めは信じてくれませんでした。 何せ、奴の侵入経路が通気口で、 通気口はとても人が通れるような広さでは無かったからです。 店の荒れ模様と監視カメラの映像を見て、 信じてくれました。 映像の検証により、 奴の動き方からして全身を骨折、 又は脱臼していたという事実が判明しました。 骨折してもなお、 動き続け棚を倒したり走り回ったり出来る奴の正体は 未だに分かっていません。 以上の結論を見ての通り、 奴はまだ捕まっていません。
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